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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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王の子の義務

「ヘルマンさん、大変だ!」


 ラインハルト殿下と私のせいでにわかにざわつく街中に、一人の男性が慌てて駆けてきた。名前を呼ばれたヘルマンさんが顔を出す。


「どうした?」


「あ、ラインハルト殿下っ」


「俺のことはいい。いったいどうした?」


 いいと言われたので、男性は殿下に会釈しただけでヘルマンさんへと視線を向ける。


「大変だ! 北の森が燃えてるっ」


「なに?」


「山火事だよ! 今度は北の方の森だ」


「今度は北か! いくらなんでも続きすぎだろ」


「火事のせいでまた魔物が街方面に来始めてる。早く自警団員を集めてくれ」


「わかった。お前はこのことをニール様とクレマン様に伝えてくれ」


「わかった!」


 言われた男は、息を切らせたまま、今度はお屋敷の方へと走っていく。ヘルマンさんはみんなに集まるよう声かけを始めた。


「待って。北の森ってことは……」


「孤児院がある方角ですね」


 ロゼッタと目を合わせる。そして同時に走り出した。そんな私達に、ラインハルト殿下が慌てて声をかける。


「おい、どこへ行く?」


「孤児院です! あそこは子ども達と高齢の女性しかいないから、このままじゃあ逃げ遅れるかもしれません」


「なっ」


 門を抜けて街の外へ出る。目の前のはるか向こうの山から大きな煙が立ちのぼっていた。


「ねえ、連日の山火事騒動どう思う?」


「少なくとも、偶発的なものではないでしょう。火事が起きてみな火の扱いには慎重になっていた中で、こう立て続けに起こるということは、事故というより人為的なものを感じます」


「つまり、放火ってことね」


「おそらく」


「なるほど。最初はこの世界が私を抹殺するために魔物が多く出現してるのかもって勘ぐったけど。どうやらそれだけじゃなさそうね」


「愉快犯なのか、それとも意図的なのか。相手の目的がわからない以上、今は憶測の域を出ませんが」


「わかったわ。とりあえず今は、孤児院のみんなを助けに行きましょう」


「俺も行くぞ」


 背後から声がして振り返る。そこには、ラインハルト殿下とギャレット様が後について走ってきていた。


「なんでついてきてるんですか! 危ないですから、殿下はクレマン様のお屋敷に戻っていてください」


「殿下、私もこやつの言うことに賛成です。殿下にもしものことがあれば、国王陛下に顔向けできません」


「断る。逃げ遅れている奴らがいるかもしれないんだろう? だったら、人手は多い方がいい」


「しかしっ」


「これから助けに行くのは、平民の孤児ですよ? それでも殿下は助けに行くというのですか?」


「当たり前だ。国民を助けるのは王の義務。その王の子である俺達も例外じゃない。孤児とかそんなの関係ないだろ」


 わざと言っているわけではなく、本当に当たり前だと信じて疑わない顔。先ほどの平民と貴族の話の時と同じ顔だった。


 そうか、この方はそういう考えの人なのか。


 私みたいに貴族も平民も平等という考え方もあるけれど。貴族や王族だからこそ民を愛し、彼らの豊かな生活への責任を負う。そういう考え方もあるのか。


「なんだよ、ニヤニヤして。気持ち悪い」


「いえ。さすがクレマン様のお弟子様だと思っただけです」


「なんだ、それ」


 ふん、とラインハルト殿下はスピードを上げる。さすが十五歳男子。私よりも体力があるようで。


 そんな殿下を見て、ギャレット様がロゼッタに声をかける。


「おい、殿下に無茶するなと言ったのはお前だろう? 止めなくていいのか」


「私の役目は終わりました。あとは殿下次第ですので。そちらで対処願います」


「はなから殿下の心配などしていなかったということだな。やはり暗殺者はただの暗殺者か」


 そう嫌味を吐いた後、ギャレット様は殿下についてスピードを上げる。ロゼッタは特に反論せず、ただ淡々と私に合わせて走っていた。


「怒ってる?」


「いいえ、べつに。ギャレット様の言う通りですから。私は、わかって欲しい相手に理解していただけるだけで十分です」


「そっか。んで、殿下止めなくていいの?」


「それは私が判断することでしょうか?」


 逆に聞き返されて、思わず考え込む。


「そうね、それを判断するのはラインハルト殿下本人だわ。つまり、ロゼッタは彼を試しているのね」


「まあ、人手が欲しいのは確かですし。様子見でもよろしいのではないかと」


「ほんと先生みたい。いよ、ロゼッタ先生」


「先を急ぎます」


「ちょっ、待ってってば!」


 ロゼッタが足取り軽やかに先を走り出す。今日も短剣を腰に下げているから走りづらいのわかっててスピード上げたな。


 嫌味の一つも言えないまま、私は必死に三人の後を追った。


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