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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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私が枯れた草花にでも見えたか

 その時、それまで周りをぴょんぴょん飛び跳ねていたコドモダケがふいにノアの両手の上に載った。これに一番驚いていたのは、コドモダケバカのノア。


「ど、どどどどどうしたの、コドモダケ!? まさか僕の気持ちが通じたんじゃ……っ」


 あまりの出来事にノアの目がキラリと光る。そんな彼を無視して、コドモダケは小さな両手を空に翳した。


「キノ、キノ、キノ、キノーッ」


 見たことのあるポーズに、聞いたことのあるセリフ。案の定、ノアは片膝をつき、空から金色の粉がキラキラと舞い落ちる。それらはすべて私に降り注いでいた。そう、植物にではなく、この私にすべて。


 さて役目は終わりと寝ようとしているコドモダケを、私はガッツリ握りしめた。


「いい度胸してるじゃない。あんたには私がそこら辺の枯れてる草木にでも見えてたわけ?」


「キ、ギノォ……ッ」


 あの金粉が降り注ぐことで復活したのは、枯れた草木や燃えた植物達。それに私を重ねてこいつはそれを行ったということ。確かに怪我人でボロボロだし、可憐に咲く花とは程遠い格好だけれど。あからさまにされると女として腹が立つわけで。本気で握り潰そうとしていると、それまで膝をついていたノアが慌ててコドモダケを取り返した。


「何すんのさ! コドモダケが潰れちゃったらどうする気!?」


「良かったじゃない。そいつの破片で色々実験できるわよ」


「それは……そうかも」


「キノォ!?」


 たぶん、そういうところがコドモダケに懐かれない原因だと思う。まあ、私が知ったこっちゃないけど。


「それと殿下、いつまで笑ってるんですか? シバきますよ」


「わ、笑ってなんか……ふふっ」


「シバく」


 痛みを堪えて殴りに行こうとすると、怒った顔のエミリアに止められた。


「言いましたよね? あんまり無理はしないでくださいって。アンジェリーク様の今の治療担当は私です。私の言うことが聞けないのなら、今すぐベッドへ戻ってロープで縛り付けますよ」


「ご、ごめんなさい……」


 まさかエミリアの口から、ロープで縛り付ける、なんて言葉が出てくるなんて。奴の目は本気だ。本能がそう叫んでいる。


「きっとコドモダケだって、傷だらけのアンジェリーク様を心配して行ったことでしょう。でしたら彼を怒るのではなく、そうさせてしまったご自身の行いこそ反省してください」


「……本当にロゼッタみたい」


「何か言いました?」


「いえ、何も。エミリア先生のおっしゃる通りです。ごめんなさい」


 言っていることはもっともなので素直に謝る。その様子を見て、ノアもイネスも苦笑していた。


「アンジェリークが無茶する度にロゼッタさんが増えてくね」


「それだけみなさんアンジェリーク様のことが心配なのでしょう。愛されていらっしゃいますね」


「これは愛なのかしら」


「もちろんです」


 えっへん、と自信満々なエミリアの姿を見て思わず笑みがこぼれた。それはもう十二分に承知している。だからこそ言うことを聞こうとも思えるのだ。


「おい、そろそろ茶番は終わりにしてロゼッタを探しに行くぞ」


「偉そうに。殿下だって茶番に付き合ってたじゃないですか」


「あぁ?」


「はいはい、ケンカしないでください。殿下の言う通りです、早く謝って身体を休めましょう」


「わかってるわよ。でも、手がかりがないじゃない。今わかっているのはアンナさんと出かけたかもしれないってことだけなのよ」


 私がそう言うと、イネスとノアが顔を見合わせた。


「アンナさんとロゼッタさんなら見ましたよ。二人で街に行くとか」


「なんかね、アンナの知り合いがカルツィオーネでカフェを開くんだって。それで味の最終確認をしに行くみたいだよ」


「そういえば、レインハルト殿下もご一緒でしたね」


「そうそう一緒たった! 今日はエミリアと一緒じゃないんですか、って尋ねたら困ったような顔してて。ちょっと気になってたんだよね。もしかして君達も何かあった?」


「それは……」


 エミリアが答えに迷う。それをいち早く察したのはイネスだった。


「レインハルト殿下もお二人について行かれましたので、たぶんご一緒にいらっしゃると思います。早くみなさんに会えるといいですね」


「イネスさん……ありがとうございます」


 素晴らしい返しだ。エミリアとレインハルト殿下との間に何かあったことを感じつつ、空気を読んであえて突っ込まず、なおかつ彼女を応援する。ノアにも見習って欲しい気遣いだ。


「じゃあ、とりあえず街へ行くぞ。王都ほどでかい街でもないし、適当に歩いてたら会えるだろ」


「サラッとカルツィオーネの悪口言わないでください。そこがここの魅力なんですから」


「わかった、わかったから。ほら行くぞ」


 そう言ってラインハルト殿下は背中を向けてしゃがみ込む。その姿が無言で促す、乗れと。


「……今回だけですからね」


 ノアやイネスがいる手前恥ずかしかったけれど、自分で歩けないのだからこればっかりはしょうがない。

よいしょと背中に乗ると、殿下はすくっと立ち上がった。


「本当に背負って街まで行かれるんですね。馬車は使われないのですか?」


「街はそんなに広くないし、今は祭りの準備で人がごった返している。馬車を使うのは危険だ」


「じゃあ、僕も手伝いましょうか? 一人だと大変そうだし、二人で交代交代でやればそんなに大変じゃないかと」


「必要ない。言い出したのは俺だ。一人でやり切らないとこいつに後々グチグチ言われる」


「私そんなにネチネチしてないですけど」


「ふん、極悪令嬢のくせに」


 ムッとしたけど、エミリアが目だけで、ダメ、と訴えてきたので我慢する。その後で動き出す前に私はノアを振り返った。


「帰ってきたらたぶん喉が渇いてると思う。だから、その時はハーブティーを淹れてちょうだい。あなたの淹れたハーブティー、私大好きだから」


「え……ハーブティーって……」


「手抜いたら許さないから。よろしく」


 そう悪戯っぽく笑う。話は終わったかと確認してから殿下が歩き出した。その背中にノアの弾んだ声がかかる。


「任せてよ! とびっきり美味しいハーブティー淹れて待ってるから!」


 期待してる、という思いを込めて手を振る。ノアはそれに飛び跳ねんばかりに応えていた。


「この天然の人たらし」


「ひどいこと言って傷付けちゃったから、これは罪滅ぼしの一種です。それに、彼の淹れたハーブティーが好きなのは本当ですから」


「ふーん」


 こんな風にロゼッタとも仲直りできたらいいな。そんなことを思いながら、私は殿下の背中に揺られていた。

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