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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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私では、あなた様のお力になれませんか?

 ミネさん達が私とロゼッタにリンゴジュースを持ってきてくれ、ジゼルさんを含めた八人で祝杯をあげた。


「エミリアとルイーズの就職内定を祝って、カンパーイ!」


『カンパーイ!』


 一際賑やかな声に、酔っ払った大人達がわけもわからず「カンパーイ」とジョッキを掲げる。もはやほろ酔いを通り越して泥酔しているのではないだろうか。


「アンジェリーク様、ありがとうございました! 実はずっと前からここで働きたかったんです。ジゼルさんが働いていた場所なので」


「おや、嬉しいこと言ってくれるね。私も、内心誰かここで働いてくれたらいいのにと思っていたんだよ」


「そうなんですか? なら良かったぁ」


「エミリアの指導役は、私達ミネとヨネが承ります」


「ジゼルさんみたいにバシバシいきますわよ」


「望むところですっ」


「ルイーズはどうするんだい?」


「私は、ココットさんが嫌でなければ、ココットさんのお手伝いがしたいです」


「ほんとかい? そりゃあ大歓迎だよ。使用人が増えた分、食事の準備も必要だからね」


「やった! ありがとうございます」


 そんなみんなの話を客観的に眺めながら、私はほうっと熱い息を漏らした。


「なんか、明るい職場っていいねぇ。みんな良い人達だから、陰湿なイジメとかなさそうだし。安心して働けるって幸せ」


「まだわかりませんよ。あなた様の腹黒い本性を知って、態度を急変させるかも」


「ロゼッタよりは社交性あるから、そんなの綺麗に隠すもーん。心配いりませーん」


 余裕ありな私の態度を見て、ロゼッタがため息をつく。私はそれを無視した。


 これでエミリアは無事私の手元に置いておける算段がついたけど。今さらながら、本当にこれで良かったのだろうか。


 原作では、エミリアとレインハルトはクルムで出会い、回復魔法の使い手であるエミリアは、レインハルトの勧めで国に保護される。ただ、保護されているだけでは申し訳ないと、良い子のエミリアは自ら王宮の使用人になると手を挙げるのだ。


 それがどうだ。エミリアとレインハルトは出会うことすらなく、しかも彼女は王宮ではなくヴィンセント家の使用人となった。


 原作通りどころか、九十度くらい逸れてしまっているこの始末。


 原作通りにエミリアとレインハルトが出会わなかった今、どこかで軌道修正する必要があるわけだけど。


 いったいどうやって?


 今さらエミリアを引き連れてクルムへ行ったところで、レインハルトと自然に出会うことはまずない。


 だからといって、わざわざ回復魔法の使い手だと言ってエミリアの保護を国に直接願い出たとしても、彼女を売ったと捉えられかねないし、下手をすれば彼女はその性格上断りかねない。


 チャンスがあるとすれば、約数ヶ月後の魔力検査。そこで魔力有りと判断され、学問所に入ることになれば、縛りはキツいが王都で暮らせる。ここにいるより、レインハルトと出会う確率は上がるだろう。


 でも、そうしたら私の目が届かない。変な貴族に騙されて唆されたらエミリアが危険だ。それに、上手く誘導する補佐ができない。


「絶体絶命のピンチって感じね」


 せめて、私の目の届く範囲でエミリアとレインハルトが出会ってくれたらいいのに。そうしたら、やっと物語が始まる。


「また何かお考え中ですか?」


「安心して。今のは悪だくみじゃなくて、悩みだから」


「では、私に話してみてはいかがですか? そういうものは、誰かに聞いてもらえばスッキリすることもございますし」


「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」


 誰かに言ったところで、信じてなんてもらえるはずがない。これは私の問題なんだ。私が解決しないと。


 ふいに、何か引っ張られているような感じがした。見ると、ロゼッタの手が私の服の端をちょんと摘んでいた。


「どうしたの、ロゼッタ。それに、なんでそんな顔してるの?」


 なんていうんだろう。話の輪に入っていけない子どものような、そんな寂しそうな顔。


 私の言葉に、ロゼッタは何も答えない。ただじっと、私の目を見つめている。


「ロゼッタ?」


「……私では、あなた様のお力になれませんか?」


「え?」


「クレマン様! お話があります」


 突然、大きな少年の声が私達の話を遮った。見ると、ジルがクレマン様と対峙している。気になったのか、ルイーズが彼の元へと駆け寄っていった。私も気になって追随する。


「話とはなんだい?」


「俺に剣を教えてください」


「剣を?」


「俺、剣士になりたいんです。誰にも負けない、世界一の剣士……ううん、世界一の騎士に!」


 ジルの目は本気だった。強い眼差しでクレマン様を見つめている。


 しかし、酔っ払った周りの大人達は、大声で笑い出した。


「あっはっは! 世界一の騎士か」


「んなもん、平民のお前にはなれねぇよ」


「そんなの、やってみなきゃわかんないだろ!」


「ジル、やめなって」


 大人達の野次に、ジルがムキになって反論する。ルイーズはそれを必死にたしなめていた。


 クレマン様はというと、笑うことはしなかった。ただ、ジルに険しい顔を向ける。


「君は、どうして剣を学びたい?」


 そう言われ、ジルはルイーズを一瞥した。


「守りたいものがあるんです。でも、今のままじゃ何もできない。だから俺、強くなりたいんです」


「ジル……」


 ルイーズがジルの腕を掴む。すると、彼の頬がピンク色に染まった。


 はっはーん、そういうことか。


「ねえ、ジル。その守りたいものって、もしかしてルイーズ?」


「なっ」


 わざとど直球で聞いてみる。すると、ジルの顔が真っ赤に染まった。


「そそそ、そんなわけないだろ! 適当なこと言うな、この天然ドリル!」


「なんですって?」


 うりゃ、とジルの頬を摘む。彼は「いたたたたたっ」と言いつつ抵抗していた。


「天然ドリル。面白いネーミングです」


「ロゼッタ、そんなとこ感心しないで」


 横にいたルイーズがオロオロしていたので、可哀想になってジルの頬から手を離す。そして、クレマン様に向き直った。


「いいんじゃないですか、クレマン様。ジルに剣を教えて差し上げても」


「しかし……」


 渋るクレマン様に、私はこそっと耳打ちする。


「ジルは、ルイーズを守りたいんですよ。彼女はいずれ魔法師団へ配属されます。そんな彼女を心配して、自分にもできることを必死に考えた結果でしょう」


「ほほう」


「少年とはいえ、男として見上げた根性です。あの歳でクレマン様のように強い信念がある。私は気に入りました。それに、学びたい者に剣を教えれば、カルツィオーネの武力の底上げになります。悪くないかと」


「ふむ」


 そこまで耳打ちした後、今度はみんなに聞こえるように話しかける。


「慈善活動は貴族の義務。子どもに剣を教えるのも立派な慈善活動。であるならば、あなた様はジルに剣を教えて差し上げるべきです」


「なんだか、君にいいように言いくるめられている気がするな」


「まさか」


 クレマン様がフッと笑う。その後で、軍人の顔つきになった。


「私は、剣に関しては子どもであろうが一切手を抜かない。国王軍にすら指導していたのだ、私は厳しいぞ。それでも教えを乞うか?」


「はい! お願いしますっ」


 ジルは迷いなく返事を返して頭を下げる。それを見て、クレマン様は微笑んだ。


「わかった、君に剣を教えよう。だが、根を上げたらすぐにやめるからな」


「はい! ありがとうございますっ」


 ジルが嬉しそうに声を弾ませる。それを横で見ていたルイーズも、「やったね」と嬉しそうに笑っていた。


「頑張れよ、少年!」


「自警団に入りたくなったら、いつでも俺に声をかけてこい。団長の俺が実戦でビシバシ鍛えてやる」


「ありがとう、ヘルマンさん!」


 ジルは、酔っ払った大人達に揉みくちゃにされていく。それでも、その顔はどこか誇らしげだ。


「へえ、ヘルマンさんが自警団の団長さんなんだ」


「そうなんです。マティアスも入ってるんですよ」


 そう教えてくれたのは、いつの間にか隣に来ていたエミリアだった。


「孤児院なんかの見回りもよく来てくれて。子ども達とも遊んでくれるんです。優しいんですよ」


「そっか。エミリアはマティアスのことが好き?」


「はい、大好きです。同い年なんですけど、お兄ちゃんみたいな感じで」


「お兄ちゃん、ね」


 話が変わってきてるから、もしやエミリアはマティアスのことを……と勘繰って探りを入れてみたけれど。


 マティアス、ごめん。そこは今のところ原作通りだった。


 ジルの件があり、場が最高潮に盛り上がる。


 その時、屋敷に戻ったはずのニール様が、庭に再び姿を現した。その顔はどこか険しい。


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