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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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悪女の悪知恵4

 話が一旦落ち着いたタイミングを見計らって、お父様がニール様に問いかける。


「ノア以外にも盗賊に成りすましてアンジェリークの護衛に回すのはいいとして。わざわざそんな危険な任務にラインハルト殿下を向かわせるのは、さすがに危険ではないか?」


「リスクはあります。ですが、殿下のお気持ちは固いのでしょう? であるならば、このままダメだ、ダメだと抑圧しすぎれば、どこかの令嬢みたいに単独で動き出しかねない。そちらの方がはるかに危険です」


「そうだな、俺もその令嬢に似たところがあるから、ダメと言われれば言われるほど、意地になって勝手に動き出すかもな」


 ケケケッと殿下は笑う。明らかに私を指して言っているのだから、悪意しか感じない。よし、後で一発引っ叩いてやろう。


「それに、ここで殿下方の参加を拒めば、ロイヤー子爵がここぞとばかりに変な噂を広めようとするでしょう。カルツィオーネとシャルクの領主は、盗賊狩りに殿下達を巻き込んで危険な目に遭わせようとしていると。ですが、両殿下が自ら率先して動き出したとなれば話は別です。盗賊に苦しむ民を救うため、両殿下が盗賊狩りに乗り出した。カルツィオーネとシャルクの領主は、その思いに賛同して協力を申し出たと。そんな風な噂を広めれば、常闇のドラゴンを子飼いにしているロイヤー子爵の逆風となり、強い抑止力となるでしょう。きっと、派遣するヘルツィーオ軍の数も最小限にしてくるはず。クレマン様への悪い噂を塞ぎつつ、民の犠牲も最小限にする。そのためには、両殿下の参加は必須です」


「貴様、両殿下を利用するとは何事か!」


「今回の作戦には私の私兵も参加します。ジルは、ルイーズと一緒にシャルク軍へ同行して。ヘルツィーオの軍人が来ても誰も助けに行けないかもだけど、私の私兵だもの、どうにかできるわよね?」


「はい! 大丈夫です」


 ジルの自信に満ちた返事を聞いて、ギャレット様が苦虫を噛み潰したような顔をする。それもそうだろう、ジルを危険に晒したくないのなら、ニール様の提案を受け入れろと、そう私に脅されたようなものなのだから。


 ギャレット様はまだ何か言いたそうに私をキツく睨んでいたけれど、しばらくして「クソっ」と悪態をついた後で口をつぐんだ。それを確認して、ニール様が話を進める。


「異論はないようですね。では、両殿下が自ら盗賊狩りに乗り出したということで、この作戦を進めたいと思います。ラインハルト殿下とノア様がアンジェリークの護衛に回るとして、お二人だけではやはり危険です。もう少し人数が欲しい」


「俺が行く。殿下をお守りできるのは、近衛騎士の俺だけだ」


「では、ギャレット様お願いします」


「私も行くよ」


 ギャレット様に続いて手を挙げたのは、それまで黙って話を聞いていたリザさんだった。


「男ばっかだったら姫も怖いだろ? だから女の私が行ってやる。その代わり、殿下の護衛も兼ねると思うので、その分報酬弾んでくださいね、マルセル様」


「ああ、いいだろう。君がいれば安心して任せられる」


「ありがとうございまーす」


 ニシシッとリザさんは笑う。さすが傭兵、交渉が上手い。そんな彼女を、未だ不機嫌なギャレット様が鼻で笑う。


「金、金、金か。卑しい傭兵め」


 すると、リザさんの目が鋭くなった。


「じゃあ聞くけど。姫が盗賊達に凌辱されたとして、その後であんたら男どもに介抱されて安心できると思う? 答えはノーだ。死ぬほど怖い思いしたんだ、きっと強い拒否反応を示す。そんな彼女を抱えたまま、ちゃんと護衛なんてできんのかね?」


「それは……っ」


「あんたらは姫への配慮がなさすぎ。シャルク軍が包囲完了するまで、姫はあいつらに好き勝手されるんだ。これは相当酷い心の傷になるはず。それこそ完治が難しいほどのね。それをわかってて姫は囮になるって言ってるんだ。だから、私は姫があと一歩で死ぬっていうギリギリまで手は出さないから。姫の覚悟を絶対無駄にはしない」


「リザさん……ありがとうございます」


「私も、エミリアの治療が終わり次第そちらへ向かいます。ですのでノア様、ヒカリバナはできるだけ長く残しておいてください」


「うん、わかった」


「ロゼッタもありがとう。あなたが来てくれるなら、私は安心して任務を遂行できそうよ」


「何があっても、必ずお迎えにあがります」


「ありがとう」


 そうロゼッタに微笑んだ後、私は今一度表情を引き締めた。そして、護衛してくれる男三人を睨む。


「リザさんの言う通り、私の覚悟を無駄にしないでください。たとえ拷問を受けようが、凌辱されようが、私が死ぬ手前までは手を出さないこと。それが約束できないのであれば、護衛として必要ありません」


「わかっている。お前の覚悟を決して無駄にはしない」


 ラインハルト殿下がそう力強く答える。それに他の二人も同じとばかりに頷いた。それを確認してニール様へと視線を移す。話を続けてくれと。


「では、盗賊に成りすまし、アンジェリークを護衛するのは、この四人でいきたいと思います。他の細かい確認作業は、その都度おいおい話し合うこととします」


 異議なし、とばかりに全員頷く。それを確認して、ニール様がお父様に主導権を譲った。


「今回の作戦は、みなの協力が必要だ。だが、私はこのメンバーなら可能だと信じている。必ず成功させて、常闇のドラゴンを壊滅させるぞ」


『はい!』


 お父様の声かけに、全員の顔が引き締まる。それを確認して、私は拳を強く握りしめた。


 この作戦、絶対成功させてみせる。そして、常闇のドラゴンをぶっ潰す。このメンバーなら、ううん、このみんななら絶対成功できる。


 だから怖がるな。自信を持て。私なら我慢できると、何をされてもシャルク軍の包囲が完了するまで耐えられると、そう信じ込め。私なら何があっても大丈夫。


 そう心の中で自分に言い聞かせていた時。ふと私の手にロゼッタの手が触れた。


「怖がることは大事です。その方が相手も油断するでしょう。ですから、無理にご自身を誤魔化さないで結構です」


「ロゼッタ……」


「何があっても、必ずお迎えにあがります。その後の心のケアも、この私にお任せください。ですからどうぞ、あなた様はあなた様の思うがままに行動なさってください。ただ一つだけお願いをするのなら、死なないでください。それだけです」


「わかった。もう死にそうと思ったら必ず助けを呼ぶ。無理はしない。だって、あなたの悲しむ姿は見たくないもの」


 そう言って、ロゼッタの手を握り返す。どうしてだろう、たったそれだけのことなのに、不安な気持ちが少しだけ和らいだ気がした。


 さて、会議はもう終わりとみんな立ち上がり始める。そんな中、私は慌ててジルとルイーズに声をかけた。


「ジル、ルイーズ。あなた達二人にお願いしたいことがあるんだけど」


『お願い?』


 二人は揃って首を傾げる。そんな様子を微笑ましく見ながら、私の口の端は上がっていた。


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