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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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魔法無効化の威力

 ロゼッタはというと、未だエミリアのそばについていた。


「どうです? 何か感じますか?」


「……なんというか、温かい何かを感じます」


「たぶん、それがあなたの魔力でしょう。では、今度は目を開けて、先ほどのように両手を傷口にかざしなさい」


「こう、ですか?」


「そうです。そうしたら、次にその温かいモノをその両手から傷口に注ぎ込むようなイメージで」


「温かいモノを、両手から注ぎ込むイメージ……」


 すると、レインハルト殿下の傷口付近に、再び青白い光が現れた。


「いいですよ、その調子です。魔力は少しずつゆっくり注ぐようにしなさい。魔力の過剰投与は身体に負荷をかけてしまいますから」


「はい、わかりました」


 ロゼッタの指導のおかげか、今度は青白い光はまとわりついたまま、消えることなくレインハルト殿下の傷を徐々に癒やしていく。


「あなたの場合、普段から繰り返し子ども達のすり傷程度の怪我を治す魔法しか使わなかったせいで、無意識に身体がその魔力量を覚えてしまったのでしょう。だから、すぐに魔法は消えてしまった」


「そうだったんですね。では、これからどうしたらいいですか?」


「一番手っ取り早いのは、大小様々な傷や怪我を毎日片っ端から癒すことです。常に魔法を使うことで魔力の感覚を身体に覚えさせ、さらに経験を積むことで、怪我の具合を見ただけで必要な魔力の量を計れるようにし、無駄な魔力消費を抑える。それが理想的です」


「なるほど」


「あとは、己の魔力量を知り、さらにはその量を増やす訓練をすること。もともと持って生まれた魔力量には個人差がありますが、それを鍛えて増やすことは可能ですから」


「そうなんですか?」


「ええ。体力をつけ、それを魔力に還元するのもありですが。一番効果的なのは、魔力を枯渇するまで酷使した後で、さらに魔法を紡ぐこと。そうすれば、一度壊した筋肉がさらに強くなって付くように、限界値を超えた魔力をさらに使うことでその値を引き上げることができます」


「つまり、限界を突破した分容量は増えるってわけね。今まで十だったのが、限界突破して十五になる、みたいな」


「まあ、そんな感じですね。ただ、枯渇した後でさらに魔力を使うのですから、その後は身体が動かなかったり、気を失ったりするほど、この訓練は過酷です。兵士でもないあなたにはおすすめしかねます」


「ウソ、ロゼッタがエミリアに気を遣ってる。私には厳しいくせに」


「あなた様は、ご自身で私に教えを乞うてきたのですから。厳しくするのは当然です」


「では、私もロゼッタさんに教えを乞うたら、魔法の使い方を教えてくださいますか?」


 レインハルト殿下の傷口を癒しながら、エミリアは真っ直ぐロゼッタの目を見つめる。さすがのロゼッタも一瞬たじろいだ。


「あなたは今の話を聞いていなかったのですか? 私の指導は厳しいです。あなたに耐えられるとは到底思えない」


「耐えます。私がもっと魔法を使えるようになったら、今こうして傷付いているたくさんの人達を助けることができるんですよね? だったら、ロゼッタさんの厳しい指導にも耐えてみせます。私はもう、守られているだけは嫌なんです」


「エミリア……」


「せっかく神様から与えられたこの回復魔法を、誰か人のために役立てたい。それが私の夢です」


 神様から与えられた、か。その目的は、本来レインハルトと結ばれるための付属品だったのに。今や主人公であるエミリアの夢になるなんて。


 うわ、どうしよう。なんか感動で泣けてきた。これが親心というやつか。


「いいじゃない、ロゼッタ。教えてほしいって言ってるんだから教えてあげれば」


「嫌です。どうして私がそんななんの得にもならないことをしないといけないのですか? 私は、どこからともなく危険を引き寄せてくるアンジェリーク様の護衛で手一杯です。エミリアだって、メイドとして働き始めたばかりでしょう? 今は仕事に集中しなさい。魔法の勉強は養成学校で好きなだけできますから」


「そこをなんとか! 使用人の仕事と両立させますから。お願いしますっ」


「ダメです」


「ロゼッタのケーチ」


「はあ?」


 唇を尖らせ抗議する私に、ロゼッタが気に食わなそうに睨んでくる。


 その時、フライヤーに弾き飛ばされた兵士が、私の近くに着地した。彼はその衝撃で立ち上がれない。


 気付くと、私達の周りに三匹のフライヤーが飛んでいた。それを見て、ずっとレインハルト殿下のそばで戦っていた近衛騎士が絶句する。


「ウソだ……」


「…………ロゼッタ、これヤバくない?」


「そうですね、この場を動けないレインハルト殿下とエミリアを守りながらだと、かなり厳しいかと」


 すると、フライヤー三匹が同時に口を開いて魔法を紡ぎ出した。まさか、一斉射撃するつもり!?


「ロゼッタ、そこの兵士と近衛騎士をレインハルト殿下の近くまで引きずって! みんな私の背後に隠れるように」


「しかし……っ」


「いいから早く!」


 もう時間がない。そう悟ったロゼッタは、舌打ちしながらも私の言う通りにする。クレマン様達もこの様子に気付いたらしい。


「逃げろ、アンジェリーク!」


「殿下!」


「レインハルト!」


 クレマン様、ダルクール男爵、ラインハルト殿下がこちらに向かおうとするが、距離からしてもう間に合わない。


 そして、三人とも間に合わないまま、フライヤーの魔法は私達に向けて放たれた。三匹分の魔法で紡がれた炎は、以前食らったものよりはるかに大きい。


 それでも、私は逃げることなく、目をつむりながらも背後にいる全員を守るよう立ち塞がる。そして、その魔法は直撃した。


「アンジェリーク!」


 クレマン様の叫びが、魔物の鳴き声に負けず聞こえてくる。


 巻き上がった砂埃のその真ん中、誰もが絶望的だと感じたその攻撃。


 しかし、砂埃が消えた先に、私は無傷で立っていた。もちろん、私の背後にいた全員も無傷で。


「……ふう。さすがに三匹の魔法一斉射撃にはビビったわー。でも、残念。あんたらの魔法は、私に効かないって実証済みなのよ。バーカ、バーカっ」


 無傷な私達を見て、魔物が悔しそうに羽をばたつかせる。戸惑っていたのは、私とロゼッタ以外の、この戦場にいた全員だった。


「なん、だ、今のは……」


「いったい、何が起こったというのだ」


 ラインハルト殿下とクレマン様の呟きが、フライヤーの鳴き声にかき消される。私は手近にあった石を一匹のフライヤーめがけて投げた。


「悔しかったら、ここまでおいでーだ。ロゼッタ、行くわよ!」


 そう叫んで、私はレインハルト殿下達から離れるように走り出す。


「やはり、そうなりますか。了解いたしました」


「あの、ロゼッタさん……っ」


「エミリアは、そのままレインハルト殿下を魔法で治癒し続けてください。いいですか? 何があっても冷静に対処するように」


「は、はい! わかりました」


 ロゼッタの言葉に、エミリアは慌てて返事を返す。ロゼッタはすぐに私に追いついてくれた。


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