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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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実は私、女なんです

「残りは三匹。さて、どうするか」


 悩むクレマン様の横で、リザさんがロゼッタに声をかける。


「お兄ちゃん、魔法が使えるんだろ?」


「使えません」


「ウッソだー。ちょっと前に飛びかかってきたダークウルフ五匹を、あっという間に灰にしてたじゃん」


 そう言われた直後、ロゼッタがムッとした顔で私を睨んできた。


 いや、ごめん。マジでごめんて。


「いくら雑魚とはいえ、五匹を跡形もなく燃やし尽くすなんて。普通の魔法師ではなかなかできるもんじゃない。昔魔法師団に入ってたことがあるって言ってたけど、あんた何者?」


 リザさんの目が鋭く光る。しかし、ロゼッタはあくまで冷静に対応する。


「べつに。自警団に所属するただの領民です。それ以上でもそれ以下でもない」


「ほんとに?」


 リザさんはまだ諦めない。すると、面倒くさくなったのか、ロゼッタが人差し指をピンと立てた。


「わかりました、お答えします」


「ちょ、ちょっと……っ」


 おいおい、今日出会った赤の他人に、自分が暗殺者であること教えちゃう気!?


 そう心配したけれど。ロゼッタの答えは、まったく違うものだった。


「実は私、女なんです」


「…………へ?」


 リザさんの目が点になる。そんな彼女を知ってかしらずか、ロゼッタはダボついた服をピンと伸ばして、膨らんだ胸を強調した。


 まるで、どうだ、と言わんばかりのロゼッタの顔。体感で三秒くらい全員の動きが止まる。その後で起こったのは、リザさんの大爆笑だった。


「あはははっ! そっか、そっか、女だったのか。そりゃ、間違えててごめん、ごめんっ」


「いえ、べつに。よくあることですから」


 ロゼッタは平然とした顔で受け流している。


 そんな答えで相手は納得しないだろう。そうツッコミを入れたかったけど。意外にも、リザさんはそれ以上追求してこなかった。


「クレマン様、もう魔法が使えることがバレてしまったので仕方ありません。私が魔法でフライヤー達を撹乱しますので、後はクレマン様とリザさんでよろしくお願いします」


「わかった」


「オッケー、お姉ちゃん」


「アンジェ……妹は……」


「ここで大人しく待機してます」


「結構。賢明な判断です」


「なんだ、妹ちゃんはもう戦わないのか?」


「これ以上戦ったら、姉に殺されます」


 ロゼッタの目がそう訴えている。


 正直、戦いたい気持ちはあるけれど、ロゼッタの言う通りもう身体が動かない。こんな状態で参加しても足手まといになるだけだ。それなら大人しくここで待つ。それくらいの判断はできる。


「では、いきますよ」


 ロゼッタが右手を掲げる。すると、矢のような炎が複数出現。それは彼女の号令で順番に飛んでいく。


 しかし、相手はレベル中。炎の矢を飛びながらかわしていく。でも、ロゼッタにはそれも計算の内らしい。


 炎の矢を避けていたフライヤーのすぐ横で火柱が発生。それが片方の翼に当たって、彼らはバランスを崩し高度が下がる。その一瞬を見逃さず、クレマン様が一匹の翼を切り落とし、地面に落ちたそいつの脳天に剣を突き立てた。


 もう一匹はリザさんが、落下するそいつの喉元を狙い澄まして一撃で貫いた。


 どちらも耳障りな悲鳴をあげて、そのまま絶命した。


「ヒュー。ここまで緻密に魔法を使いこなすなんて、お姉ちゃんやっるー」


「さすがだな」


「それはどうも」


「私のお姉ちゃんは、世界一なんです」


「天才といいなさい、妹」


「やなこった」


 べー、と舌を出すと、ロゼッタの片眉がピクリと反応した。そんな私達を見て、クレマン様がたしなめる。


「ほら、まだあと一匹残っているぞ」


 見上げれば、生き残ったもう一匹が、どう攻撃しようか悩むように空を旋回していた。


「さすがに同じ手は使えないでしょうね」


「じゃあ、どうすんの?」


「このまま森へ帰ってくれたらいいが。そうでない場合どうするか」


 三人がうーんと頭を悩ませる。その隙に、フライヤーが再びこちらに向かって降りてきた。そして、口を開いて魔法を紡ぐ。それは、たった今ロゼッタが放った複数の矢みたいな炎だった。


「逃げろ!」


 クレマン様がそう叫ぶのと同時に、ロゼッタと私以外の二人は一斉にその場から離れる。しかし、私とロゼッタは逃げなかった。炎の矢は私達に直撃する。


 しかし、私達二人は無傷で立っていた。ロゼッタは私の後ろに隠れている。


「素晴らしい盾っぷりです。これ以上ない盾ですね」


「盾、盾言うな」


 ロゼッタが盾になった私の影から、迫りくるフライヤーを狙う。しかし、それに気付いた相手は、直前で急上昇してそれを回避した。


「悟られましたか」


「あんたの殺気がわかりやすいからなんじゃない?」


「どなた様かが、私を怒らせるようなことばかりなさるものですから。残り香があったのかもしれませんね」


「はいはい、私が悪ぅございました」


 フライヤーは、今度は旋回していなかった。すぐさま次の目標を探し始める。


 その時。


「クレマン、無事か?」


 そう叫んでこちらにやって来たのは、ラインハルト殿下だった。その声にフライヤーが反応する。


「殿下、危ない!」


「なに?」


 ラインハルト殿下は、フライヤーに気付いていない。それを好機とばかりに、フライヤーは再び魔法を紡ぎ始める。これはマズイ!


「あの、バカっ」


「アンジェリーク様!」


 ロゼッタの静止を振り切り、私はラインハルト殿下の元へ駆け出す。


 物語的にはレインハルトさえ生きていれば問題ないから、べつに私が助けに行かなくてもいいんだけど。

そんなことを冷静に考えられるほど、私は賢くないわけで。


 ラインハルト殿下に向かってフライヤーの魔法が放たれる。しかし、当たる直前で私は殿下を突き飛ばしてすり替わった。そのまま、魔法は私に直撃する。


 もちろん効かなかったわけだけど。舞い上がる土埃に紛れてフライヤーが私に直接攻撃を仕掛けてきた。


「このっ……」


 前足の爪をかろうじて短剣で弾く。やったと思ったのも束の間、後ろ足の爪が私の服の左肩に引っかかった。


「え?」


 そう呟いた時には、私の足は宙に浮いていた。


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