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お疲れ様会

 大掃除終了後。


 庭に置かれたいくつかの丸テーブルの上には、ココットさんが腕によりをかけて作ったご馳走が、所狭しと並べられていた。


 その周りに、グラスやジョッキを持った全員がクレマン様の言葉を待っている。大人はお酒、子ども達は搾りたてのリンゴジュース。


「今日はご苦労だった。みんなのおかげで、この屋敷が見違えるほど綺麗になった。ありがとう」


 そして、クレマン様がジョッキを掲げる。


「今日は無礼講だ。みんなたくさん飲んで食べてくれ。乾杯!」


『カンパーイ!』


 全員がコップを高々と掲げる。そしてお礼という名の会食は始まった。


「いいなぁ、お酒」


 リンゴジュースを飲みながら、お酒を美味しそうに飲む大人達を恨めしげに眺める。


 わかる、わかるよ。働いた後の一杯って、格別に美味しいよね。しかも、ワインはカルツィオーネの特産品の一つなんだとか。


 飲みたい……めっちゃ飲みたいっ!


「アンジェリーク様はまだ十五歳ですから、お酒は飲めませんよ。やめた方がよろしいかと」


「わかってるわよ」


 横でロゼッタが冷静にたしなめる。彼女の飲み物は水だった。


「ロゼッタはお酒飲まないの?」


「必要とあれば飲みますが、好んで飲んだりはしませんね」


「もしかして、あんま強くない? それなら是非飲んでみてよ」


「言っておきますが、対象より先に酔うことはありませんから」


「ちぇー、面白くないなぁ。酔っ払ったロゼッタ見たかったのに」


 唇を尖らせつつ、小皿に取ったお肉を頬張る。


「んーっ、美味しーい! さすがココットさん」


 肉の風味を殺さず、ミディアム気味の絶妙な焼き加減。このかけてあるフルーティーなソースも良い。他の料理も食べてみる。やっぱりどれも美味しい。ご飯が美味しいって最高だ。


 豪快に並ぶ料理の中、ちょこんと置かれたクッキーが目に止まった。気になって手に取って食べてみる。家庭的でシンプルな味がした。


「これ、美味しい」


「それ、私が作りました」


 声がしたので、思わず振り返る。声の主はルイーズだった。

 

「これ、ルイーズが作ったんだ。美味しいよ」


「ありがとうございますっ」


 ルイーズが嬉しそうに微笑む。すると、一息ついたココットさんとエミリアが隣に並んだ。


「ルイーズは良い子だよ。包丁の使い方も悪くないし、教えたことは素直に吸収する。とっても助かったよ」


「えへへっ」


 ココットさんが、ルイーズの頭を優しく撫でる。褒められたルイーズは嬉しそうだ。


「エミリアもお疲れ様。料理運ぶの手伝ってくれてありがとう」


「いえ、これくらい。こんな素敵な料理を作ってくださったんです。それくらいしないと」


「ココットさん、今日も最高に美味しいです」


「ありがとう、アンジェリーク様。ほら、あんた達も食べな。せっかくの料理が冷めちゃうよ」


『はいっ』


 そう促され、エミリアもルイーズも料理を食べ始める。二人の美味しそうな顔を見て、ココットさんは満足げに笑った。


「ありがとね、アンジェリーク様」


「何がですか?」


「もう一度大人数分の料理を作りたいっていう私の願いを叶えてくれて。こんなにたくさんの人達の美味しそうな顔見られて、私は幸せだよ」


「ココットさん……。いいえ、感傷に浸るのはまだ早いですよ。私の計画では、この大宴会を定期的に行う予定ですから」


「そうなのかい? こりゃあまだまだ楽しめそうだ」


 そう言って、ココットさんは、わっはっはと豪快に笑う。すると、ルイーズが再びこちらに戻ってきた。


「ココットさん、また料理教えてもらいに来てもいいですか? 孤児院の子ども達に、ココットさんの料理みたいなもっと美味しいもの作ってあげたいんです」


「いいよ。いつでもおいで。ルイーズなら大歓迎さ」


「やったー! ありがとうございます」


 無邪気に喜ぶルイーズ。その可愛さ、マジ天使。


「あらあら、みなさんお集まりで」


「ちゃんと食べていらっしゃいますか?」


「ミネさん、ヨネさん」


 いつの間にか、使用人が全員揃う。そして顔を見合わせるとお互い頷いた。


 よし、準備は整ったらしい。


「エミリア、ちょっと来て」


「? はい」


 呼ばれたエミリアは、わけもわからず私達についてくる。気になったのか、ルイーズまで後に続いた。


 目指すは、ニール様の所。彼は人の輪から少し離れたところで水を飲んでいた。


「ニール様、ちょっとよろしいですか?」


「なん……だ!?」


 私にロゼッタ、ミネさんヨネさん、そしてココットさんにエミリアにルイーズと、七人の女性がゾロゾロと現れたからか、私達を見てニール様はギョッとしていた。


「な、なんだみんなで押し寄せて」


「ニール様にご相談があります」


「相談?」


「エミリアが、ここでメイドとして働きたいと申し出てくれたのですが。少し問題がありまして」


「問題?」


 ほら、とエミリアを前に押し出す。


「実は、住み込みではなく、通いでお願いしたいのですが」


「通いだと? ダメだ」


「どうしてですか?」


「昔から、ヴィンセント家のメイドは住み込みと決まっている。それに、夜何か不測の事態が起きた時、通いではすぐに対応できないだろう」


「理屈はわかります。ですが、エミリアは孤児院のために働きたいと言ってきたのです。それに、自分が住み込みでいなくなると、ジゼルさんが子ども達の面倒をすべて見なくてはならなくなる。それを心配して通いが良いと、わがままを承知で訴えているんです。それでもダメだって言うんですか?」


「ああ、ダメだ。事情はわかるが、だからといってそんなわがままを許していたら、他の連中まで真似してしまうだろう。こういうのは、例外を作らない方が賢明だ」


 すると、今度はミネさんとヨネさんが説得を始める。


「エミリアはとても働き者なんですよ。任せた部屋はピカピカだし、指示がある前に自分で考えて行動できる積極的な子なんです、ねえミネ」


「ええ。それに、わからないことはすぐ聞いてくるし、教えたことは素直に取り入れるし。今まで見てきたどのメイドよりも勉強熱心ですよ、ねえヨネ」


「私の料理だって、率先して運んでくれたんだよ。自分だって疲れてるだろうに。こーんな気の利く良い子他にいないよ。手放すには惜しいさ」


 ココットさんまで説得に参加する。しかし、ニール様は首を縦には振らない。


「どれだけ能力値が高かろうが、ダメなものはダメだ」


「クレマン様は、通いでも良いとおっしゃっていましたよ?」


 ニール様への切り札、クレマン様了承済み。


 これでいけるかと思ったが、今回のニール様はしぶとかった。


「それでオレが毎回折れると思ったら大間違いだ。人事権はクレマン様だけでなく、俺にもある。使用人として働く立場のことは、俺の方がよくわかっているんだ。俺が理由を伝えてダメと言えば、きっとご理解してくれる」


 どうだ、と勝ち誇った顔で切り返してきた。


 くっ、今回は本当にしぶとい。こんなに頭固いから、未だに婚約者の一人もいないんですよ。


「どうした? もうお終いか?」


 ニール様が嫌味ったらしく聞いてくる。切り札は封印した、ともう勝利を確信しているんだろう。


 ふっ、甘い。甘すぎるぜ、ニール様。


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