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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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勝利の後

 気付くと、私は周囲を盗賊達に囲まれていた。目の前には、眼帯のないジェスが弓矢を持って立っている。逃げようにも、盗賊達に身体を押さえつけられていて動けない。


「死ねぇ、アンジェリーク!」


 ジェスが私の左目めがけて、弓矢を突き刺そうとする。そして本当に刺さるという瞬間、私は夢から醒めた。




「いやぁっ」


 目を見開いて、咄嗟に起き上がろうとする。しかし、その瞬間うつ伏せの身体全体をナイフで刺されたかのような激しい痛みが襲い、そのあまりの痛さに動けなくなった。


 ここはどこ? 盗賊達は? ジェスは? わからない、何もわからない。それがすごく怖い。


 悪夢と痛みのせいで思考がパニックになる。しかし、そんな今にも発狂しそうな私を止めたのは、優しい女性の声だった。


「アンジェリーク様、大丈夫ですか?」


 聞き知った声。私が世界で一番安心する人の声。震える私の視線の先にいたのは、心配そうに私を見つめているロゼッタだった。


「ロゼッタ……っ」


 私は起き上がった彼女の服にしがみつきながら、痛みに耐えつつ片手だけで必死に上半身を起こす。そしてそのまま彼女の懐の中へ飛び込んだ。


「怖い、夢見た……っ。ジェスや、盗賊達が、襲ってくる夢」


 恐怖に全身が震え、涙を抑えることができない。そんな私を、ロゼッタは優しく抱きしめてくれた。


「もうジェスも、常闇のドラゴンも存在しません。ですからもう大丈夫です。たとえいたとしても、この私が全力であなた様をお守りいたします。ですからどうぞご安心ください」


 優しく慰めるような声。


 あぁ、そうだった。いつだって彼女は、私を全力で守ってくれていた。最初に常闇のドラゴンに襲われた時も、最後に襲われたあの時も。だから、彼女がそばにいれば絶対大丈夫。


 そこまで思考が整理されると、今度は押し寄せてくる安心感から涙が止まらなくなった。そんな私を、ロゼッタは泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。


「……ありがとう、ロゼッタ。一緒に寝てくれて」


「いえ、私も心配でしたからお気になさらず。ですが、やはり一緒に寝て正解でしたね」


「案の定、怖い夢見ちゃった。またトラウマ増えちゃったかな」


 なんて冗談めかしつつロゼッタから離れようと身体を動かした瞬間、全身に激痛が走って動けなくなった。


「いったぁー……っ」


「無理して動かない方が賢明かと思います。背中も、左太ももも、右手も、かなり酷い有様ですから」


「そっか……また傷増えちゃったなぁ」


 冗談めかしてないと、また怖くて震えてしまいそうだ。そんな私の心の機微にも、ロゼッタは気付いているのだろう。彼女はさらに強く私を抱きしめた。


「痛々しいお姿ではありますが、死ななくて本当に良かったです。あなた様が今私の目の前に生きて存在してくださっていることが、本当に嬉しい」


「ロゼッタ……。あなたにはいつも心配ばかりかけて、本当にごめんなさい」


「いえ、もう慣れました……と言いたいところですが。こればかりはいつまで経っても慣れません。心臓がいくつあっても足りないくらいです」


「うっ……それは……」


「ですが、その反面あなた様には自由に生きてほしいと願っている自分もいる。本当に、難しい護衛を強いる方ですね」


「ロゼッタの護衛スキルが上がって良かったじゃない。そのうち世界で敵なしになるかもよ」


「そうですね。それくらいでないと、あなた様の護衛は務まらないかもしれません」


「……言ってくれるじゃない」


「言わせる主人の問題では?」


 そこまで言って、お互いムッと睨み合う。それでもすぐに可笑しくなって笑ってしまった。


 いつもの光景、いつものやりとり。それが常闇のドラゴンとの戦闘という非日常から、私を日常へと引き戻してくれる。ロゼッタもそう思っているから、しゃべると傷口に障る、なんて言って私を大人しくさせようとしないんだと思う。


「みんな、心配してた?」


「ええ、かなり。ミネさん達やエミリア達なんかは、あなた様の酷い有様を見て悲鳴をあげていました。ルイーズなんかはあまりのショックに立てなくなってしまって。クレマン様やマルセル様ですら言葉を失っていたほどです」


「そっか……まずはみんなに謝らないとね」


「特にクレマン様の心痛は大きいでしょうから、早い段階でお顔を見せて差し上げることをおすすめします」


「わかった。そうする」


 怪我をした自分が辛いというのもあるけれど。お父様を悲しませてしまったということの方が辛い。ロゼッタの言う通り、これは早めに顔を見せに行こう。私もお父様のお姿を見て安心したいし。


 ふと窓へと視線を向ける。光は入ってきていないけれど、カーテンの隙間からほんのり薄暗い光が漏れていた。


「私、どれくらい寝てたの?」


「半日といったところでしょうか。昨日気を失ってからこちらへ運ばれて、今しがた目を覚まされたという感じです。この感じだと、まだ夜明け前といったところでしょうか」


「そっか。今回は五日間も寝込まなかったんだ」


「ノア様の応急処置のおかげでしょう。ナッツ先生も、完璧だと感心なさっていました」


「さすがノアね。あとでちゃんとお礼言っとこう」


 そこまで行き着いて、ふとあることに気付いた。ロゼッタの顔をじっと見つめる。


「なんですか?」


「いや、大人のロゼッタに戻っちゃったなぁと思って。五歳のロゼッタ、超可愛かったのに。こんなに早く元に戻るんなら、もっといっぱいハグしとけば良かった」


「……へえ、それは残念でしたね」


「そう怒んないでよ。今のも本音だけど、元の姿に戻って良かったって思ってるのも本音なんだから。だって、五歳児のままじゃこんな風に甘えられないでしょ?」 


そう言うと、私はロゼッタの胸の中へ寄りかかった。すると、彼女は嫌がるでもなく両手で優しく包み込んでくれた。


「甘えん坊の大きな五歳児を持った気分です」


「嫌ならやめるけど?」


「それならはなから突き放しています。良かったですね、私の心が広くて」


「実は甘えられて嬉しいくせに。素直じゃないんだから。でも、そんなところが可愛いんだけどね」


「気が変わりました。離れてください」


「ロゼッタが、大人で寛大な心を持つ人でほんとに良かった。是非もう少しこのままでいさせてください。お願いしますっ」


「よろしい」


 よろしい、だって。顔には出さないけど、私が素直に甘えてきてロゼッタが喜んでいるのは雰囲気でわかるのに。でも、そんな天邪鬼な彼女も愛おしかった。

明けましておめでとうございます。


長々と放置してしまって大変申し訳ありませんでした(汗)

書くモチベーションを保つのってなかなか大変ですね……。次からは無理のないよう、週1回月曜日の朝8時に投稿する予定です。

また止まるかもしれませんが、引き続き楽しんでいただけたら幸いです。




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