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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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私のことは忘れなさい

「どけ、女。レインの命の恩人とはいえ、邪魔するなら斬るぞ」


「どうぞ。それでも、私はどきません」


「なに?」


「エミリア、やめなさい。あんたまで白い目で見られるわよ」


「構いません。だって私は、アンジェリーク様とロゼッタさんの味方でいると心に決めておりますから」


「エミリア……」


 たぶん、これは彼女なりの精一杯の恩返しなんだろう。嬉しいけれどハラハラしかない。


「みなさん、アンジェリーク様を誤解なさっています。あの方は極悪などではなく、とてもお優しい方です。孤児院の子達に屋敷の大掃除を手伝わせたのだって、普段貧しい食事しか食べてこれなかった彼らを案じて、ご馳走を振る舞うための口実でした」


「エミリアお姉ちゃん……」


「盗賊を襲ったのだって、元はロイヤー子爵家のご子息がアンジェリーク様に危害を加えるために、孤児院の子達を人質に取ったのが原因です。アンジェリーク様は子ども達を守るために、罠だと知りながら一人でご子息に会いに行き、そして大怪我までされて……。それでも、子ども達を責めることはせず、大丈夫って笑いかけてくださったんです」


「……そうだよ、アンジェリーク様は何も悪くない」


 ジルがそう呟くと、ルイーズもうんうんと頷いた。


「そんな方が、国王陛下の暗殺を企てるはずがありません。私は、アンジェリーク様を信じます。そして、そんなアンジェリーク様が信じていらっしゃるロゼッタさんも信じます!」


 毅然とした態度だった。剣を前にしても、揺るがない強い決意。


 ほんともう、うちの子どうなってんのよ。嬉しくてつい泣きそうになるじゃん。


 自嘲気味に笑ってみる。すると、突然エミリアが膝から崩れ落ちた。


「エミリア、大丈夫っ?」


「きっと、魔法を使いすぎたのでしょう。早く休ませないと」


「わかった」


 私とロゼッタがエミリアに駆け寄る。しかし、彼女を抱えたのは、私達ではなく、レインハルト殿下だった。


「彼女は私の命の恩人だ。私が部屋まで運ぼう」


「うわ……リアルお姫様抱っこだ」


 さすが異世界。こんな小っ恥ずかしいことも平気でできるんだな。って、そんなこと呑気に考えてる場合じゃなかった。


 部屋の案内をミネさんとヨネさんに任せて、私は再びラインハルト殿下と対峙する。でも、もう先ほどの激しい怒りはどこかへ吹き飛んでいた。


 私は視線をクレマン様へと移す。


「クレマン様、ご迷惑をおかけしました。私達は荷物をまとめてこのお屋敷を出て行きます。ただ、それには少し時間がかかるので、それまではここに置いてください」


「本当に出て行くのか?」


「ええ。これ以上、あなた様やここの領民の方々にご迷惑はおかけできませんから」


 私がそう言い終えると、ロゼッタがクレマン様の元へと向かう。そして、彼に眼鏡を手渡した。


「お貸しいただきまして、ありがとうございました」


 そうお礼だけ告げて、再び私の元へ戻ってくる。ラインハルト殿下も落ち着きを取り戻したのか、手にしていた剣を鞘に収めた。


「お前達は国に連行する。それまではギャレット、お前が監視していろ」


「はっ! 了解であります」


 ギャレットと呼ばれた近衛騎士が、鋭い目つきのまま私達の後ろへ張り付いてくる。それを見て思わずため息をついた。


「えー、ずっとついてくんの?」


「そうだ」


「お風呂やトイレの中まで?」


「必要とあらば」


「この変態っ」


 いーっと白い歯を見せて抵抗する。しかし、ギャレットはふんっと鼻を鳴らすだけだった。


 屋敷に入る手前、ジルとルイーズが私達に駆け寄ってくる。


「アンジェリーク様、本当にここを出て行くんですか?」


「うん。これ以上みんなに迷惑かけられないからね」


「でも、アンジェリーク様もロゼッタさんも、何も悪くないじゃないですか。それなのに、こんなのおかしいよ」


「ありがとう、ジル。その気持ちだけで十分よ。間違っても殿下達に言っちゃダメだからね」


「でも! 俺、アンジェリーク様にまだ何も返せてない……」


「そう思うんなら、その恩を私の代わりに別の誰かに返してあげて。その方が私は嬉しいから。ね?」


 優しくそう言うと、ジルは渋々頷いた。ルイーズに対しては、珍しくロゼッタから声をかける。


「ルイーズ、私は今でもあなたは早いうちから養成学校へ行くべきだと思っています。強い魔力は、きちんと制御しなければ周りだけでなく自分自身をも傷付ける。よく考えて決めることをお勧めします」


「では、ロゼッタさんが教えてください! その方が私は安心します」


「私はできません。先ほどのやりとりを見たでしょう? あなたまでひどい差別を受ける必要はありません。私のことは忘れなさい」


「そんな……っ」


「おい、いつまで話してる」


 ギャレットがそうせっついてくる。私は彼にべーっと舌を出すと、「じゃあね」と手を振って二人と別れた。


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