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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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不憫な殿下

 グエンに抱っこされている間、私は気を紛らわせるために彼とおしゃべりをしていた。


「シャルクにいた子ども達はこっちの孤児達と仲良くやってる?」


「うん。こっちの子ども達ともすぐに打ち解けた。子どもの適応能力はすごい」


「そっか、良かった。実はちょっと心配してたから。こっちに馴染めなかったらどうしようって」


「俺も心配してた。でも、エミリアが上手く両方の孤児達の橋渡し役をしてくれてる。もうみんなエミリアのこと好き」


「そうなんだ。さすがエミリア。長年孤児達の面倒を見てきただけのことはあるわね」


「いえそんな。みんなが素直で良い子だからですよ。私は何もしていません」


「謙遜しなくていいのよ。真実なんだから素直に受け取りなさい。私だったらそうするわよ」


「うん、アンジェリーク様っぽい」


「あんたはもっと主人を立てなさい」


 真顔で頷くグエンに向かってブーたれてみる。そんな私達の様子を見て、エミリアはクスクス笑っていた。


 大丈夫だ、いつも通りに振る舞えている。震えもさっきよりだいぶマシになってきた。握っているエミリアの手が温かいからかもしれない。


「あと、ロイの存在も大きい」


「ロイ? ロイってあの厨房担当のサボり魔?」


「うん。あいつが上手く孤児達の心のケアをしてるから、親のいる子と一緒にいてもいざこざが起きないし、孤児達が不安定になることも少ない」


「そっか。やっぱりロイは保育士向きね」


「ほいくし?」


「働いている両親に代わって、子ども達を預かってお世話をする人達のこと」


「ふーん」


「私はいずれここに保育園を作りたいの。そうすれば、子どもができて仕事を辞めてった人や、子どもがいるから仕事を諦めてる人達が、子どもの預け先ができることで仕事に就くことができる。そうやって世帯全体の収入を上げれば経済が回りだす。そしてそれはカルツィオーネ全体の底上げにも繋がる」


 実際に、ケイトさん達のように何人かはこちらに預け始めている。これをもっと広げるためには、もっとお金と人材が必要だ。


「アンジェリーク様、面白いこと考える」


「それだけじゃないわ。私はいずれここに平民の子たち用の学校を作りたいの。みんな学ぶことに対して積極的だし、勉強して知識が増えればそれだけ就職の幅が広がる。そうやって子ども達に夢を与えて、子ども達が働かないといけないという現状を少しでも変えたいのよ」


 ルイーズのように、幼くして働かないといけないという子が少しでも減るように。これは、原作者としての私の責務だ。


 グエンからなんの反応もない。不思議に思って顔を見ると、彼は珍しく驚いていた。


「驚いた。そこまで考えてるなんて。アンジェリーク様すごい」


「すごくはないわよ。今はまだそうしたいって案だけで、実際に叶えていないんだから」


「そんなことない。普通、誰も平民向けの学校を作ろうなんて本気で考えない。アンジェリーク様はそれだけ俺達や子ども達のこと想ってくれてるってこと。普通の貴族にはできない。だからみんなアンジェリーク様のこと好き」


「どうだか。余計なことすんなって陰で怒ってるかもよ」


 今回の作戦のように。犠牲者が出るなんて思ってもなかった、お前のせいだと陰でコソコソ噂しているかもしれない。


 でも本当は、そうやってみんなのことを疑っている自分が大嫌いだった。


 グエンが何か言いたそうな顔をしている。それでも、彼が口を開く前に殿下の声がそれを邪魔した。


「辛くなったら言えよ。いつでも代わってやるから」


「大丈夫。俺体力あるから」


「あのなぁ、元々は俺がこいつを背負ってたんだ。邪魔すんじゃねーよ」


「アンジェリーク様の許可は取った。邪魔はしていない。殿下心狭い」


「あぁ!?」


「もう、ケンカしないでくださいよ。グエンが私を抱っこするのは、ミネさんヨネさんの目的地まで。それくらい我慢してください。その後はいくらでも背負わせてあげますから」


 私がそう言うと、殿下はチッと舌打ちをして顔をそらした。なんだあの態度。ガラ悪っ。


「なんでそんなに私を背負いたいんですか? そんなに女性を背負いたいなんて、殿下の性癖を疑います」


「せ、性癖!?」


「あの、アンジェリーク様っ。殿下は誰彼かまわず背負いたいわけではなく……」


「やめろ、エミリア。その続きはいつか俺自身で言う。だからそれ以上は言うな」


「ですが、これではあまりにも殿下が不憫で」


「ふ、不憫!?」


 おっ、なんか堪えたみたい。いいざまだ。


「それを言うなら俺よりもレインハルトの方がよっぽど不憫だろ! 普段他人に興味のないあいつがあんなにアピールしてるのに、当の本人はまったく気付いていないなんて。お前にだけは不憫だなんて言われたくない!」


「え、え?」


 エミリアは何を言われたのかわからず戸惑っている。同感だ、私も殿下が何を言っているのかさっぱり意味がわからない。ただそう思っているのは私達二人だけのようで。


「ああ、やっぱりレインハルト殿下ってそうなんだ」


「え、グエンは何か知ってるの?」


「アンジェリーク様、気付いてない?」


「何が?」


 真顔で聞き返す。すると、グエンは珍しくキョトンとした顔をした。その後で深いため息をつく。


「そういうことに疎い俺ですら気付いたのに。これじゃあラインハルト殿下も大変だ」


「なんであいつの肩持つのよ」


 面白くないという不満を顔と声でアピールする。しかし、グエンは軽くそれを無視した。


「エミリアも人のこと言えない。二人とも似た者同士。罪な奴」


「罪な奴って……グエン、どういう意味?」


 エミリアがすかさず聞き返す。しかし、グエンはこれにも答えずさっさと前へ歩き出した。


「どういう意味でしょう?」


「さあ。私にもさっぱり」


 エミリアは私が生み出したキャラクターだから、似た者同士という意味では合っているんだろうけれど。その事実をグエンが知るはずもない。では、どういう意味で言ったのか。ダメだ、よくわからない。


「若いっていいですねぇ、ミネ」


「若いっていいてすねぇ、ヨネ」


「私達も若い頃はありましたね、甘酸っぱい青春」


「あら、まだまだいけますわよ」


「あらやだ、ミネったら」


 ミネさんヨネさんは、首を傾げる私達を眺めながらホホホっと笑っている。なんだかわからないけれど楽しそうだ。


 そんな二人について行くと、目の前に荒れたお庭が見えてきた。

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