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ヤニス・ロイヤー登場

「ニール、どうした?」


「クレマン様にお客様です」


「客? 今日訪問予定は無かったはずだが」


「それが……」


「すみません、突然来訪してしまって。ですが、どうしてもクレマン様にお会いしたかったものですから」


 そう言って、ニール様の後ろから現れたのは、一人の男性だった。身なりですぐわかる。貴族だ。


「ヤニスか」


「うわぁ、呼び捨てしてくださるなんて嬉しいです。ありがとうございます」


「今日は予定があるから無理だと断ったはずだが?」


「はい。ですが、街の者から今日クレマン様のお屋敷をみんなで掃除なさると聞いて。僕でも何かお手伝いできないかと思って、失礼は承知で来てみたんです」


「残念だが、もう掃除は終わっている。来るのが遅かったな」


「ですが、お食事には間に合いましたね」


 柔らかい口調でニコニコと話しているけれど、なんだかどこかウソくさくて気持ち悪い。


 思わずニール様に近寄って声をひそめる。


「あの、あの方はどちら様ですか?」


「前に話した、ロイヤー子爵家の次男坊だ。掃除を手伝う気なんかさらさらないくせに、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものだ」


「しかも、タダでココットさんのご馳走食べようとするなんて信じられない。もうそれだけでどんな人物か想像できました」


「どうやら、領民の方達もあまりよくは思っていらっしゃらないみたいですね」


 ロゼッタの言葉に、思わず周りを見渡してみる。すると、みんなあんなに騒がしかったのに、今は水を打ったようにしんと静まり返っていた。酔いが冷めるとはこのことか。


 空気が重い。早く帰ってくんないかな。


 そう思っていた時、彼とはたと目が合った。しかも、こちらにグングン近付いてくる。


 げっ、嫌な予感。


「もしかして、あなたが新しいクレマン様の花嫁候補の方ですか?」


「え、ええ。アンジェリーク・ローレンスと申します」


「ああ、レンス伯のご令嬢ですね。あなたのお父様にはいつもお世話になっております」


「そうですか」


 あんたなんか、うちの家で見かけたことないけどね。社交辞令なんかいらないっつの。


「僕は、ヤニス・ロイヤー。どうぞ、ヤニスと呼び捨ててください」


「わかりました、ヤニス」


 うわ、怖っ。顔は笑ってるのに、目は一切笑ってない。なんか見定められてる気がする。


 戸惑う私の前に、スッとニール様が間に入ってくれた。


「残念ですが、ちょうど今食事会はお開きにするところだったのです。どうぞお引き取りを」


 そして、今度は領民達へと声をかける。


「さあ、宴会は終わりだ。みんな片付けてくれ」


 ニール様がそういうと、誰も反論することなく片付けを始めた。みんなも早く立ち去りたいのだろう。


「私、片付け手伝ってきます」


 この場を一刻も離れたくて、いそいそとミネさんとヨネさん達の方へ向かう。すると。


「じゃあ、僕も手伝いますよ」


 そう言って、ヤニスが後を追いかけてきた。ついてくんなよ、もうっ。


 テーブルに着くと、すかさずミネヨネさんがこそっと話しかけてきた。


「アンジェリーク様、ここはよろしいですから、クレマン様のお近くに控えていてください」


「ですが……」


「けして一人になってはいけませんよ。必ず誰かのおそばにいてください」


「わ、わかりました」


 そうこうしているうちに、ヤニスがゆっくり到着する。


「まあ、ヤニス様は片付けのお手伝いをしてくださるのですね。なんてお優しい方なのでしょう」


「では、これを台所まで持っていっていただけますか?」


 そう言って、ミネさんが大量のお皿の山をヤニスに手渡す。


「コラコラ、ミネさんにヨネさん。お客様に片付けを手伝わせるなんてダメだよ。ほら、クレマン様だって見てる」


 ココットさんがわざとらしくアゴで後ろを指すと、確かにクレマン様がこちらに鋭い視線を送っていた。たぶん、これはヤニスに向けてだろう。


「いえいえ、構いませんよ。手伝うと言ったのは僕ですから」


 彼もそれを感じ取ったのか、にっこり微笑んだ後でお皿の山を受け取った。そして、そのまま台所の方へと歩き出す。それを確認して、ココットさんが私に耳打ちした。


「いいかい? 何かあったらすぐロゼッタさんを呼ぶんだよ。いいね?」


「は、はい」


 そう念を押した後、ココットさんは台所へと向かっていった。


「なんだか、すごい包囲網」


「それだけ警戒しなければいけない相手ということでしょう」


 ロゼッタが淡々と答える。しかし、その顔は暗殺者のそれに近い。彼女もヤニスを警戒しているようだ。


「私から離れないでください。あの者からは不穏な空気を感じます」


「何か企んでるってこと?」


「わかりません。だからこそ警戒すべきです」


「わかった」


 そうこうしているうちに、お皿の山を片付けたヤニスが戻ってきた。


「おや? アンジェリーク嬢はまだ片付けをされていないのですか?」


「いえ、今からしようと思っていたところです。ロゼッタはそっち持って」


「はい」


 目の前にあった皿やジョッキなんかを適当に持ち、ヤニスを置いて二人とも歩き出す。すると、少しして「いたっ」という声が聞こえた。思わず振り返ると、ジルとヤニスが尻もちをついている。ぶつかったのかもしれない。


「私、ちょっと見てくる」


「しかしっ」


「大丈夫。クレマン様の目もあるから。ロゼッタは先に行ってて」


 そう言い残し、私の分をロゼッタに渡してジルの所へ向かう。


「ジル大丈夫?」


「うん……俺は平気」


「まったく。ちゃんと前を見て走らないから」


「違うよ。今この人がわざと俺にぶつかってきたんだ」


「え?」


 直後、ヤニスに右腕をガッツリ掴まれた。


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