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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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感じたことのない誇らしさ

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願い致します。

「うおぉりゃあぁー!」


 急に身体が軽くなり、私は短剣を握りしめて全速力でマティアスの元へ向かう。そして、そのまま彼に襲いかかっているダークウルフの脇腹に、握っていた短剣を突き刺した。ダークウルフは絶叫を上げてマティアスから離れる。


「大丈夫、マティアス?」


「あ、ああ、助かったよ……って、もしかしてアンジェリーク様か?」


「そうよ。でも、このことは内密にお願いね」


「それはいいけど……って、危ない!」


「えっ?」


 と振り向こうとした時、突然激しい衝撃が身体を襲った。視認できたのは、ダークウルフと刺さった短剣。どうやら、先ほどのダークウルフが私に体当たりしてきたらしい。そのまま、私はなす術なく吹き飛ばされる。


「いっつー……」


 起きあがろうとしたら、右肩と左脇腹に強い痛みが走った。しかし、痛がる暇なく先ほどのダークウルフが牙を向けて私に覆い被さってくる。


「クソ……このっ」


 重い。なんとか喉元を掴んで押し返しているけれど、大の大人一人分以上の重さは、この非力な両腕では支えきれない。


 耐えられず、力負けする。すると、ダークウルフの大口が私の顔めがけて襲ってきた。反射的に首を左に捻ってかわす。戻ってきたダークウルフの口には、私の髪の毛が数本絡みついていた。


 もし噛まれていたら……。そう思うと背筋が凍りつき、鍛冶場の馬鹿力でなんとか押し返す。それでも、両腕はパンパンで限界なのは明らか。


「なにか……そうだっ」


 片手で剣の鞘を掴む。そして、それを今にも噛みつかんばかりのダークウルフの口にはめ込んだ。

 ダークウルフの開いた口から、粘っこい涎が滴り落ちる。吐く息は犬のそれのような、獣の臭いがして不快。


「くっ……」


 鞘がミシミシと音を立てる。あまり長くは持ちそうにない。何か武器はないか。短剣はこいつに刺さったままだ。


 左右を見る。すると、右手側に兵士が使っていたと思われる折れた剣先が落ちていた。もうあれしかない。


 右手を使うために、今度は脚を使って押し返す。そして、その折れた剣先に手を伸ばした。


「もう、ちょっ、とぉ……っ」


 中指が剣の先っちょに触れる。その間にも、暴れるダークウルフの爪が、私の腕や太ももや脇腹なんかを掠めていく。ついに鞘にヒビが入り始めた。


「と、ど、けぇ……!」


 精一杯手を伸ばす。あともう少しで掴める。


 その時だった。


 わざとなのか、それとも偶然なのか、ダークウルフの脚がその折れた剣に当たり、遠く向こうに飛ばされていった。


「そんな……っ」


 マズイ! もう武器がない。


 鞘がミシミシと音を立て、縦横大きなヒビが入る。


 これはもうダメだ。そう覚悟した時。


「アンジェリーク様!」


 マティアスがそう叫び、私に向けて剣を投げてくれた。それはちょうど私の右手の前に落ちる。私が柄を握るのと、ダークウルフが鞘を噛み砕いたのは、ほぼ同時だった。


「くらえー!」


 ダークウルフの口が、私の顔を覆う。


 しかし、噛み砕かれる寸前、私の剣がダークウルフの喉元を突き刺していた。そのまま、ダークウルフは力なく横に倒れ込む。今度は動かなかった。


「はあ、はあ、はあ……っ」


 心臓が、すごい速さで動いている。恐怖からなのか、限界に達した疲れからなのか、手が、脚が、小刻みに震える。それでも、胸に芽生えたのは、感じたことのない誇らしさだった。


「やった……やったぁ……っ」


 倒した、あのダークウルフを。怖くて一度は逃げ出してしまった魔物を、私はこの手でやっつけたんだ。


 震える手で拳を高々と掲げる。そんな私に、マティアスが駆け寄ってきた。


「やったな、アンジェリーク様!」


「うん!」


 マティアスは私の手を掴んで、そして力のままに起こしてくれた。


「全部マティアスのおかげだよ。あそこでマティアスが剣を投げてくれなかったら、私は本当に死んでた」


「何言ってんだ。剣の腕もない戦闘初心者なのに、俺を助けてくれたあんたのおかげだ。おかげで死なずにすんだよ。ありがとう」


「こちらこそ、ありがとう」


 そう言って、お互い固い握手を交わす。こんな風に誰かに認められるのは、素直に嬉しい。


 そんな喜びに浸っていると、急に背中に悪寒が走った。マティアスが私の後ろを見て、「あっ」と声を上げる。


 ゆっくり振り向くと、真顔のロゼッタが私を睨んでいた。


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