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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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子飼いの盗賊現る

この話には、暴力的な表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。

「あーあ、僕としたことが。経費削減と思って、そこら辺のチンピラを雇ってみたけど、失敗だったな」


「何言って……」


「保険をかけといて正解だったよ。やっぱりこういうのは、子飼いの奴らにしとかなきゃね」


 言った直後、物陰からゾロゾロと柄の悪い男達が出てきた。ざっと見て十人以上はいる。中には腕や首元にドラゴンのような刺青をしている人達もいた。


 そいつらを見て、リーゼント男が叫ぶ。


「もしかしてこいつら、"常闇のドラゴン"か!」


「"常闇のドラゴン"? 何そのダサい名前っ」


「ここら辺を牛耳ってる大盗賊団だ。数も多いし、手段選ばず相手を襲うことから、魔物よりタチが悪いって噂だ」


「そんな奴らが……」


こんな大集団で私一人を襲おうとしてるなんて。彼らのその卑劣さがよく伝わってくる。


「嬢ちゃん、逃げろ!」


「え、あ、はいっ」


 リーゼント男の迫力に、頭で考えるよりも先に足が動き出す。しかし、私の行手はあっさりと塞がれた。


「おっと、そう簡単には逃さねぇよ」


「……っでしょうね」


 逃げ道を塞がれ、三兄弟と私はジリジリと集まる。


「トマ、イザック! この嬢ちゃんから離れんなよ」


『がってん!』


「あんたも、俺達の後ろにいろ」


「でも……っ」


「男レオナード、ここで女一人見捨てて逃げるなんざ、俺のプライドが許さねぇ。なあ、お前達!」


『おうともよ!』


 まさか、前に襲われた盗賊達に守られるとは。でも、これはラッキーかもしれない。少なくとも、ロゼッタが来るまでの時間稼ぎにはなる。


「雑魚はいくつ集まっても雑魚だよ。僕に逆らったこと、後悔させてやる」


 ヤニスが短く「やれ」と命令する。すると、盗賊達は一斉にかかってきた。


「うおぉりゃあぁぁ!」


 三兄弟達は、目の前に来た一人一人を殴ったり、剣などで押し返したりして、盗賊達を蹴散らしていく。


 あの時はロゼッタが相手だったからよくわからなかったけど、彼らは普通よりは強いらしい。


「おらおら、どうした! これが常闇のドラゴンの実力かぁ?」


 レオナードは自慢のリーゼントを手で直しながら、白い歯を見せつつ相手の顔面を殴る。


 いける。これなら勝てるかも。


 しかし、上手くいったのは最初だけだった。突然、三兄弟の手や足に多くの蔦が絡まっていく。


「な、なんだこれっ」


「くそ、動けねぇ!」


「これは、魔法かっ」


 レオナードが舌打ちする。よく見ると、奥にいた一人の男が右手を掲げて立っていた。


「悪いねぇ。これが常闇のドラゴンの実力だよ!」


 無抵抗になった三兄弟達に、盗賊達が次々に暴行し始める。まるでサンドバック状態だ。


「やめて! もうやめてよ!」


 私がそう叫んでも、男達の暴行は止まらない。そんな様子を、ヤニスはつまらなそうに眺めていた。


「お前達、殺すなよ。後処理が面倒だから」


『ういー』


 その後もサンドバック状態は続き、三人の意識がなくなったのを確認して、蔦はスルスルと解けていった。


 代わりに、逃げ出そうとしていた私の腕や足に絡まっていく。


「なんで……っ」


 私には魔法が効かないんじゃなかったのっ? なんで魔法で操られた蔦が絡みついてくんのよ!


 私の魔法無効化の効力がわからない。左右をガッチリ固められて動けないし、敵は十人以上、すべて男でタチの悪い盗賊。退路はたった今断たれた。これはもう、万事休すだ。


 くそ、くそ、くそ!


「逃げないでよ。これは君が主役なんだから」


「主役? 冗談やめて。私は脇役で十分よ」


「そう謙遜するなって」


 ヤニスが私のアゴを掴んで正面を向かせる。そして、勝ち誇ったかのように口の端を上げた。


「大丈夫、殺したりはしないから。ただちょっと、半殺しにするだけだからさぁ」


 耳障りな笑い声が森にこだまする。それを聞いていると、背筋にゾッと寒気が走った。


 私は、こんな奴にやられてしまうのだろうか。平民を当たり前のように差別し、クレマン様への尊敬の念も何も持たない、ただ己のことしか考えてないこんな利己的なクズに、私は負けてしまうのだろうか。


 いや、負けてしまうんだろう。この三兄弟達のように。


 前世でだってそうだった。ただの歯車の一つのように働いて、要領の良い後輩が私より先に上へいくのを仕方ないと諦めて自分自身を納得させ、結局何者にもなれず社会に埋もれていって。


 そうだ、はなから負けてんじゃん、私。今さら何守ろうとしてんだろ。


「なんだよ、その目つきは」


「私はね、怒ってんの。あんたがクレマン様をなめてること」


「はあ?」


「クレマン様は、軍神とまで言われてる人よ。そんな人が、相手が勇敢に戦ったかどうかなんて、その状態をみれば一発でわかるわ。あんたの計画は、はなから失敗してるのよ。ざまあないわね」


 そう言うと、また左頬を叩かれた。


「お前、今の状況理解してんの? あ、そっか。バカだから理解できないのか」


「そうよ、あなたと一緒でバカだからわからない。でも、これだけは言えるわ」


 私はヤニスの目を真っ直ぐ捉えて、不敵に笑ってやった。


「お前みたいな奴が、クレマン様を下に見てんじゃねーよ! このクズ野郎が!!」


 最後にヤニスの顔に向けて唾を吐く。すると、カッとなったヤニスに顔を殴られた。


「クズは、お前だろう、が!」


 そのまま、今度は立て続けにお腹を数発殴られ蹴られる。最後にもう一発顔を殴られると、鼻から何かが垂れる感触がした。すすってみると血だった。


「ハァ、ハァ……っ。命だけは助けてやろうと思ったが、気が変わった。死ね」


 ヤニスは右手を押さえながら、後ろに下がっていく。私の目の前には、柄の悪い男達だけになった。


 あぁ、全身が痛い。呼吸するだけでズキズキする。それでも、口の中が切れて血が流れ出しているのに、歯が折れてなくて良かったと冷静に喜んでいる自分に笑いが込み上げてきた。


 ああ、そうか。私の頭のネジ、一本吹っ飛んじゃったんだ。


「あはははははははははっ!」


 突然大声で嗤い出した私に、男達が何事かとビクつく。そんな様子まで可笑しい私の嗤いは止まらない。


「なんの冗談よ、これ。私の人生なんなの? 車に轢かれて死んだと思ったら、今度は馬車に轢かれて。その次は魔物に暗殺者? いったいどうなってんのよ。マジ笑えるんだけど」


「なんだ、こいつ」


「恐怖で頭イカれちまったか」


「黙れ」


 男の一人が私の胸倉を強く掴んで睨んでくる。そんな相手に対しても、私の笑いは止まらなかった。


「これじゃあまるで、世界が私を殺そうとしてるみたい。あなたもそう思わない? ロゼッタ」


「はい」


 私のその呼びかけに答えたのは、紛れもなくロゼッタの声だった。


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