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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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ジルの心配

「あれ? ジルどうしたの?」


 そこには、ジルがいた。彼は練習用の木製剣を握って素振りしている。私に気付いたジルは、一旦手を止めた。


「おはようございます、アンジェリーク様」


「今日はお客様が来る日だから、訓練はお休みって言われたわよね?」


「そうですけど。でも俺、一日でも早く剣士になりたいから。休みたくないんです」


「へえ、そうなんだ。やるじゃん」


 大掃除の後、どうせならと私はジルと一緒にクレマン様から剣を教わっている。


 ヤニスに襲われた翌日、エミリアとルイーズと一緒にジルも見舞いに来てくれたんだけど。私のボロボロの姿を見て、彼は泣いてしまった。「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」と何度も謝りながら。


 もちろん、ジルのせいじゃないよと抱きしめてあげたんだけれど。その一件以来、ジルは私に敬語を使うようになった。


「アンジェリーク様だって、なんでここに来たんですか」


「私も早く剣の技術を身につけたかったから。あと今日はロゼッタに指導してもらおうと思って」


「ロゼッタさんに?」


「彼女、こう見えて十二歳で魔法師養成学校に入学して、魔法だけじゃなく、剣術でもトップで卒業した天才なんだって」


「えっ、十二歳で?」


「そうです。私天才なんです。そんな私に教えを乞うのですから、死ぬ気でついてきてください」


「わかってるわよ。ちゃんと朝だってあの距離走り切ったし、その後の筋トレもやり切ったでしょ?」


「あれくらいで調子に乗ってもらっては困ります。本来なら今日の倍以上はこなしてもらわないと」


「……わかってるわよ」


 ぶー垂れながらも、木製剣を握って構える。ジルはロゼッタをじっと見つめていた。


「なんですか?」


「……十二歳で養成学校に入るのって、大変でしたか?」


 意外な質問に、思わず私もロゼッタもジルを見る。彼は気まずそうに視線を逸らした。


 ああ、なるほど。そういうことか。


「私も聞きたい。ロゼッタの学生時代の話」


 そうジルを援護しつつ、彼に見えないところでロゼッタにお願いのポーズをしてみる。すると、ロゼッタは小さなため息をついた。


「べつに、面白い話でもありませんよ」


 そう前置きしてから話し始める。


「ご存知の通り、十二歳で入学する人間は数えるほどしかいません。私が入学した時も、貴族、平民共に十二歳の者は私一人だけでした」


「たった一人……」


「そうです」


「嫉妬とかすごそうね」


「そうですね。初めの頃は面白くないと突っかかってくる輩がたくさんいました。十二歳なのに生意気だと」


「生意気……」


「べつに、好きで入ってるわけじゃないのに、ひどい言いがかりね」


「その通りです。毎回相手するのがあまりに面倒だったので、一度強めに脅したんです。そうしたら、今度は誰も近寄らなくなりました」


「さすがロゼッタ。いじめに屈しないどころか蹴散らすとは。お見事です」


「でも、一人になっちゃったんですよね? 寂しくはありませんでしたか?」


 ジルが寂しそうな顔でロゼッタに質問する。彼女は少し間を置いた。


「いくら強がっていても、所詮は十二歳の子どもです。寂しくないと言えばウソになります。ですが、泣こうが喚こうが、現状が変わるわけではありません。受け入れて前に進むしか方法はありませんでした」


「そう、ですか」


「いずれ、ルイーズも十二歳になれば養成学校に入学するでしょう。クレマン様にも推薦していだだけるよう動いてもらっています。あなたも彼女の魔力の大きさには気付いているのでしょう?」


 ロゼッタがそう聞くと、ジルは不本意ながらも頷いた。


「あのっ、ルイーズの入学の件、みんなと同じ十五歳からじゃダメですか? 確かに力は強いだろうけど、そこはなんとか隠して……」


「無理ですね」


 ロゼッタがバッサリ切り捨てる。あまりの切れ味に、ジルは続く言葉を失ってしまった。


「確かに、十二歳であれば魔力検査を受ける年齢ではないので、誤魔化すこともできるでしょう。しかし、それは彼女のためになりません」


「ルイーズのため?」


「そうです。今までのようにきちんと魔法と魔力を制御しきれず、感情のままに暴走を繰り返していたら、いずれ死者が出るでしょう。それを今の彼女は受け止められますか?」


「それは……っ」


「本気で彼女のためを思うのなら、今のうちからきちんと魔法を制御する方法を学ぶべきです。それほどまでに、彼女の力は強いのですから」


 ロゼッタにそう言われ、ジルが私を一瞥する。ルイーズの魔法が暴走した時、当たりどころが悪ければ私も危なかった。


 ロゼッタの言い分は正しい。たぶん、ジルもそれはわかっているのだろう。


「……でも、一人は寂しいじゃないですか。両親を亡くして、孤児院にきてやっと一人じゃなくなったのに。それなのにまた引き離すなんて」


「安心なさい。きっと、エミリアもルイーズと同じ年に養成学校へ入学させられるでしょう。一人じゃありません」


「でも、いじめられるかもしれないじゃないですか! 年下なのに生意気だって。もし相手が貴族だったら、エミリア姉ちゃんだって守りきれないっ」


 ジルは悔しそうに剣の柄を握りしめる。今回の件で、貴族に対する警戒をより一層強めたのだろう。

ジルの背後に漂うのは、無力感。こんな時何もできない自分が、悔しくて、情けなくて、辛いのだろう。


 どうフォローしようか。そう悩んでいると、背後から声が聞こえた。


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