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帰路に着く。

ココンコン、と響くこの特徴的なノックは爺やのノックだ。


「どうぞ」


静かにゆっくりと開いた扉。

夕食後に白湯を運んでくれたのだ。


「いつもありがとう。私はこの白湯のおかげで、よく眠れるのだわ。……爺や?」


爺やの手が僅かばかり震えている。

「お嬢様、爺は…幸せな2ヶ月を過ごしました…」

「泣いているの…?」

「爺は強いので泣きません」

キリッとして言った。


「あらそう。私はまた暫く爺やに会えないと思うと寂しいわ」

と言うと爺やは少し驚いた顔をした。

「いやはや…お嬢様は少し変わられましたな。やはりカイエン様の存在がそうさせるのでしょう」

「私、何か変かしら?」

「ええ!それはもう!恋する乙女にございますな」

「は…なっ!そんな!」


ホッホッと笑う爺やは少し細くなった手で白湯を持たせてくれた。

「いよいよ明日、帰られてしまうのですなぁ…」

「またすぐ来るわ。結婚式にも出席して頂戴ね?」

「ありがとうございます。ですが、爺はただの執事ですからお手伝いに伺うことはあっても、貴賓の皆様と並ぶことはできませぬ。ご容赦ください」

「爺や…」

「今日は少しだけ冷えますから温くしてお休みください」

そう言って、爺やは退出した。


「おやすみなさい…」

扉の向こうに向けた言葉は届いただろう。

それでも、寂しい気持ちは消えなかった。




翌朝、約束通りカイエンが迎えに来た。

普段通りに朝食を済ませて、普段通りに支度をした私は、カイエンに支えられて馬車に乗る。

爺やにも変わりなく見送られた。


(寂しいと思っているのは私だけなのかしら)


流れていく景色を見ながら、そんなことを考えていると、カイエンが私を気にしてくれた。

「どうされましたか?」

「いえ。ただ、久しぶりに別邸の執事やシェフ達に会ったので別れが寂しくて…」

「また、すぐに来ましょう」

カイエンは私の手をしっかりと握って言った。


それから馬車の中で少しだけ婚約パーティの話を進めていたが、カイエンはいつの間にかこくりこくりと眠っていた。


(疲れているわよね、それでも迎えにきてくれたのだわ)

胸が苦しくなる。


カイエンの肩にストールをかけると、あちこちに小さな傷があることに気づく。


(遠征とは、一体どんなことをしたのかしら?)


これからもこうして傷ついて帰ってくるのだろう。

もっと酷いことだってあるかもしれない。

その時私は耐えられるのだろうか?


(いえ、大変なのはカイエン様よ。私がどれだけ彼の支えになれるのかは、私自身にかかっているのよ。強くあらねば…)


そっと髪を撫でる。

カイエンは熟睡しているようだ。

顔にかかった、少し伸びた髪を分ける。


ふいに長いまつ毛を間近で見て、心臓が跳ねた。

何となく恥ずかしくなって、席に戻る。



私は帰路に着く風景が見慣れたものになっていくのを眺めながら、この二ヶ月で起きたことは生涯忘れられそうにないと思うのだった。

続きは明日15時ごろ投稿します。


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