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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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高所恐怖症なんです

「えぇぇぇー!」


 叫ぶ間にも、高度はぐんぐん上がっていく。


 ちょっと待って。私、高所恐怖症なんだけど。


「嫌ぁー! 離してっ……いや、離しちゃダメ! お、落ちるっ……ひぃーっ」


 地上にいるクレマン様やリザさん、他の兵士や傭兵達でさえ、何が起きているのかと呆然と立ち尽くしている。


 そんな中、ただ一人ロゼッタだけが動き出し、近くにいた馬に乗って私を追いかけ始めていた。


 たぶん、舌打ちした後、何か小言を言ったに違いない。あの方は本当に……って。


 あっという間に戦場から離れ、死ぬ思いで走った道を逆走する。最初はそれなりの高度があったフライヤーも、徐々に失速し始め高度が下がっていく。今は木の高さくらいか。


「まさか、私が重いって言いたいんじゃないでしょうね、こいつ」


 失礼な。最近は運動も始めたし、こっちに来てレンスにいた時よりも食事はヘルシーになったから、そんなに太ってないと思うけど。いや待て。ココットさんの作るお菓子が原因か。


「なんて、考えてる場合じゃないっ」


 怖い、怖い、怖い! これ落ちたら絶対死ぬ!


 ビリ、という嫌な音が聞こえて、左肩を見る。爪に引っかかった服が、先ほどよりも破れていた。これは本当にマズイ。


「どどど、どうにかしないと……っ」


 でも、怖くて下を向けない。


 そう思った時「きゃあっ」という悲鳴が下から聞こえた。思わず何事かと視線を落とす。そこには、魔物の出現に怯える農作業中の親子の姿があった。それは連鎖反応を起こし、他の領民達にも伝染していく。


「そうか。このままだと、こいつ屋敷か街に行きかねない」


 お屋敷では、半分の自警団員が待機している。それでも、このレベルの高いフライヤーを倒すことができるだろうか。


 いや、もし街なんかに行って魔法を放ったりしたら、それこそ被害は尋常じゃない。


「どうにかして、進路を変えないと……っ」


 キョロキョロと地上を見渡す。ロゼッタはまだなんとか私についてきてくれていた。


 突然風が吹いて、フライヤーが煽られ揺れる。その恐怖の先に見つけたのは、小さな湖だった。あそこならなんとかなるかもしれない。私は大声でロゼッタに呼びかけた。


「ロゼッタ、向こうに湖があるの」


「え?」


「向こうに湖があるの! そこまでこいつを誘導して」


 指で湖の方を指し、必死に声を出す。どうやらロゼッタに届いたらしい。彼女も負けじと大きな声を出す。


「誘導してどうなさるのですか?」


「湖まで来たら、私は服を破って落ちる。その隙にこいつをやっつけて」


「はあ?」


「いいからやっつけて! このままじゃ、街の人達が危ないのっ」


 地上では、魔物の恐怖に怯えている人達の姿が多くなる。このまま私だけ助かるわけにはいかない。


 ロゼッタからの返答はない。それでも、しばらくすると、彼女の周りに炎の矢が複数出現した。それは魔物には当たらず、それでもゆっくりと進路を変えていく。


「さすがロゼッタ。後で、天才、って褒めてあげよう」


 フライヤーの進路は、私が目指した湖上空に差しかかる。そのタイミングで、私は持っていた短剣を使って、引っかかった服の端を切り始めた。


「この、この……っ」


 体勢的にちょっとキツかったけど。それでも服は千切れ、私はフライヤーから解放される。そのタイミングで、大きな火の玉がそいつに直撃した。


 見えたのはそこまで。そのまま私は湖に落下し、身体を強く打ちつける。


 やばっ、身体が動かない。全身が鉛のように重い。ダメ、泳がないと。息が続かない。


 沈みそうになる身体と意識。それを引き上げてくれたのは、ロゼッタの力強い手だった。


 まるでイルカにでも引っ張られるかのように、私の身体はグイグイ進んでいく。そのうちに、私とロゼッタは水面から顔を上げることができた。


「ぷはっ」


 空が明るい。水が冷たい。傷口にしみる。そんな基本的なことをぼんやり考える。


「いいですか? 力を抜いて、暴れたりしないで、浮くことだけを意識してください」


 ロゼッタの言葉に、私はただ頷く。そして彼女の言う通りにした。もとより、暴れる体力はもう残っていない。


 ロゼッタは、私を連れて岸へと泳いでいく。その間中、私はずっと青く透き通った空を眺めていた。


「綺麗……」


「何か言いました?」


「ううん、なんでも」


 気持ちいい、なんて言ったら、私を連れて一生懸命泳いでいるロゼッタに怒られるんだろうな。人の気も知らないで、って。


 そうこうしているうちに、私達は岸へとたどり着いた。雑草の上へ倒れるように寝転がる。すると、そんな私にロゼッタが馬乗りになった。


 濡れた髪が陽の光に当たり輝いている。潤んだ瞳に、艶やかな唇。


 あまりの美しさに、思わず呼吸するのを忘れてしまった。


 そうやって見惚れているうちに、ロゼッタの眉間にシワが寄る。その顔は怒っているように見えた。


 うわ、これはマズイ。


 瞬間的にそう判断すると、私は目の前で両手を合わせてごめんのポーズをしてみせた。


「心配かけてごめんなさい! 悪気はなかったの。まさか服の端がフライヤーの爪に引っかかっるなんて思わなかったし。殿下を助けに行ったのも、無意識に身体が動いちゃっただけだし。だから、その……本当にごめんなさい!」


 本当に申し訳ないと思っている。今回も、ロゼッタが助けてくれなければ、私は溺れ死んでいた。いつもいつも、本気で私のことを心配してくれているのもわかっているし、彼女にとって私がどれだけ大切かというのも理解している。


 それでも、一旦枷が外れたこの身体は、私の望み通り勝手に動いてしまうのだ。


 ロゼッタが大きなため息をつく。その後で、私の隣に寝転がった。


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