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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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暗殺者と踊る死の輪舞

この話には、残酷な描写が含まれています。苦手な方はご注意ください。

 ありえない訪問者に、ヤニスだけでなくこの場にいた全員が振り返る。


 その視線の先にいたのは、暗殺者の雰囲気をまとったロゼッタだった。


「なんだ、テメェ。死にたくなかったら引っ込んでろ」


 男の一人が剣をチラつかせてロゼッタに近づく。しかし、彼女は目にも止まらぬ速さで肘で男の顔面を殴った。「がっ」という声とともに、男は尻もちをつく。


「邪魔です」


「こっのやろう!」


 男が立ち上がってロゼッタに剣を振りかざした。しかし、彼女はそれを直前であっさりかわす。そして、バランスを崩してよろけた男の後頭部を鷲掴みして、そのまま顔面を勢いよく地面に叩きつけた。大根を棍棒で叩き潰した時のようなグチャっとした嫌な音が響く。


「ああ、すみません。手加減するのを忘れてしまいました。私今、人生で感じたことのないくらい絶望的に不機嫌なので」


 振り返った時の、激しい殺意をまとった冷めた目が男達を射抜く。ヤニスの笑いが霞んでしまうほど、心の芯からゾッとする恐怖だった。


「……遅いじゃない、ロゼッタ。おかげでまたボロボロよ? どうしてくれんの」


「申し訳ありません。その罪は、このクズ達の命で償わせてもらいます」


「嫌よ、こんな汚いの。いらないわ」


「まさか、ここまでされて、殺すな、なんて言いませんよね?」


「言うわ。殺しちゃダメ」


「はあ?」


「私にこんな怖い思いさせといて、死んで簡単に楽になるなんて許さない。どうせなら、生きてることを後悔させるくらいギリギリに痛めつけて生かしなさい」


 今の私はどんな顔をしているのだろう。私のその命令に、ロゼッタは獣がするそれのように怪しく微笑んだ。


「あなた様も、相当性格が歪んでいらっしゃいますね」


「だって、あなたの主人だもの」


 不敵に笑って返す。


 不思議と誰も声を発さない。それもそうだろう、全員がロゼッタの殺意に触れて固まっている。ヤニスなんか、恐怖で身体が震えてるくらいだ。


「お、お前達! こいつを殺せ! 殺した奴には金を上乗せしてやるっ」


 ヤニスのこの一言で、男達の金縛りが解けた。彼らは一斉にロゼッタへと向かっていく。


「さあ、一緒に踊りましょうか。死の輪舞を」


 ロゼッタが懐から大きめなナイフを二本取り出して、左右の手に一本ずつ握る。そして彼女は動き出した。


「うぎゃあっ」


「うげぇっ」


「あぁぁぁ!」


 それはまるで、男達の悲鳴で踊る舞のようだった。


 男達の攻撃はことごとくかわされ、一瞬の隙に腕や脚が飛び散っていく。ある者はナイフで肩と脇腹を木の幹に縫い付けられ、またある者は眼球を切りつけられ血飛沫をあげる。


 それでも、男達の呼吸は止まっていない。悲鳴とうめき声が音楽のように彼女を軽やかに動かしていく。


「く、来るなぁ!」


 魔法を使っていた男が、蔦を操ってロゼッタを襲う。しかし、それは彼女に届く前に炎に飲まれ灰と化していった。


「なっ……ど、どうして……っ」


「あなたは、"木"の魔法使いのようですが。私は"火"の魔法使いなんです。なんなら、この森全部燃やして差し上げましょうか?」


「う、うわぁぁ!」


 男は恐怖に逃げ出した。しかし、ロゼッタがそれを許すはずもない。


 ナイフを投げて男の脚に命中させると、彼女は動けなくなった男の顔を鷲掴みした。


「あっ……やめ……っ」


「さようなら」


 手から炎が出て、男の顔が焼けていく。地面にのたうち回るその男を踏みつけナイフを抜き取ると、ロゼッタは残りの一人に近づいていった。


 その男は、私の所まで駆け寄ると、震える短剣を私の首に向ける。


「く、来るな! 来たらこいつの命はないぞっ」


「バカなんですね。あなたにその方は殺せない。なぜなら、殺せば枷の外れた私に確実に殺されるからです」


「う、うるさいっ」


 短剣の先が首に触れ、注射針に刺されたような痛みとともに細い血が流れていく。自分でも不思議なくらい恐怖は感じなかった。


 男の脅しに動じることなく、ロゼッタの歩みは真っ直ぐ男へ向かって行く。それを見て、彼の恐怖は臨界点を突破したらしい。


「うわあぁぁ!」


 大きく剣を振りかざして、私めがけて振り下ろそうとする。その時だった。


「いてぇ!」


 突然、男が叫んで剣を落とす。見ると、かろうじて目を覚ましたレオナードが、男の足の甲に小さなナイフを突き立てていた。


「これ、くらい……男……廃るっ、てな……っ」


 不敵に笑った後、彼は意識を失う。「くそっ」と男が剣を拾った時には、もう目の前にロゼッタが立ち塞がっていた。


「丁度いい。立っていたら邪魔です」


 ロゼッタは冷たくそう言うと、躊躇いなく男の両肩にナイフを突き立てる。彼は耳障りな悲鳴を上げながら、そのまま地面に倒れ込んだ。


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