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元夫と元妻

ーー僕は、彼女のために何ができるか。


サルバ・トランティーノ伯爵は常にそう考える人だった。



元妻は東洋系の血を持つ女性で、はっきり言ってめちゃくちゃタイプだった。


結婚したら気持ちが逸りすぎて先走り、全てが裏目に出てしまったと今では猛省している。

良かれと思って買い与えた物、気にかけた言葉、注いだ愛情ーーそう言った類のものが彼女に刺さらなかったのか、時が悪かったのか、そもそもそんな物不要だったのか。

サルバはいつも二択を間違える。


実はサルバは、結婚は二度目である。

一度目に結婚したのは同じ伯爵家の令嬢で気難しい娘だった。

夕食は、スープが気に入らないと、全て手をつけない様な人で、時にヒステリックに侍女に当たり散らす場面を目撃してげんなりする事も多かった。

その妻は結婚して一年目の冬、軽い咳が三ヶ月続き、春を迎える頃、快方に向かうかと思った矢先、あっけなく死んだ。

確かに愛していたとは思う。思うが、悲しむには思い出が少なすぎた。

思い出すと未だに肋の辺りが痛む。ヒステリックになった妻に投げられたカップが当たったところ。



二度目に結婚したのは男爵家の娘だった。

もう結婚は懲り懲りだと思っていたので周りの喧しい声に半ば成り行きで、妻となる人の父親と形だけの婚約を取り交わした。

この父親は娘を手放す気がなかった様だ。

結婚は二度としたくない男と、結婚をさせるつもりのない親のどうしようもなく自己中心的なやりとりだった。


婚約は書面で交わされ、一度会っておくかと出向いたところ完全に心を射抜かれてしまった。


この時、初めてサルバは父君に「なぜ娘を手放したくないのか」と聞いたところ「娘の収入も必要であること」と「家の事をする者がいなくなっては困る」という理由を聞かされて愕然とした。


娘を嫁がせたくないという理由の裏にどんな事情が隠されているのか、様々な事情があってのことだろう、人の家庭に首を突っ込むまいと思っていたサルバは「娘さんと結婚したい」とその場で宣言した。

父君には自身が手がけている事業を斡旋し、彼女の兄には良き相手を紹介し、結婚すれば家族だからと、侍女や執事を数名サルバの懐から雇い入れた。

そうしてすぐに縁談を取りまとめ、さっさと娘を屋敷に迎えた。

サルバ自身もその行動力に驚いた位だった。そんなにも、惚れてしまった。


ところがこの娘、よせば良いのにやることがないからと自分の部屋は自分で掃除をし、洗濯をし、厨房へ入った。

勿論使用人は驚き、狼狽した。


侍女長から報告が上がり、何度か「君は好きにしていて良いのだから」と言っても「何をしたら良いか分からない」と言う。


どんなに高価なドレスや宝石を贈っても気に入らないというより戸惑っているという感じだった。

どんな賛辞を送ろうとも皮肉めいた言葉が返ってくる。


ーよしてください、思ってもいないことー


それでも幸せだったが、結婚生活二年目で「私がいるとドレスを贈ったりとお金はかかるし、一生懸命に愛の言葉を囁かなければならないのは、貴方がなんとも不憫です」という理解に苦しむ理由で離縁した。

彼女は彼女なりにサルバに気を遣っていたのだろう。

無理にでも喜べば、サルバはどんどん物を贈りたくなる。だからきっと嬉しくても、はしゃぐ様なことはしなかったのかも知れなかった。

サルバが離婚に応じたのは、彼女がそれで気が楽ならそれでも良いと思ったからだ。




さて、ここに男が一人佇んでいる。

離婚した後も付かず離れず、たまに様子を見に伺う男、サルバ・トランティーノ伯爵。


元妻が営む店のドアを遠慮がちに開く。

微かに鳴るドアチャームの音を耳聡く聞きつけて奥から出てきた、結婚前と容貌の変わらない彼女に声をかける。


「やあ、ロレッティ」

片手を上げて微笑む男は、まるで待ち合わせに一時間も待ちぼうけたみたいに、恋しい人の名前を呼んだ。


「この店にいるときは、クウマですよ。旦那様」

「やだなあ、つれないなあ」


クウマは意地悪な顔で横目に見るばかりだ。


「変わりなくやってるかい」

と聞くと、沈黙が降りた。

クウマの腰を抱き寄せる。

「顔色が悪いな。僕の腕で一眠り…」

「結構です」


黒く艶のある髪を撫でる。

「何かあったら頼ってくれなくては駄目じゃないか」

「そうですね、少し疲れました」

「本当に君一体どうしたんだい?」


クウマは少しだけ考えてから言った。


「……頼まれてくれますか?」

続きは明日15時ごろ投稿します。


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