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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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世界は、こんなにも美しかったのですね

 翌日の早朝。夜明け前。


 私とロゼッタは、部屋のベランダに並んで立っていた。


「べつに、私に合わせて早起きしなくてもいいのに」


「ご冗談を。主人が起きているのに、従者である私が寝ているわけにはいかないでしょう。それに、アンジェリーク様のいびきと寝言がうるさくて寝られませんでした」


「ウソつけ。私が髪やほっぺた触ってもビクともしないくらい爆睡してたくせに。私のほうこそ、あんたの寝相の悪さのせいで寝れなかったわよ」


「それこそウソですね。寝相が悪かったのは、アンジェリーク様の方ですから。寝ながら私に抱きついてきた時は、何事かと焦りました」


「……だって、抱き枕あった方が安心して寝られるんだもん。ロゼッタはスタイルいいから、ジャストフィットだった」


「お子様ですね」


「うるさい!」


 猫のように、うー、とロゼッタを威嚇してみる。しかし、途中で可笑しくなって二人とも笑ってしまった。


 相変わらず、夜明け前の空気は冷たく、キンと張り詰めている。怪我をした箇所にはちょっと染みた。


 そんな私の様子を見ながら、ロゼッタはベランダから望む景色に視線を移す。


「昨夜の話ですが、未だに信じられません。この世界が、あなた様によって作られたものだなんて」


「でしょうね。私だって、まさか前世で書いていた自分の小説の中に転生するなんて思いもしなかったわよ。でも、私にはこれが現実なの」


「前世、つまり異世界での記憶、ということですよね。確か二十六歳だったとか。そこは妙に納得しました。どうりで言動が十代らしくないわけです」


「まあね。でも、十代に若返ったのにラッキーと思えないのは、あまりにもアンジェリークの人生が波乱万丈すぎるから。彼女、小説の中ではモブキャラ……つまり脇役中の脇役だったわけ。それなのに、こんなに命の危機に瀕するなんて聞いてない」


「もしかして、あなた様がおっしゃっていた通り、この世界がアンジェリーク様を殺そうとしているのでしょうか」


「わからない。でも、鈴木昭乃というイレギュラーが介入したことで、物語が大きく変わり始めてるのは事実。それは、主人公であるエミリアがクルムではなく、ここカルツィオーネにいたことで確信した。もしこの世界が小説の原作通りに軌道修正しようとするならば、邪魔なのは転生してきたイレギュラーな私。排除しようと動き出しても不思議じゃないわ」


「なるほど。それは厄介ですね。私自身もどうお守りすればいいか……」


 ロゼッタはアゴに手を当てて、真剣に考え始める。そんな彼女の姿に、私は思わず苦笑した。


「こんな荒唐無稽な話、信じてくれるんだ」


「いえ、正直まだ半信半疑です。内容があまりにも浮世離れしているものですから」


「でも、はなからそんなことないって全否定しないのね。それだけでもちょっと嬉しいかも」


「あなた様の顔に、信じて欲しい、と書いてありましたから。主人の思いに応えるのが従者の仕事かと」


「相変わらず真面目なのね」


「お好きなのでしょう?」


「うん、大好き」


 照れることなく答えると、ロゼッタの方が頬を薄く染めた。相変わらず反応が可愛い。


「べつに、無理して信じなくてもいいからね。ただ話を聞いてくれるだけでも、一人じゃないんだって思えて私は嬉しいから」


「ですが……」


「私、苦手なのよね。全幅の信頼を寄せられるの。信じてほしい気持ちもあるけど、私という人間を全部信じてほしくはないというか」


「なんですか、それ」


「だって、自分はそういうつもりじゃなくても、相手の受け取り方で、裏切られた、って思う人もいるじゃない? その後の気まずい感じが嫌なの。後が怖いし」


「まあ、信じた相手に裏切られた人間は、何をするかわかりませんからね。これは経験則です」


「でしょ? だから、私達はもっと気楽に付き合いましょう。ロゼッタは今まで散々裏切られてきたんだから、そんな簡単に私のこと信じられないのは当たり前だし。だから、信じられるところは信じて、信じられないところはそのままでいい。それでもお互い一緒にいたいと思えたのなら、それだけで十分素敵なことじゃない」


「相変わらず、あなた様は意味不明ですね。でも、あなた様らしい見解です」


「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわ」


 そうこうしているうちに、遠く向こうの山から日が昇り、カルツィオーネの大地を暖かく照らしていく。


 何度見ても感動する光景だ。まるで暗く沈んだ気持ちを明るく照らしてくれるように、心が軽くなっていく。


「よーし、今日も一日頑張ろう!」


 大きく伸びをしたら、脇腹付近に痛みが走った。それを見て、ロゼッタが小言を挟んでくる……と思っていたけれど。


 彼女は未だ照らされていく世界を眺めていた。


「ロゼッタ? どうしたの」


 返事はない。異変が起きたのはその直後だった。


 ロゼッタの目から、一粒の涙がこぼれ落ちていったのだ。


 もちろん、慌てふためいたのは私。


「ちょっ、えぇっ? なに、なんで? ロゼッタ、もしかして情緒不安定なの?」


「…………すね」


「え?」


「世界は、こんなにも美しかったのですね」


 噛みしめるようにそう呟く。


 まるで、今までのロゼッタと、これからのロゼッタを集約したような一言。


 彼女はやっと、この世界を美しいと思えるようになったんだ。光も差さない、夜のような真っ暗な世界から、彼女は一筋の光を見つけた。そう思ったら、不覚にも感動してしまって。


 気付いたら、私はロゼッタの手を握っていた。


「当たり前じゃない。この私が作ったんだから。それはもう、私の心のように綺麗でしょ」


「あ、急に何も感じなくなりました」


「おいコラ」


 そんな軽口を叩きつつ、お互いしばらくその景色を眺めていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

筆が遅く、毎回一話分が短くてすみません。

ブクマや評価もありがとうございます。かけがえのない作者のモチベーションとなっております。

さて、第三章からはやっと王子達が出てくる予定です。アンジェリークの受難はまだまだ続きます……頑張れ。

これからも、楽しんで読んでいただけたら幸いです!

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