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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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快復祝い

 お屋敷からの道を真っ直ぐ下り、カルツィオーネの中心街へと入る。早朝だからか、空いているお店や準備中のお店はまばらだった。


 そんな中を走っていると、一人の女性に声をかけられた。


「おはようございます、アンジェリーク様。朝お早いんですね」


「ケイトさん、おはようございます。今体力つけようかと思って、訓練してるんです」


「へえ、ご令嬢なのに大変ですね」


「いえ、自分で選んだことですから。それより、お店の準備中ですか?」


「そうなんですよ。今日も稼がないとね」


 そう言ってウインクしてみせる。その後ろで、ルイーズより少し小さめの女の子が小さく会釈してくれた。


 ケイトさんは、ここら辺では有名な針子さんらしく、運動に必要な衣服が無いとミネさんヨネさんに話したら、それがケイトさんに伝わり、古着の男物の服を私のサイズにリメイクして作ってくれたのだ。しかも、ロゼッタの分まで。


「この服ありがとうございます。とても動きやすくて気に入ってます」


「そうですか? そう言っていただけたら、作りがいがあるってもんです。今、剣士用の服も作ってるところですから、楽しみに待っててくださいね」


「ほんとですか? ミネさんヨネさんから聞きましたけど、その話本当だったんですね」


「本当ですとも。女性物の剣士服なんて初めて作るもんですから、腕がなりますよ」


 そう笑いながら、ケイトさんは右腕を二回叩いた。





    ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー





 話は六日前。


「アンジェリーク様、本気ですか? クレマン様から剣を教わるなんて」


「女性なのに、なにもそこまでしなくても」


 早速どこからか情報を仕入れてきたミネさんヨネさんに私は捕まっていた。


「クレマン様には、ここを出て行くことを勧められました。もちろん、私の身を案じてのことですが」


「それはそうでしょう。私だって、寂しい気持ちはありますが、クレマン様と同じことを提案いたしますわ」


「人間、死んでしまっては元も子もないですもの。アンジェリーク様がまた傷付くところを見たくはありませんからね」


「ありがとうございます。でも、それは逃げるみたいで嫌だったんです。どうせここを離れたって継母から命を狙われるリスクが減るわけではありません。だったら、気に入っているこの地で暮らそうかと思って」


「ですが、またヤニスのような輩に襲われてしまうかもしれませんよ?」


「それも覚悟の上です。ですが、今度はやられっぱなしにはなりません。そのための対策として、クレマン様とロゼッタから武術を教わるのですから。次は返り討ちにしてやりますよ!」


「まあ」


「すごい気合い」


「だって、悔しいじゃないですか。やられっぱなしなんて。私は、自分の身くらい自分で守りたいんです。待つくらいなら自分から仕掛ける。逃げるくらいなら迎え撃つ。今の私の立場では、逃げ腰ではどこへ行っても安定した人生は送れませんから」


「難儀な人生ですね」


「変われるものなら変わって差し上げたいくらいですわ」


「そうですか? 私は結構気に入ってますよ。いつかロゼッタみたいに敵をバッサバッサと倒してみたいなぁ」


「そのためには、訓練が必要です。そのことをお忘れなく」


 横にいたロゼッタが静かにたしなめる。私はわざとらしく敬礼した。


「はい、わかっております、先生!」


「はじめに言った通り、私の指導は厳しいですから。覚悟しておいてください」


「はいっ」


「では、明日から早速走り込みでも始めましょうか」


「よっしゃ、かかってこいやぁ!」


 調子に乗って拳を高く突き上げたら、ロゼッタにガーゼをしている頬をつねられた。


「いだだだだっ」


「これはおふざけではありません。真剣に取り組む気がないのなら、私は降りますから」


「真剣れふっ」


 なんとかそう答えつつ、ロゼッタの腕をバシバシ叩く。すると、「結構」と呟いて彼女は私の頬から手を離してくれた。ロゼッタが離した頬がジンジン痛む。あの目は鬼教官のそれだ。


 痛がる私を見て、ミネヨネさんが心配そうな顔をする。


「もう動いて大丈夫なのですか?」


「結構、殴られたり蹴られたりしたのですよね?」


「たぶん、動けているので大丈夫だと思います。骨が折れてたりしたら、あまりの痛さにベッドから動けないでしょうし」


「相手は男とはいえ、十代の非力な少年で助かりましたね。これがもし筋力のある盗賊だったら、ダメージはもっと深刻だったでしょう」


「と、ロゼッタ先生が申しております」


「まあ、ロゼッタさんがそうおっしゃるのなら」


「私達は見守るだけですわ」


「ありがとうございます。もうみなさんにご心配はおかけしませんから」


「できない約束はしない方が賢明ですよ」


「ロゼッタ、うるさい」


 私とロゼッタのやりとりを見て、ミネさんとヨネさんがやっとホッとした顔で微笑んだ。


「それはそうと、運動するための動きやすい服はあるのですか?」


「いえ、それが無いんですよ。まさかこんなことになるとは思ってもみなかったので。もともと持っていなかったというのもあるんですけど」


「では、知り合いに頼んで作ってもらいましょうか?」


「ほんとですかっ? でも、一から作ってもらうのはちょっと申し訳ないですね」


「いえいえ、もう使わなくなった男性物の服が余って困ってると申しておりましたから、サイズを測って、それを少し作り直せば明日には間に合うかと」


「リメイクですね!」


「ですが、着古したものなので、アンジェリーク様がお嫌でなければ、ですが」


「嫌じゃないです。使えるのに捨てるのはもったいない。是非使いましょう!」


「まあ、アンジェリーク様ったら」


「あなた様ならそう言うと思ってました」


 そう言って、二人ともふふふっと笑う。笑い方まで瓜二つだ。


「では、ついでにロゼッタさんのもお願いしておきましょうね」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「では、善は急げですわ。今から知り合いの針子の所へ行きましょう」


「ついでに、剣士用の制服も注文しておきますね。さすがに女性物は一から作らないと無いでしょうから。これは私達とココット三人からの少し早い快復祝いです」


「そんなお祝いだなんて! 私の方こそ迷惑ばかりかけて、何かお礼しないといけないのに」


「いいえ、そんなことありませんわ。アンジェリーク様がここへ来てから、私達は毎日が楽しくてしかたありませんの」


「そのお礼を何かしたいと、ずっとヨネやココットと話していたんですよ。ですから、どうか受け取ってください」


「ミネさん……ヨネさん……ありがとうございます」


 どうしてこの地を離れ難いのか。


 それは、自然が気に入っているというのもあるけれど、一番はどの人達も優しくて温かいから。


 クレマン様も、ミネさんもヨネさんもココットさんも、おまけでニール様も。みんな私に優しくしてくれる。本気で心配してくれる。それがとても嬉しくて。


 まるで家族みたいだ。


「お祝いといっても、伯爵様のご令嬢が普段身に付けていらっしゃる服よりもだいぶ見劣りしてしまうと思いますが」


「ごめんなさい、これが私達の精一杯でしたわ」


「見劣りなんてそんなっ。今の私にはもったいないくらいです。本当に、本当に、ありがとうございます!」


 喜ぶ私を見て、ミネさんヨネさんも嬉しそうに微笑んでくれる。

 

 この人達のためにも強くなろう。そう思えた瞬間だった。


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