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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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軍神は終わってる、だと?

「私とジジは、ナッツ先生のお手伝いをするってことを、ミネさんとヨネさんに伝えておいて」


 そうジルとルイーズにお願いしてから、しばらくはナッツ先生指導のもと一生懸命働いた。


 私はたどたどしかったけれど。ロゼッタはさすがというか、まるで機械のように手際良くこなしていた。


 別に、仕事は大変だが人の役に立つことなので不満はない。ただ、何が面白くないかというと、ロゼッタではなく私が来た瞬間、どの兵士もガッカリした顔をしていたことだ。悪かったな、美人じゃない方で。


「くっ、こんなところでも差別を受けるなんて。美人は美人税を支払うべきだ」


「はいはい、バカなことをおっしゃってないで手を動かしてください」


「わかってるわよ」


 テントの中にある机から、包帯を一つ手に取る。ふとエミリアに視線を向けると、彼女はだいぶ疲れているようだった。


「おい、大丈夫か? 俺はもういいから君は少し休め」


「……いいえ、休むわけには、いきません。はあ、はあ……まだ大丈夫、です」


 いや、負傷兵に気を遣われてる時点で、どう見ても大丈夫じゃないんだけど。


「ジジ、エミリアあのままにしといていいの?」


「放っておいて構いません。彼女がそうしたくてそうしているのですから。我々が止めるのはお門違いかと」


「それはそうだろうけどさ。あのままだとエミリアぶっ倒れるよ」


「いいんじゃないですか。魔力を枯渇するまで使用した方が今後の為になる。彼女もそう考えての行動でしょうし」


「先生の教えを真面目に実践してるんだ。さすがエミリア。よっぽど悔しかったのね」


 たとえがちょっと違うかもしれないけれど。スポーツで負けて悔しがる、みたいな。次勝つために今努力する。いつの間にスポ根になった、この小説。


 気を取り直し、再び手当てに戻る。すると、少し余裕が出てきた兵士達の話し声が聞こえてきた。


「それにしても、あの三人めっちゃ強かったな」


「ああ、あの軍神と、槍使いの傭兵と、火の魔法を使う自警団の男な」


「あの槍使い、相当場数踏んでるな。他の奴らに指示出ししてたし」


「それなら、あの自警団の男もすごかったぜ。俺、あんなすげー魔法初めて見た」


「あと、軍神クレマン様な。あの歳であれだけ動けるとは思わなかったよ。誰だよ、軍神はもう終わってるとか言った奴」


 聞き捨てならないセリフに、思わず「なっ」と声がでる。しかし、浮きかけた腰は、ロゼッタの視線によって止められた。


 誰が終わってる、ですって?


 あのお歳で、あれだけ楽々魔物を倒せるのに。誰だ、そんな失礼なこと言った奴は。


 しかし、そんな私の心の声が兵士達に聞こえるはずもない。


「確か、クレマン様は十年前に軍の指導者を引退してからは、ずっとここにいるんだろ? 派手な話も聞かなかったし、みんなクレマン様は隠居されたって言ってたよな」


「特に奥様を亡くされた五年前からは、王都にも顔を出さず、ずっとここに引きこもってたらしいぞ。噂じゃ、あまりのショックに寝たきりになったとか言ってたのに。まったくのデタラメだったな」


「自警団の奴らは、みんなクレマン様に剣を教わってるんだろ? いいよなぁ。俺もクレマン様に教えてもらいたかった」


「俺も。そしたらもっと武勲立てられたかもしんないのに」


「いや、お前には無理だろ」


「なにおうっ」


 そう言って、兵士達は笑い合う。


 もしかして、軍が弱体化したのって、クレマン様が指導しなくなったからなのか? もしそうなら、クレマン様の偉大さがさらに増すんだけれど。


 そんなことを考えていると、ミネさんとヨネさんがテントに入ってきた。


「アン、ジジ。お疲れ様です」


「私達も何か手伝いましょうか?」


「ミネさん、ヨネさん。お屋敷の中のことはもういいんですか?」


「ええ。だいたいは終わりました」


「アンとジジと、そしてジルとルイーズが手伝ってくれたおかけです」


「私達は何もしてません。ジルとルイーズを労ってあげてください」


「こちらも、ナッツ先生とエミリアのおかげでもうほとんど終わりそうです」


「エミリアが?」


「今、回復魔法を限界ギリギリまで使ってます」


「まあ、本当に使えるのね。レインハルト殿下が大変感謝しておいででしたよ」


「ラインハルト殿下も、彼女は兄の命の恩人だとおっしゃっていました」


「本人から聞いたんですか?」


「いいえ、まさか。小耳に挟んだんですよ」


「偶然、部屋の中の声が聞こえてきただけです」


 そう言って、ミネさんヨネさんはホホホッと笑う。ロゼッタがじとっと私を見つめてきた。


「偶然、ですか。どこかで聞いたことのあるセリフですね」


「……さあ、私は知らないわ」


 この二人、確信犯なんじゃないだろうか。私達も、いつ、どこで二人に話を聞かれているかわかったもんじゃないな、これ。気を付けないと。


「そういえば、ジルはどうしたんですか?」


「ジルは、ココットとルイーズと一緒に、炊き出しの方を手伝っております。もうお昼も近いですから」


「なにぶん急なことでしたので、即席のスープとパンくらいしか出せないと、ココットは嘆いておりましたよ」


「いや、それだけでもすごいと思いますよ。短時間でこの大人数分ですから。さすが国一の料理人です」


「あら、まあ。ココットが聞いたらきっと喜びますわ」


「あとで教えて差し上げましょうね」


 二人の間から、遠く向こうの方でココットさん達がみんなにスープやパンを配っているのが見える。目が合うと、白い歯を見せて親指を立ててくれた。思わず同じポーズでグッジョブと返す。


「全部終わったら食べに行こう、とか思ってますよね?」


「よくわかったわね。だって、今日メチャメチャ頑張ったからお腹空いたんだもん」


「そうですね、アンのせいで無駄に働きすぎて疲れました」


「では、ここは私達に任せて先に休まれてはいかがですか?」


「それはダメです。一応、私は新人メイドという設定ですから。先輩達を差し置いて先に休憩してたら怪しまれます」


「そうです。ここでアンを甘やかしたらつけあがるだけですから。もっと厳しくしてあげてください」


「ジジ先輩ったら、新人をイジメる嫌味な先輩っぽーい。女って怖いなぁ」


「これはイジメではなく指導です。美人税を支払えとのたまう女性の僻みの方が、よっぽどタチが悪いと思いますが」


「このやろう……っ」


 ロゼッタを睨むが、彼女はまったく効かないと言いたげにツンとすましている。そんな私達を見て、ミネさんヨネさんはクスクス笑った。


「おや、まあ。お二人とも、それではいつも通りすぎてバレてしまいわすわよ」


「仲が良すぎるのも問題ですわね」


 仲が良いのか、これ。そう思いロゼッタを見ると、彼女も私の方へ視線を向けていた。


 とりあえず、早く食べたくて急ピッチで手当てを進める。ミネさんとヨネさんが手伝ってくれたおかげか、負傷兵の手当てはそんなにかからず終わった。


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