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午睡

響くノック。

反射的に背筋が伸びる。



「お嬢様、カイエン様がいらっしゃいました」

レーラはそう言ってから、テーブルの上のカップを片付けた。

珍しく、眠気覚ましに飲んでいたコーヒーはすっかり空になっていた。


「カイエン様にお待ちいただいて、少しお休みになりますか?」

「大丈夫よ、ありがとう。お通しして」


婚約パーティが終わってから数日間、出席者にお詫び状をしたため続けた。


(身体がバキバキだわ…)


私たちのせいではないかもしれないが、祝いの席が台無しになったのも事実だ。


後日、パルマの父君、ロセッティ男爵が謝罪に来たが、婚約パーティをめちゃくちゃにしたことについて、随分と要領の得ない釈明が続いた。

「泣き喚いて帰ってきたと思ったら、娘の身体中に変な文字が書かれておって、消えんのです。パルマに聞いても泣くばかりで…」

と言っていたが、父が

「それで?」

と言うとロセッティ男爵は明らかにたじろいだ。

そして父は数年来の商談相手との取引を中断した。

これにはロセッティ男爵も大慌てで、何とか続けてもらえないかと懇願していたが

「そちらの心がけ次第ですな」

と父が言うと、ロセッティ男爵は肩を落として帰って行った。

パルマはどうやら呪いに関して口をつぐんでいるようだ。


(まあ、それはそうよね)


「全く、商売の心配とは…本当に謝罪に来たとは思えないな」

静かに父は怒っていた。



私はと言うと、体中の漢字が嘘のように消えた。

長年に亘り私を縛っていたもの。

しかし、その最後はあっけなかった。


ただ、太ももには"呪"の一字がごく薄く残った。

長い間書かれた文字は色素沈着を起こしたようだが、私はパルマの念の強さにゾッとした。




身体をうんと伸ばし、カイエンが待つ応接間へ向かう。

軽くノックをして扉を開けると、そこには愛しい人が待っていて心が跳ねる。


「カイエン様、お会いしたかったですわ。婚約パーティ以来ですね」

「招待者全員にお詫び状を書いてくださったのでしょう?セレン様が一任してくださった事に心より感謝申し上げます。お陰で僕の仕事も一区切り着きましたので、本日は心置きなくセレン様と馬車に揺られることができます」


カイエンは私の手を取り、お茶もそこそこに馬車に向かった。

馬車に乗り込むなり

「眠っていても構わないですよ」

と言ってくれたが、カイエンだって疲れているはずだった。


南の領地に向けて走る馬車。

カイエンは時折目を擦る。


「少し…休みませんか、お互い」

言って向かい合わせだった席を立ち、カイエンの隣に座る。


頬に手が伸びる。

午後の日差しの中、はじめて唇を重ねた。

まるでそうすることが自然かのように。


「ずるいことをしました」

「?」

「僕が自分自身を止められなくても、今なら貴方は何も咎めないでしょう?」

熱っぽい声が耳にかかる。


「疲れているのでしょう?」

カイエンはぐっと堪えたが、やがてこくりと頷く。

「…少しだけ…目を瞑りましょう」


まどろみはすぐに訪れる。


(幸せだ)

鼻をくすぐるカイエンの匂いも、微かな吐息も、この人は私の隣にいてくれるという証明のようだった。


指の間を骨っぽい指が滑ってくる。


私たちはお互いの肩に頭を預け、ふわふわとした不思議な気持ちで、なんだかとっても贅沢な午睡に身を投じた。


続きは明日15時ごろ投稿します。


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