大事な話
「貴方は無垢なものが怖いのですね」
「うっ…」
カイエンは頭を抱えた。
カイエンは私の肌に書かれた不気味な文字を見ても動じない。
でも仔犬は怖いのだ。
「…タルトが…うちに来てから、随分とマシになりました。あいつは容赦がないので」
タルトに懐かれている様子が目に浮かぶ。
「あの日、一歩も動けなかった子どもだった自分が許せないのです。ただ瞬きもせずに見ることしかできない、恐怖という感情が未熟な子どもが怖いのです」
「貴方に無理をしてまで克服して欲しいなどと思いませんわ。貴方は…子どもを望まない方なのですね」
カイエンは小さくこくりと頷いた。
私は姿勢を正し、深く息を吸った。
努めてにこやかに言う。
「良いではないですか。二人で気ままに暮らすのも」
「でも!貴方と出会って…セレン様との子どもが欲しいと…!」
「え?」
「僕はセレン様との子が、欲しいのです!」
「あの…カイエン様…その…気が……早いのではないでしょうか?」
「いえ!大事な話ですから!」
(それは…まあ、大事な話なんだろうけども…)
「私たち、まだ結婚もしてません。それに子ども…」
私がモゴモゴしているとカイエンは顔を真っ赤にして謝った。
「あ、えっと…すいません…気が逸って…」
私は片手で制した。
「……了解致しました。苦手だったけれど、今は前向きに考えられる、と受け取っておきます」
「勢いが余って、お恥ずかしい…ご配慮感謝申し上げます…」
カイエンをちらっと見ると、両手で顔を覆っていた。
はずかしいと小声が聞こえたような気もする。
(本当に、不思議なひと…)
「もう、遠征が終わるまでお休みは無理そうですか?」
カイエンは居住まいを正す。
「はい。ですが、最終日はこちらに寄らせていただきます。婚約パーティのことも話したいですし、共に帰りましょう」
私は微笑み、カイエンも微笑んだ。
この遠征が終われば、私たちは婚約披露を兼ねたパーティーを催す予定だ。
「ウィークエンド、新しい思い出のケーキになりそうです」
「とても嬉しいですわ。シェフに伝えておきましょう」
きっと悲しいだけじゃない、母君との懐かしい思い出。
そこに、ケーキを食べると思い出す、今日の二人の出来事が追加されたら…
こうして、短い休日はあっという間に過ぎた。
「お気をつけて」
「セレン様も。どうか、危ないことはなさらないでください」
と言って釘を刺された。
「う、はい…」
手を振り見送る。
くるりとカイエンは振り向き、小走りで戻ってきた。
「お忘れ物ですか?」
「忘れ物?そうですね、忘れ物です」
そう言うと、カイエンは私のおでこにくちづけした。
そして、じっと見つめられる。
爽やかな風が流れていく。
「私、そのヘーゼルの瞳が大好きですわ」
「光栄です」
ふふ、と微笑みあった。
「離れ難いですね」
「あら、でも本当にもう行かないとカイエン様が叱られてしまいますわ」
「少しくらい叱られますか」
「まあ!」
カイエンはぎゅうと私を抱きしめて、しばらく離さなかった。
続きは明日15時ごろ投稿します。
「面白い」「続きが読みたい」と思ってくださった方は、ぜひともブックマークや、下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】に星を色塗りしていただくと作者のモチベーションがアップします!
ぜひぜひよろしくお願いします!




