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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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モブキャラだって生きている

「ほんと、最悪な気分なんですけど」


「なにが?」


「領民の人達がああやって土下座してるところを見るのが嫌なんです。しかも、殿下と一緒だと私までそういう扱い受けるじゃないですか。不快極まりないんですけど」


「平民と貴族とは、そういうものだろう?」


 何がおかしいのだと、本当に不思議そうに聞き返してくる。まるで、これがお前の作った世界だと言われているよう。


 わかっている。ラインハルト殿下が悪いわけじゃない。それでも、いいようのない怒りが込み上げてくる。そして、それは最悪な形で爆発した。


 私は、多くの領民達がいる前で怒りに任せてラインハルト殿下の胸倉を掴んだ。


「貴族とか平民とか、それがおかしいって言ってるんです! 生まれながらに上下関係があるとかなんなんですかっ? 国王陛下は神ですか? 貴族は天使ですかっ?」


「な、なんだ? お前は何を言って……」


「人間は、生まれながらにして平等であるべきです。平民の人達が貴族に怯えながら生活するなんて間違ってる!」


 暴走したルイーズの魔法で私が怪我をした時、三人とも私に対して怯えていた。ジルだって、ヤニスにぶつかっただけで牢に入れてやると脅され顔を真っ青にした。


 そんなのは、私が創りたかった世界じゃない。


 もっとみんなが笑って、楽しく暮らしていける、そんな世界を創りたかったはずなのに。殿下達が来るまでは、カルツィオーネの人達とそんな関係を築けると思っていたのに。


 でも、蓋を開けたらこれが現実だった。


「いけません、アンジェリーク様。手をお離しください」


 周囲がざわめく中、ロゼッタだけが静かに私をたしなめる。言われた通り手を離すと、私はラインハルト殿下に背を向けた。


「申し訳ありませんでした、殿下。ですが、もう放っておいてください」


 そう呟いて走り出す。すると、前方にケイトさんとヘルマンさんの姿を見つけた。


「あ、ケイトさん。ヘルマンさん」


 片手を挙げて声をかける。しかし、二人とも無言のまま、ふいと私から視線を逸らした。


「あの……っ」


「ごめんなぁ、アンジェリーク様。俺達は、国王陛下に睨まれたくはないんだ」


 ヘルマンさんはそう言うと、ケイトさんと一緒にそそくさと私から逃げていく。他の領民達も、誰も私と目を合わそうとせず、距離を取るように離れていった。


 ああ、そうか。これが嫌われるってことなんだ。


 信じてた人達に裏切られ、嫌われる。それってこんなにも辛いことだったんだ。


 思わず拳を強く握る。すると、ロゼッタが申し訳なさそうな顔をした。


「申し訳ありません、私のせいでアンジェリーク様に辛い思いをさせてしまって」


「ええ、辛いわ」


「そう、ですよね……」


「今までロゼッタはこんな思いをずっとしてきたんだって思ったら、辛すぎて泣きそう」


 言ってるそばから、私の頬を涙が伝う。


「ただ嫌われるだけでもこんなに辛いのに。みんなから忌み嫌われるのって、今の私が感じてる何倍も、何十倍も辛かったよね。ごめんね、ロゼッタ。私のせいでこんな辛い思いさせて、ほんと、ごめん……っ」


 モブキャラだって生きている。脇役にだって人生がある。


 それなのに。どうして気付かなかったんだろう。気付いてあげられなかったんだろう。


 せめて、私がもっと考えてあげていれば。もっと寄り添ってあげていれば。少しは変わった人生を送れていたかもしれないのに。それを怠ったのは私の責任だ。


 涙を拭う私の頭に、温かい何かが触れる。見ると、それはロゼッタの手だった。


「アンジェリーク様は、本当に卑怯ですね。私には冗談で自分を責めて反省すればいいと言っておきながら、あなた様がそれをなされるなんて。その方が私にとって辛いと知っていて、わざとなさっているのですか?」


「……極悪令嬢だけど、そこまで、器用じゃない……ぐすっ」


「ですよね、知っています。では、それ以上私のために泣かないでください。私への罪滅ぼしがあるとするのなら、それはいつもみたいに私のそばで笑っていてくれることです。あなた様の笑顔さえあれば、どんな心の傷もたちまち癒えますから」


「……本当?」


「ええ、本当です。今まで私がウソついたことがありましたか?」


「うん、いっぱいある」


 即答すると、なんだか可笑しくなって笑みがこぼれた。それを見て、ロゼッタも笑い返す。


「これしきのことで泣いていては、極悪令嬢として生きていけませんよ」


「そうだね。極悪令嬢として生きる覚悟がまだまだ足りなかった」


 鼻を啜り、涙を完全に拭い取る。すると、ロゼッタの後ろにラインハルト殿下とギャレット様がいることに初めて気付いた。


「いや、その……泣くところを見に来たわけじゃないんだ。ついていったらたまたま。だから、その、わざとじゃなくて……っ」


「いいですよ、べつに。見られちゃったものは仕方ないですし」


「そう、か……」


「ロゼッタ、殿下とギャレット様の頭ぶっ叩いて記憶を無くしてあげて」


「了解致しました」


「なんでだよ!」


「やめろっ」


 二人が揃って私にツッコミを入れる。なんだかその様子が可笑しくてつい笑ってしまった。


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