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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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相変わらずデリカシーの無い男

 お母様の愛したお庭。それを堪能したくて、エミリアの手を借りつつお庭を散策する。相変わらず荒れ放題ではあるけれど、今は雑草と呼ばれる小さな花ですら愛しく感じた。


「きっと、お花が咲いてたらすごく綺麗なんだろうな」


「そうだと思いますよ。とは言っても、見たことはないんですけど」


「そうなの?」


「クレマン様やアナスタシア様は気にしないとおっしゃっていましたが。やはりご貴族様のお屋敷は庶民には敷居が高いですから」


「そっか、そうだよね」


 確かにレンスにいた時、お屋敷に来る平民は商人か使用人くらいだった。それもそうだろう、ぶつかっただけで斬り殺されるのだ。そんな相手にわざわざ近付くこともないだろう。


 ミネさんとヨネさんは、仕事があるからとここで別れた。もしかしたら、これから私の部屋を片付けるのかもしれない。


「子ども達と遊ぶ約束してた」


 そう言って、グエンも子ども達の元へと戻っていった。ただ、戻る前に一言。


「ラインハルト殿下には要注意。何かされたらすぐ呼んで。駆けつける」


「? どうゆうこと」


 頭にハテナマークを咲かせながら聞いてみる。しかし、グエンはため息をついただけで何も言わずに立ち去ってしまった。


 殿下に気を付けろってどういう意味? さすがに今はもう私を極悪令嬢として連行しようなんて考えてないはずだけど。


 そんなことを考えながら殿下を睨む。すると、あちらも私の視線に気付いたようだ。


「おい、辛くなったら俺に言えよ。またおぶってやるから」


「わかってます。ちゃんと教えますので、それまではもう少しこのままでもいいですか?」


 素直にそう言ってみる。すると、彼は嫌味を言うことなくただ黙って頷いた。


 あの態度からすると、殿下はお花に興味がないのだろう。そんな相手と一緒に回ったって面白くないし、こちらも楽しくない。そう思うとエミリアがいてくれて良かった。


「落ち着いたら、ここも整備したいな」


「私もお手伝いしますよ」


「本当? そうだ、また子ども達にも手伝ってもらおうかな。もちろん、ココットさんの美味しいご馳走付きで」


「それは良いですね! 実はずっと子ども達は次の大掃除を待ちわびてたんですよ。またご馳走食べたいって。ですから、きっと喜びます」


「そうなの? じゃあ絶対実現させてあげなきゃね。前回は途中で邪魔者が入ってきて打ち上げも中途半端に終わっちゃったから、今回は誰にも邪魔されないよう完璧に計画立てないと」


「でもあんまり張り切り過ぎないでくださいね。アンジェリーク様は張り切り過ぎると無茶をしかねませんから。どんな時でもご自身をまず第一にいたわってあげてください」


「……私、そんなに子どもじゃないんだけど。それくらいわかってるわよ」


「そうですか? 今だって、本当は全身の痛みに耐えていらっしゃるのでは? いくらナッツ先生が処方してくださった痛み止めの薬を飲んでいるとはいえ、痛みが全て消えるわけではありませんから」


 まさか気付かれているとは思わなくて、思わずエミリアを凝視した。その顔は怒っているわけでもなく、どちらかといえば心配しているようにも見える。


 これが出会ってから今までの経験則からきているのか、はたまた私の分身である主人公だから何か伝わるものがあるからなのかはわからない。それでも、これ以上は誤魔化せない気がして、私はあっさり降参した。


「……だって、子ども達の前で痛がる姿は見せたくなかったんだもん。元気なアンジェリーク様を見せてあげたかったの。これくらいいいでしょ?」


 ぶーっと唇を尖らせる。すると、エミリアはクスクス笑った。


 ちょっと痛がっただけであんなに心配されるのだ。実は立っているのが辛いくらい痛いなんて姿見せたら、子ども達はどんな反応を示すか。少なくとも、彼らが悲しむ顔は見たくない。エミリアにもその思いは伝わったようだ。


「いつもいつも子ども達のことを思ってくださってありがとうございます。ですが、たまには弱さを見せてください。ロゼッタさんだけじゃなく、私やクレマン様にも」


「そうね、また次ロゼッタとケンカしたら考える」


 サラッと返すと、エミリアは「もう」といって苦笑した。べつに嫌とかそういうわけじゃない。ただちょっと恥ずかしかっただけだ。でも、そういう風に心配してもらえるのは嬉しかった。


 そんな風に二人で話しながら進んでいく。すると茂みの奥から物音がした。もしかしたら侵入者かとエミリアと二人身構えてみたけれど。どうやらそれは勘違いだったらしい。


「はあ……またやっちゃった」


「元気出してください、ノア様」


 それは、ノアとイネスだった。二人はしゃがみ込んで草取りをしている。気のせいか、ノアの背中はしおしおと小さく見えた。


「だってさあ、元気になってもらいたくてハーブティー持っていったのに、今は一人にして、って言われたんだよ。あの言い方絶対怒ってたって」


「まあ、誰しも一人になりたい時はありますから」


「でしょ? あー、タイミング間違えたぁ」


「ですが、少しでも元気になってほしいというノア様の優しさは、きっと伝わったと思いますから」


「だったらあんなに怒んないでしょ。あーもう絶対嫌われたぁ……」


「もう! なんでノア様はそんなにネガティブなんですか」


 すごい、あのイネスが怒ってる。でも、彼女の気持ちもわからなくもない。せっかく励ましてあげてるのに、ここまでネガティブ返しされると確かにイラっとくる。


 ってか、ノアのハーブティーを断る奴なんているの? 私あれ結構好きなんだけど。


 そこまで考えてふと思い出した。そういえば最近、ノアに辛く当たったことがある気がする。


「あぁ、ちょっと待って!」


 ノアが慌てて雑草を持つイネスの手を掴んだ。突然のことに彼女は驚いている。


「これ捨てないで僕にちょうだい」


「え、でもこれ雑草ですよね?」


「違うんだ、これは雑草じゃない。れっきとしたヨモギという薬草なんだよ」


「これが、薬草?」


 イネスは手にしたヨモギを目を丸くして凝視する。確かにあれはヨモギだ。前世で見たことある。それでも、そうと知らなければただの雑草にしか見えなくても仕方ないと思う。


「ヨモギはすごいんだよ。血行促進や止血作用、利尿作用やお通じ改善。身体を温める効果が高いから冷え性の改善にもなるし、リラックス効果もあるし、咳止め効果もあるんだ」


「この雑草が?」


「そう。あと抗菌作用もあるから皮膚炎とかにも効くらしいし、老化防止やシミ・シワなどの予防、美肌効果などといった美容効果も高いらしいんだ」


「そんなにいっぱい効能があるんですね」


「そうなんだよ。だから、その効能の多さから、ハーブの女王、って呼ばれてるんだ」


「ハーブの女王……」


 へえ、ヨモギってそんなにすごかったんだ。そういえば、子供の頃怪我した時、祖母がヨモギの葉をすり潰して傷口に当ててくれてたっけ。それに、化粧水とか何種類かの一つとしてヨモギが記載されているモノも見たことがある。なるほど、ノアの言うことは間違いなさそうだ。さすが植物博士。


「そうだ! 僕の手作りした化粧水試してみない?」


「化粧水、ですか?」


「そう。美容効果があるって言われてる薬草をいくつかブレンドして作ったんだけど、僕の肌じゃ効き目がわからなくて」


「はあ」


「乾燥肌なのかな? 君の肌ちょっと荒れてるみたいだから、丁度いい実験になると思うんだ」


「は、肌が荒れてる……っ」


 イネスがヨモギをポトリと落としてうな垂れる。わかる、わかるよその気持ち。異性に肌が荒れてるなんて言われたらショックだよね。もう、こいつは本当にデリカシーがないんだから。


 さすがに文句を言ってやろうと思い近づく。カサっと音がしたからかイネスは私達に気付いたらしい。しかし、気付いていないノアは落ちたヨモギをひょいと拾ってそれをまじまじと見つめる。


「アンジェリークにも協力してもらおうかな。彼女共同経営者だし。あーでも美肌とか興味無さそうだなぁ。気にしてたらあんな傷だらけになるようなことしないだろうし。どちらかと言えば野生児みたいなとこあるしなぁ」


「ノ、ノア様……っ」


「花だって興味無さそうだし。花より団子って感じ。イネスもそう思わない?」


「そ、そんなことないと思います! アンジェリーク様も女性ですから、お花を愛でるお心はおありかと」


「えー、ないない。きっと、野菜とか果物とか、食べられる植物の方が好きだと思うよ。彼女ああ見えて食い意地はってるし」


「ノア様、そろそろその辺にしておいた方が……」


「そうだ! このお庭全部食用植物にしようかな。そしたら食いしん坊な彼女も喜ぶかも」


「誰が食いしん坊ですって?」


 堪忍袋の尾が切れて、思わずノアをギョロリと睨む。「だからそれはぁ……っ」と振り返ったノアと目が合った。その直後、彼の身体が強張る。


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