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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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ニールキラー

「では、ニール様より使用人として働く立場を最もご理解している方の意見を聞くのはどうでしょう」


「なに?」


 眉間にシワを寄せるニール様。その目の前で、まるで海が割れるように、私達が左右に開く。その割れた先に現れたのは、元ヴィンセント家のメイド長、ジゼルさんだった。


「なっ! ジ、ジゼルさん……っ」


 さすがのニール様も、ジゼルさんが現れるとは思ってもみなかったのだろう。あまりの驚きに眼鏡がズレている。


「ニール様が言うように、もし夜中に火災や自然災害が起きた場合、使用人がその対処を行わなければならないのは事実です。それに、メイドの仕事は朝早くから夜遅くまでびっちり詰まっている。通いですべてこなすのは難しいでしょう」


「で、ですよね」


「ですが。今最も喫緊の課題は、ヴィンセント家の使用人を増やすことです。通いであろうと立派な労働力。少なくとも、孤児院の女の子達には、どこに出しても恥ずかしくないよう、この私が直接指導を施しております。そこら辺の街田舎で働くメイドなんかより、はるかに使えるかと」


「は、はあ……」


「今現在の条件下で応募が無い中、少しでも譲歩し歩み寄るくらいの柔軟な考えがなければ、いくら待っても誰もここへは来ませんよ。それはあなた様が一番理解しておられるのでは?」


「それは……し、しかしっ」


「エミリアは孤児院のために働きたいと言っているんです。それをダメだと言うのなら、今すぐ孤児院への援助を増やすか、建て替えをお願いします」


「ぐっ……」


 ずずいと歩み寄られ、ニール様がタジタジになる。そのジゼルさんの有無を言わせない微笑みが訴えている。


 あなたに勝ち目はない。いい加減折れなさい、と。


 しばらくして、ニール様からポキっという音が聞こえた気がした。


「……わかった、通いを許可する」


「本当ですかっ? ありがとうございます!」


 エミリアが顔をパァッと明るくして喜ぶ。私達使用人ズも、思わずハイタッチして喜んだ。


 勝った! あの石頭の常識を見事打ち崩したぞーっ。


「ジゼルさん、ご協力ありがとうございます。きっと、私達だけではニール様を説得できませんでした」


「いえいえ。せっかくエミリアがヴィンセント家で働きたいと手を挙げてくれたんです。しかも、私のことを気遣って通いで、だなんて。こんな良い子の願いを叶えてあげるのは、院長として当然のことですから」


 ホホホっとジゼルさんは笑う。


 エミリア、ほんと良い子設定にしといて良かった。さすが、私が頭を痛めて産んだ子。そうでなければ、王子が好きになるはずがない。


「あのっ!」


 私達が喜んでいる横で、ルイーズがニール様の服を掴んだ。


「私もここで働かせてください。エミリアお姉ちゃんと同じく、通いで」


「ルイーズはまだ幼いから、働かなくてもいいんじゃない?」


「いいえ、アンジェリーク様。私ももうすぐ十二になります。私も孤児院のみんなのために何かしたいんです」


「その気持ちはわかるけど……」


「良いのではありませんか。私がメイドとして働きに出たのが十歳の時。早すぎるということもないでしょう。なにより、本人が希望しているのですから」


「ジゼルさんまで……」


 これは、私の爪の甘さだ。せめて初等教育のある世界設定にしておけば、ルイーズは働かずにすんだ。ジル達と一緒に仲良く勉強できていたはずなのに。


 こんな私に、ルイーズを止める権利なんてない。


「わかりました。ルイーズの気持ちを優先します」


 そう言って、最後にニール様に視線を向ける。彼は今度は反論しなかった。


「お前の好きにしろ」


「ありがとうございます!」


 ルイーズが嬉しそうに笑う。その後で、私達にピースサインをしてみせた。ああ、やっぱ可愛い、ルイーズ。


 ニール様が、ふん、と鼻を鳴らしてお屋敷の方へ戻っていく。そして、みんなが祝杯とばかりにリンゴジュースと食べ物を取りに行ったのを見計らって、ロゼッタが私に話しかけてきた。


「上手くいきましたね」


「当然よ。私を誰だと思ってるの? 今までニール様を黙らせてきたのはこの私よ。もうニールキラーと言って」


「言ってることがよくわかりませんが。喜ばれているようでなによりです」


「なんか、あんまり嬉しそうじゃないわね。どうしたの?」


 すると、ロゼッタは一拍呼吸を置いた。


「自分でもわかりません。ですが、アンジェリーク様がエミリアと一緒にいるところや、彼女のために必死になっている場面を見ると、胸の辺りがザワつくんです。エミリアのことが嫌いなのかと言われればそうでもないのですが、だからといって好きなのかと問われれば言葉に詰まってしまう。こんな感情は初めてです」


 本当にわからないのか、その表情は困惑している。


 それってもしかして……。いや、私も確証があるわけじゃないけど。


「ロゼッタ……それって、もしかして嫉妬?」


「嫉妬? この私が?」


「そう。ロゼッタは私のこと大好きだから、私がエミリアのことばっかかまって面白くないんだと思う」


「その自信満々な物言いに、軽く殺意を覚えます」


「照れるな、照れるな」


 クククっと笑うと、私は拳でロゼッタの胸を軽く小突いた。


「安心なさい。確かに私にとってエミリアは特別だけど、いつもそばにいて欲しいと思うのはあなただけよ。だって、私のこと守ってもらわなきゃ困るもの」


 そう言って、悪戯っぽく笑う。すると、ロゼッタが参ったという風に苦笑した。


「どこまでも自分本意なんですね。呆れを通り越して笑えてきます」


「だったら、大いに笑うといいわ。ロゼッタが大爆笑するところ、一度でいいから見てみたい」


「却下」


 もし、本当にロゼッタが大爆笑したら。


 そんな姿も綺麗なんだろうけれど、きっとめちゃくちゃ可愛いんだろうなと思った。


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