表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/431

美人は何をしても美人

 私達が屋敷に着いてからしばらくして、殿下達の集団はヴィンセント家へ着いた。


 疲労困憊であろうクレマン様へ、私はメイド服姿で出迎える。


「お帰りなさいませ、旦那様」


 すると、クレマン様はその目をパチクリさせた。


「何をしてるんだ、アン……」


「はい、アンは私でございますが。何かご用でしょうか、旦那様」


 有無を言わせずニコニコと答える。クレマン様の視線が、一度後ろに控えているメイド服姿のロゼッタへと向けられた。それでも、彼女は小さく会釈を返すだけ。


 まだ殿下達は来ていない。仕方がないので、肩についた埃を取るフリをして、クレマン様にこそっと耳打ちする。


「私とロゼッタは、正体を隠します」


 どうやら、その一言で伝わったらしい。クレマン様は「わかった」とだけ呟いた。


「無事で良かった」


「ええ。クレマン様も」


 そう言い合って、お互い微笑み合う。その後でロゼッタへと視線を向けた。


「ロゼッタは眼鏡をかけているんだな。髪型も違っているし。一瞬誰だかわからなかったよ」


「ミネさんとヨネさんが、奥様の眼鏡を貸してくださいました。ご気分を害されたのでしたら、すぐさまお返しいたします」


 すると、クレマン様は眼鏡姿のロゼッタをマジマジと見つめる。その後で首を横に振った。


「いや、使ってくれた方が妻も喜ぶだろう。よく似合っているよ」


 そう言うと、クレマン様は優しく微笑んだ。どうやら怒ってはいないらしい。ちょっと安心した。


 ホッと安堵する。すると、後ろからやっと殿下達がクレマン様に追いついた。その二人には、ミネさんとヨネさん、そしてニール様が対応する。


「レインハルト殿下、ラインハルト殿下、そしてダルクール様。お疲れ様でございました」


「私達がご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 そう促され、三人はクレマン様とニール様とミネヨネさんの後へ続く。私とロゼッタは会釈だけで済ましたけれど、すれ違う時、ミネさんとヨネさんにウインクされた。私達に任せて、と。


 殿下達の姿が見えなくなったのを確認して、ふうと一つ息を吐く。


「なんとか誤魔化せたみたいね」


「やはり、あの特徴的な縦ロールを封印したことが大きかったのでは?」


「そうかも。ミネさんとヨネさんには頭が上がらないわ」


 そう呟くと、私は二人が去った後に両手を合わせた。





  ・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー





 ロゼッタと一緒に屋敷に着いた時、ずぶ濡れアンドボロ雑巾のような私を見て、お二人は「まあ、あなた様はまた……」と大きなため息をつかれた。


 それで、ダルクール男爵のことを話し、正体を隠したいのでメイドに扮したいと告げると、ミネさんヨネさんが協力してくれた。


「……あとは、この髪ですわねぇ」


 ミネさんが、私の縦ロール髪に触れつつそう呟く。すると、ヨネさんが「ちょっと待って」と言って何かを取りに行った。戻ってきた彼女が手にしていたのは、帽子。


「これで隠すのはどうかしら?」


「おぉ、ナイスアイディアです」


 小学校の給食当番が身に付ける帽子のようなそれは、私の強情な縦ロールをすっぽりと覆い隠す。すると、ただの平凡なメイドが出来上がった。


「ロゼッタはどうしますか?」


「べつに私はアンジェリーク様ほど目立った動きはしておりませんから。必要ないかと」


「そうでもありませんよ。みんなロゼッタさんは超が付くほど美人だって噂してますし」


「自警団のみなさんもここへ来ることを考えたら、さすがにこのままではマズイかと」


「だってさ、ロゼッタ。その溢れ出る美人オーラを隠さないとバレるって。美人も大変だね」


「言い方に悪意を感じます。女の嫉妬は醜いだけですよ」


「まあまあ、お二人とも落ち着いて」


「とりあえず、髪型を変えてみましょうか。こう、髪を上げて……」


 ミネさんがロゼッタの長い髪をアップにする。すると、白く透明なうなじが露わになった。三人で思わずほうっと熱い息を漏らす。


「なんですか?」


「ミネさん、ヨネさん、大変です。全然オーラが消えてません。むしろアップしてます」


「困りましたねぇ」


「あ、そうだ」


 そう言うと、ミネさんは部屋を出る。そしてしばらくすると、何かを手にして戻ってきた。


「ミネさん、それは?」


「これは眼鏡です。旦那様の奥様の私物ですが」


「奥様の?」


「ご高齢になって見えにくくなってきたからと、晩年はよく使用されておりました。これを使ってみましょう」


「いけません。それは奥様の形見なんですよね? そんな物を私ごときが軽々しく使えません」


「いいえ、使ってください。この眼鏡も引き出しの中でこもっているより、こうやって誰かに使われる方が嬉しいでしょうから」


「しかし……」


「いいじゃん、使おうよ。ロゼッタの眼鏡姿見てみたいし。クレマン様に怒られたら、私も一緒に怒られるから。それとも何? 私達の正体がバレて糾弾されてもいいっていうの?」


「そんなことは申しておりません」


「だったら、ちゃんと変装して。これ、主人命令」


 私がビシッとそう言うと、ロゼッタは大きなため息をついた。


「……わかりました。ですが、クレマン様に一緒に怒られるという約束は忘れないでくださいね」


「もちろん」


 そうして、ロゼッタはやっと奥様の眼鏡をかけた。


「これは……」


「おやおや」


「まあまあ」


 結論。美人は何をしても美人らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ