スーホの白い馬
スーホは白い馬に乗って駆けるのが好きだった。馬の名前はスーモ。物件を紹介していた。
スーホは物件を紹介しながら草原を駆けるのが好きだった。しかし売れない。なぜなら、スーホがいたのはモンゴル、移動民族だからだ。
移動民族に不動産は売れない。動かずの資産と書いて不動産。動く民族とは相性が最悪だった。
だからスーホは白い馬を売ってしまった。物件を紹介するしか能のない馬だったからだ。
スーホはしばらく馬に乗らずに暮らしていた。ときどき白い馬のことを思い出した。もっていて何の利点もない馬のはずだったが、不思議と悪い気はしなかった。それどころか、懐かしい心地がした。
白い馬を買い戻そう。そう思ってスーホはでかけた。
折しもその数日前、モンゴル帝国の支配者が白い馬を探していた。白い馬は神の使いといわれ、パレードで乗りこなし支配者の「箔」をつけるのにぴったりだったからだ。
そこに売られていた白い馬。支配者は喜んで部下に買わせ、翌日のパレードに持ち込んだ。
しかし白い馬はパレードの最中に物件を紹介し始めた。これに支配者は腹を抱えた。馬が物件を紹介するなんて。スーモだから仕方がなかった。物件を紹介するのが彼のレゾンデートルだから。しかし、その性質は魅力的でもあった。遊牧民と言えど支配者は拠点を構えて帝国全体に指示を出す。白い馬が提案する不動産の数々は、支配者にとっても魅力的だった。
しかし支配者は物件を買わなかった。奪い取ったのだ。
侵略こそモンゴルの是。世界にある不動産は、すべてが彼のもの。奪うことに抵抗はない。
パレードのあと、白い馬は殺され、馬頭琴にされて市場に売られた。
やがてスーホが市場に行くと、馬頭琴が売られているのを見つけた。それは夕暮れの日を受けて弦だけが昼のように白く輝く、美しい馬頭琴だった。
スーホは理解した。ああ、ああ。あの馬はきっと殺されたのだ。死んで馬頭琴にされたのだ。ああ。
スーホはそれを買おうか迷って、やめた。
モンゴル帝国は幾多の不動産を手に入れて世界一強くなったし、スーホは白い馬を支配者に売ってたくさんのお金を手に入れていた。白い馬は、美しい馬頭琴となって、ただ、モンゴルの侵略する様子をじっとみていた。