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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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可愛いグエン

「みんな、大丈夫よ。アンジェリーク様は高い所が苦手だから、背の高いグエンに抱っこされてちょっと怖がってるだけ。でも、そのうち慣れるから心配いらないわ」


「エミリア……」


 彼女は私を一瞥すると小さく頷く。ここは任せてと。


「でも、さっき痛がってたよ?」


「それは、まだ傷が完全に治っていないから。でも、今一生懸命治療して少しずつ良くなってるから大丈夫」


「ほんと?」


「ほんと。そうですよね、アンジェリーク様」


「……ええ、ほんとよ。極悪令嬢、ウソつかない」


 なんとか痛みと恐怖を堪えて笑ってみせる。顔が引き攣っているからダメかもと心配したけれど、子ども達には十分だったようだ。


「良かったぁ」


「アンジェリーク様、もう無茶しちゃダメだよ」


「大人しく部屋で寝ててね」


「……みんな、優しいのね。心配してくれて、ありがとう」


 なんとかそう返す。すると、子ども達は嬉しそうに笑った。


 子ども達に心配されるのは、申し訳ない分嬉しい気持ちもあるのだけれど。


 言われていることがロゼッタやエミリアと同じになっている。もしや、私が怪我をすればするほど、みんながロゼッタ化していくのか? ダメだ、想像しただけで恐ろしい。


 笑顔が引き攣り始めたところで、ラインハルト殿下が待ったをかけた。


「おい、グエン! それは俺の仕事だぞ」


「ミネさんとヨネさんの目的地まで。それ以上は子ども達もいるから行かない」


「はあ!?」


「殿下、独り占めズルい。アンジェリーク様人気者。だからなかなか会えない。……少し寂しい」


 まるで叱られた子犬のようにシュンと落ち込む。それは大きな身体が小さく見えるくらい。


 同じような言葉を、つい最近聞いたような気がする。そうだ、ロゼッタに作戦が成功したご褒美は何がいいかと聞いた時、彼女が求めたことと一緒だ。


 ああもう、なんでうちの連中はこんなに可愛いの。


「じゃあ、ミネさん達の目的地までは、グエン、あなたが私を運んで」


「おいっ」


「これも、トラウマ克服の一環です。自分の私兵を怖がるなんてありえない」


「だかな……」


「言いましたよね? 戦わせてくださいって。殿下は後で死ぬほどこき使ってあげますから。ここはグエンに譲ってあげてください。心の狭い男は嫌われますよ」


「っ……! 勝手にしろ」


 ラインハルト殿下は舌打ちをしつつ、渋々といった様子で諦める。ロゼッタやグエンが私を構いたい理由はわかるけれど。なんで殿下がそんなに私をおんぶしたいのか、その意味がわからない。この人もしかしてドMなのかな。


「ミネさん、ヨネさん、案内頼む」


「ええ、いいですよ。アンジェリーク様も大変ですね」


「本当、罪な人。でも、グエンも言う時は言うんですね。見直しました」


 クスクス笑う二人を見て、私とグエンが同時に首を傾げる。そんな私達を、エミリアが笑いながら見ていた。


 とりあえず、子ども達の姿が見えなくなる所まで歩く。すると、グエンの足が急に止まった。


「何度も怖がらせてごめん。本気で嫌なら下ろす。ここなら子ども達見てない」


 そう聞かれて思わずグエンを見る。一見するといつも通りに見えるけれど、先ほどの話を聞いた後だからか、どことなく寂しそうに見えた。


「本気で嫌なら、もうとっくに下せと命じてるわ。だからこのまま連れて行って」


「でも、アンジェリーク様無理する人。安心できない」


「あら、あなたには私がそんなに我慢強い人間に見えてるのかしら?」


 わざと意地の悪い笑みを浮かべる。グエンは目をぱちくりさせた後で、プッと吹き出した。


「ミネさん、ヨネさん達からアンジェリーク様の逸話はたくさん聞かされた。アンジェリーク様、我慢嫌い」


「よくわかってるじゃない。だったらさっさと足動かして」


「はいはい」


 いつも通りの軽口に見えているだろうか。いや、グエンはきっと気付いているはずだ。未だに震えている声や身体で、今私がどういう状態なのかを。それでも私に気を遣って気付かないフリをしてくれている。そういう彼の優しさは嫌いじゃなかった。


「エミリア、ちょっと来て」


 手招きすると、何事かとエミリアが近づいてきた。そのまま、何も言わずに彼女の手をギュッと握りしめる。


「……手、繋いでて。目的地まで」


 怖いから手を繋いでほしいなんて子どもっぽいだろうか。どうしよう、ロゼッタ以外の人に甘えるのはなんだか恥ずかしい。


 そんな恥ずかしがる私をからかうでもなく、エミリアはクスリと笑った後「はい」と言って手を繋いでくれた。


 その手はとても温かかった。


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