あなた様の力になりたい
「どうしたの?」
「ミネさんからあなた様の言伝を聞いた時、最初は意味がよくわかりませんでした。ですが、その後でジルが事の次第を話してくれて、その時初めてあなた様が私が助けに来るのを信じて待っていらっしゃると気付きました」
「そっか。ちゃんと伝わってて良かった」
「どうして、私のことを信じられたのですか? 私はあなた様の命を狙ったことがあるのに」
「ロゼッタ?」
「正直、私はまだあなた様を信じきれていません。もし、たとえばここの使用人達や、ここの領民達に、私がドラクロワ家の末裔だと知られて嫌われてしまったら。あなた様も私を捨てるのではないか。そんな不安が拭えないのです。あなた様は、私のことを信じてくださったのに……っ」
まるで、信じられない自分を責めているかのような顔。
まさか、ロゼッタがそんなことを考えているとは思ってもみなかった。
とりあえず、右手でロゼッタを手招きする。最初怪訝な顔をしていた彼女は、首を傾げながらも私の方へ顔を近づけた。そして、程よい距離になったところで、彼女の額に軽くデコピンを食らわせた。
「っ……なにをっ」
「やーい、やーい、引っかかったー」
「はあ?」
片眉をピクリと動かしたロゼッタが、躊躇いなくガーゼで覆われた私の鼻を摘む。あまりの痛さに思わず叫んだ。
「いたたたたっ! ロ、ロゼッタマジで痛い! ギブ、ギブっ」
「大丈夫です、折れていたらこんなに喋れないはずですから。良かったですね」
「ごめんなさい、もうしませんっ!」
ひーん、と涙目になりながら、ギブアップの証にロゼッタの腕をバシバシ叩く。すると、ロゼッタは大きなため息をついた後で、やっと解放してくれた。
「人が真剣な話をしているのに、茶化すとは何事ですか」
「だって、ロゼッタが泣きそうな顔してたから。今誰の泣き顔も見たくなかったの」
「失礼ですが。私はそのくらいのことで泣きません」
「ほんとにぃ?」
「ほんとです」
わざとらしく顔を覗き込んでみたけれど、ふいと上手くかわされた。私に泣き顔を見られたことが、よっぽど悔しかったらしい。
そんなロゼッタを見て、思わず頬が緩んだ。
「なんで私がロゼッタのことを信じられたか。それはね、あなたが私の命を狙ったことがあるからよ」
そう答えると、ロゼッタは眉間に深いシワを寄せた。
「言ってる意味がよくわからないのですが」
「あの時、あなたは捜索隊よりも先に私とレオ様を見つけ、なおかつ魔物をあっという間に倒した。だから、今回もきっと見つけてくれると思ったし、どれだけ雑魚が大勢いようとも、ロゼッタの敵じゃないと確信が持てたの。それに、あなたは職務に対して真面目で勤勉だから。私との契約もきっと疎かにしないだろうと思ったわけ」
「それだけですか?」
「それだけじゃないけど。これ以上言ったら、今度は鼻折られると思う」
「とりあえず、言ってみてください。その後で判断します」
「普通そこは、何もしませんから、って言わない?」
言うのが怖いんですけど。それでも、ロゼッタは私が口を開くのをじっと待っている。
これ、言うまで解放してくれないな。
ロゼッタの目を見てそう感じ取ると、私は観念して続きを紡いだ。
「……ロゼッタは、私のこと大好きだから。唯一の誇りである暗殺業を手放してまで私について来てくれるほどだもの。そんな相手をみすみす死なせたりはしないだろうと、そういう思い上がりもありました。すみません!」
ひぃっ、と言い終えた後慌てて両手で顔をガードする。
絶対怒られる。というか、きっと激しい照れ隠しが襲いかかってくるはず。
案の定、ロゼッタの手が私に伸びてきた。やばい、鼻折られる。そう思い、キツく身構え目をつむった。
しかし、ロゼッタの手が触れたのは、私の鼻ではなく、縦ロールの髪だった。
「そうですよ。悔しいですが、今やあなた様は私にとって大切な居場所です。あなた様といると、心が温かくなる。私も血の通った人間だったんだと思い出させてくれる。そんなとても大切な人です。だからこそ、今回の件は血の気が引きました。もし、あなた様を失ってしまったらと思うと、怖くて怖くてたまらなかった」
「ロゼッタ……。心配かけて、本当に本当にごめんなさい」
「そう思うのなら、これからは私にはなんでも話してください。嬉しかったこと、悲しかったこと、誰にも言えない悩みや、隠している事などすべて。あなた様を支えられるのは、この私だけだと信じさせてください。私は、あなた様の力になりたいのです」
ロゼッタの目は真剣だった。
ああ、そうか。
なんで前世のことをロゼッタに話した時イライラしてしまったのか、その原因が今わかった気がする。
どうせ言ったって信じてもらえない。それがどうしてこんなにも辛かったのか。
私は、ロゼッタには信じて欲しかったんだ。前世のことや、この世界のことすべて。だからこそ、否定され続けるのが怖くて言えなかった。
でも、それじゃあ何も変わらない。
私の髪に触れていたロゼッタの手を取る。そして、両手で優しく包み込んだ。
「わかった、ロゼッタには何でも話す。たとえ信じてもらえなくても、あなたにだけは全部話す。だって、私もロゼッタに負けないくらい、あなたのこと大好きだから」
たとえ信じてもらえなくても、ロゼッタならすました顔で話を聞いてくれる。そしてきっと、訝しみながらも私に付き合ってくれるはず。たぶん、それだけでも嬉しい。
世界と戦っているのは私だけじゃないって思える。それがこんなにも心強いなんて。
「じゃあ、今日は一緒に寝ましょう。話はベッドの中でする」
「ずいぶんと素直に甘えるんですね」
「だって、正直目を閉じたら今日のこと思い出しちゃうんだもん。でも、あなたがそばにいてくれたら、夢の中ででも私のこと守ってくれそうだから安心する」
「甘え上手ですね。そんな風に言われたら、拒否できないじゃないですか」
「する気ないくせに」
「はい」
言い終えた後、二人同時に微笑んだ。
今日は色々と濃い一日だったけど。まだ終わってほしくない。
そんなことを思いながら、私は包み込んでいたロゼッタの手を握った。




