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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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エミリアとケンカ

ここからはアンジェリーク視点に戻ります。

「あんたはいいわよね、今まで何人も殺してきたから、犠牲者が出ても何も感じなくて。でも私は違う。自分のせいで人が死んだなんて、そんなの耐えらんないのよ!」


 それは、一番言ってはいけないセリフだった。生きるために暗殺を繰り返してきたロゼッタ。これじゃあまるで、彼女が暗殺ロボットだとでも言ってるみたいじゃないか。それは、やっと人間らしくなってきた彼女を否定する言葉。


 いつものポーカーフェイスが僅かに崩れたのを確認した瞬間、激しい自己嫌悪が私を襲った。


「っ……ごめん、ちょっと一人にしてくれない? これ以上一緒にいると、あなたにもっと酷いこと言っちゃいそうだから」


「ですが……」


「いいから一人にして!」


 自分の心に余裕がない。これ以上一緒にいると、彼女に甘えてもっと酷いことを言って傷付けてしまう。それは絶対に嫌だ。


 ロゼッタなら残るかもと思ったけれど。意外にも彼女は「かしこまりました」と言って、素直に部屋を出て行った。それを確認して、怪我をしていることを忘れて急いで布団に潜ろうとしたら、身体のあちこちが激痛に襲われた。


 自由に動かない身体。これにもイライラする。もう何もかもが嫌になり、私はやっとの思いで横になると、布団を頭から被って潜り込んだ。


「最悪だ……」


 ロゼッタの言っていることは間違いじゃない。死ぬほど心配かけたみんなに、早く元気な姿を見せてあげなければ。その思いはある。ただ、心が、身体が、それを拒むのだ。


 犠牲者が出たのは仕方ない。五人で済んだのは奇跡だ。そう自分に言い聞かせても、心のどこかで暗くまだわだかまった何かが貼り付いて離れない。まるで、犠牲者が許さないとでも言っているかのように。


 焦らされれば焦らされるほど、元気になれない自分への自己嫌悪と苛立ちで、この暗いわだかまりは大きくなっているような気がした。





    -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-





「キノッ、キノッ」


 顔に何かが当たる感触がして目が覚めた。その視線の先には、コドモダケのどアップがある。どうやら、私を起こしたのは彼らしい。


「どうしたの?」


「キノォー……」


 傘を下に傾けて、自身のお腹の辺りに手を当てる。すると、蚊の鳴くような小さな音が聞こえてきた。


「もしかして、お腹空いたの?」


「キノッ」


 そういえば、いつもロゼッタがこの子に魔力あげてたんだっけ。でも、今日はあげる前に私が出て行かせたから、彼は食いっぱぐれてしまったということか。


「でも、代わりになりそうなモノがないのよね」


 コドモダケの主食は魔力らしいが、それしか食べないというわけでもないらしく。この前は私の代わりにクッキーをバリバリ貪っていた。食べられないというわけではなさそうだ。しかし、今は代わりになりそうな食べ物すら無い。さすがに床に落としたモノを食べさせるわけにはいかないし……。


 そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「アンジェリーク様、エミリアです。怪我の処置に来ました」


 お父様のご配慮で、男性のナッツ先生ではなく、女性のエミリアが私の怪我の具合を診てくれている。彼女が来るということは、寝ていたのは短時間ということか。


 何故か慌ててコドモダケが私の服の中に入っていく。それを確認した後「どうぞ」と応えると、医療道具の入ったトレーを両手で抱えているエミリアが入ってきた。


「お加減はいかがですか?」


「最悪」


「そうですか」


 私の素っ気ない返事にエミリアは苦笑する。べつに彼女が憎いわけじゃない。ただ、無理矢理笑う元気が無いだけだ。愛想笑いすら今は面倒くさい。


「では、失礼します」


 医療道具をベッド脇の机に置いて、エミリアは私の左太ももの包帯を取り外し始めた。


 エミリアも強くなったなと思う。私の傷口を見ても動じた様子は全くなく、ただ淡々と処置を施すだけ。それだけ怪我をした人を診てきたからなんだろうけれど、今ではナッツ先生から任せられるほどに成長して。


「たくましくなったわね」


「え?」


「出会った頃に比べたら、エミリアはたくましくなったよ。怪我の処置も一人でできるようになったし、回復魔法も使いこなせるようになってきて。本当成長した」


「そんなっ……私なんてまだまだです。今回の戦闘だって、犠牲者を出してしまって……不甲斐ないです」


 エミリアの顔が暗く翳る。まさか彼女が犠牲者が出たことをそこまで気にしているとは思わなくて、私は慌てて待ったをかけた。


「ちょっと待って。犠牲者が出たのはエミリアのせいじゃないでしょ? 私が無茶な作戦を立てたのがいけないのよ。あなたのせいじゃないわ」


「何言ってるんですか! あれはアンジェリーク様のせいではありません。私の魔法が至らなかったのがいけないんです。私がもっと早く怪我人に気付いて、回復魔法をかけてあげていたら、あの子の父親もきっと……」


「それこそ何言ってんの! あんたはその回復魔法でもっと大勢の人を助けたじゃない。お父様も言ってたわ。この激しい戦闘で犠牲者がたった五人で済んだのはエミリアのおかげだって。みんなもきっと感謝してるわ。私と違って」


「でも、五人も助けられなかったんです。私がもっと早く怪我に気付いて魔法をかけてあげていれば助かったかもしれないのに。だから、あれは私のせいなんです」


「違うわ。どんな魔法でも万能なモノは存在しない。回復魔法にだって限界はあるし、人間になんてもっと不可能なことは多い。あなたはその中でベストを尽くしたの。だから、犠牲者が出たのはこんな無茶な作戦を考えた私なのよ。私が犠牲者を出さないようにもっと配慮していれば、こんなことにはならなかった。常闇のドラゴンを壊滅しようなんて考えなければ、この五人は死ぬことはなかったの。だから、すべて私の責任なのよ」


「それこそ違います! みんな常闇のドラゴンはずっとどうにかしたいと思ってたんです。でも、怖くてなかなか出来なかった。でも、アンジェリーク様が自分の身を呈して壊滅へ動き出してくれたから、みんなも本気で集まってくれたんです。だから、みんなアンジェリーク様には感謝しているんですよ」


「どうだか。本心では、なんて無茶してくれたんだ、こんなことに巻き込むな、って思ってんのかもよ? 私、極悪令嬢だし」


「そんなことありません! もう、どうしてわかってくださらないのですか? ひねくれてるにもほどがありますっ」


「はあ? ひねくれてんのはあんたの方でしょ。その回復魔法で大勢の人を助けたのは事実なんだから、素直にみんなの感謝受け取りなさいよ。悲劇のヒロインぶって、その方がみっともないわよ」


「なっ……その言い方はないんじゃないですか!? 悲劇のヒロインぶってるのはアンジェリーク様の方じゃないですか。いつまでも落ち込んでて、見てるこっちがイライラします」


「なんですって!」


 お互いキッと睨み合う。なんだこいつ。犠牲者が出たのは自分のせいだってウジウジしてるくせに、私を見てるとイライラするって。それはこっちのセリフだっつーの。あんただっていい加減吹っ切れなさいよ。


 そこまで怒りの沸点が湧いた、その後。ふと、このやりとり、私とロゼッタのやりとりに似てるなと気付いた。


 ロゼッタもこんな気持ちだったんだろうか。早く吹っ切れろよって。


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