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ありがとう

 舞踏会の当日。


 結局朝まで悩んだものの、良い解決策は思いつかなかった。


「まさか、自分に暗殺の危機が迫るとは」


 しかも、その危機を作ったのは、作者である自分というのが憎らしい。


「私のバカ。なんで暗殺者なんか使ったのよ」


 そう愚痴ってみても後の祭りである。こればかりはどうしようもない。今現在、その小説の中で生きている私が、自分の手で解決するしかないのだ。


 でも、それよりも心配なことが一つだけある。


「ここでドラクロワ子爵家が出てくるってことは、やはり話がズレてきている可能性が高いわね」


 もちろん、エミリアを襲う前の、隠れたエピソードと捉えることもできる。だから、一概に話がズレたとは言えないけれど。


 もしここで私が暗殺されれば、国主催の舞踏会に"縦ロールの伯爵令嬢"はいなくなるわけだし。


 生き残るにしても、ドラクロワ子爵家の末裔をどうにかしないといけないわけだから、ここでどうしても干渉しなければいけなくなる。


 どちらにしても、今後の話の展開に支障をきたしそうだ。


「って言っても、死んだら元も子もないんだけどね」


 そう、今は話の展開云々より、生き残ることを優先しなければ。今度こそこの小説を完結させるために。


 うーんと考えいると、ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは、食事を載せたトレーを持ったロゼッタだった。


「おはようございます、アンジェリーク様。お食事でございます」


「ありがとう、ロゼッタ。いつものところに置いておいて」


「はい」


 相変わらず、ロゼッタは機械的なままだ。でも、その横顔を見ていると、なんだか急に胸が苦しくなった。


 死んでしまったら、もうロゼッタにも会えなくなってしまう。何で怒っているのかは知らないけれど、このままなのは嫌だ。でも、なんて声をかけたらいいかわからない。


 悩んでいる間に、ロゼッタはトレーを置いて出ていこうとする。私は勇気を出して、その後ろ姿に声をかけた。


「ロゼッタ、今までありがとう」


 すると、ロゼッタの歩みが止まった。そして、私の方へとゆっくり振り返る。


「どうされたのですか、いきなり」


「いや、ちゃんと感謝してなかったなーと思って。そう思ったらつい言いたくなっちゃった」


「意味不明ですね」


「そうよね。でも、あなたが何で怒ってるのか知らないけれど、きっと私が悪いと思うの。だから、怒らせてしまってごめんなさい」


「すみません、何をおっしゃっているのか……」


「でも、これだけは覚えておいて。あなたがそばにいてくれたおかげで、今の私がある。だから、いつもそばにいてくれてありがとう」


 きっと、一人だけでは家族に見放された辛さに耐えられなかっただろうし、アンジェリークの幸せを壊してしまった罪悪感に押し潰されていたと思う。


 でも、ロゼッタがいたから大丈夫だった。そばにいて、相談相手になってくれて、話を聞いてくれたりしたから、私は小説の完結に向けて頑張ろうと思えた。


 だから、ありがとう。


 一瞬、ロゼッタに暗殺のことを話して助けてもらおうかとも思ったけれど、やめた。


 彼女には幸せになってもらいたい。生きていてほしい。だから、絶対巻き込んではダメだ。


「アンジェリーク様……」


「話は以上よ。引き留めて悪かったわね」


 ロゼッタは何か言いたそうだった。それでも、結局は何も言わず、そのまま部屋を後にした。


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