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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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絶体絶命のピンチ

「首領、大丈夫か!? ……なーんてな」


 背後からからかうような声。咄嗟に反応したのはロゼッタで、彼女は私を庇うように押し倒した。直後、見たことのあるナイフが私の残像を切り刻む。そう、背後に立っていたのはジェスだった。


「ヒャーハハハハっ! まさかこんな簡単に騙されるなんてなぁ! マジで面白ぇっ」


 聞いているだけで不快になるような、耳障りな声で彼は嗤う。私には何が起こったのかまったくわからなかった。


「なに……どういうこと?」


「お前の護衛が生きてたことは、グエンから聞いててはなから知ってたんだよ。だから、お前ならこれを利用するだろうなぁと思ってな、騙されたフリして逆にてめぇらをハメてやったんだよ」


「そんな……っ」


 まさか、相手を騙していたつもりが、こちらが騙されていたなんて。これはヤバイ。


「アンジェリーク様はここを動かないでください」


 ロゼッタが最大限の警戒を露わにナイフを構える。こんな彼女を見るのは初めてかもしれない。そのうち、ゾロゾロと盗賊達も部屋の中へ入ってきて、私達は敵に囲まれてしまった。


「これ、かなりヤバいかも」


 ロゼッタは答えない。ただナイフを構えて周囲を警戒している。それだけでもう今がどれだけ危険な状態か理解できた。


 この部屋に窓は無く、出入り口はジェスが塞いでいる。逃げることもできない。まさに絶体絶命のピンチ。


 もしロゼッタが大人の姿のままだったら、これくらいのことでピンチだとは思わない。しかし、今の彼女は五歳児。顔には出さないけれど、肩で息をしているし、所々傷もできている。しかも木造の建物内では頼りの魔法が思いっきり使えない。彼女には不利な条件が揃いすぎている。


「お得意の魔法使ってもいいんだぜ? そしたら、真っ先に死ぬのはお前達だろうけどなぁ」


「なるほど。最初から私の魔法のことも計算に入れていたということですか」


「まあな。俺ゃ天才だからよ」


「なるほど。舐められたものですね。建物を燃やさない程度に出力を調節して魔法を使うことなどわけありません。これはあなたの計算ミスです」


「だったらやってみろよ。この状態でどこまで冷静に計算して戦えるか」


 ロゼッタのナイフを持つ手に力が込められる。そんな彼女の肩に、私はそっと手を置いた。


「ロゼッタ、いざと言う時はこの建物ごと燃やして」


「しかし……」


「奴らに捕まって無惨に殺されるくらいなら、あなたと心中した方がよっぽどマシよ。だからお願い」


 本気だった。もちろん、エミリアとレインハルトが無事結ばれるところを見るまでは死にたくはない。それでも、どうせ死ぬしかないのなら、大好きな彼女の隣で死にたい。彼女の横顔を見ながら、強烈にそう思った。


 私の力を信じていないのか、と怒られるかと思ったけれど。ロゼッタは怒るどころかフッと笑った。


「主人の仰せのままに」


「ありがとう、いつも私のワガママ聞いてくれて」


「今さらですね。ですが、その作戦は本当に行き詰まった時まで残しておきます」


「もちろんよ。一番は二人とも生きて帰ることだからね」


 私がそう言って無理矢理笑うと、ロゼッタは静かに頷いてくれた。そんな私達を見て、ジェスは薄気味悪い笑みを浮かべる。


「お別れの挨拶は済んだか? じゃあ、さようなら」


 ジェスの号令に、盗賊達が呼応して私達めがけて攻撃を仕掛けてくる。さっき弓矢を拾った関係で今手ぶらなのが痛い。それでもやるっきゃない。


 目の前に来た盗賊が剣を振り下ろす。しかし、それをロゼッタは軽やかに避ける。そして右腕にナイフを突き立てると、男は「ぐあっ」と呻いて剣を落とした。私はそれを素早く拾い、正眼に構える。


「ありがとう、武器をこしらえてくれて」


「戦力は多いに越したことはないですから。特に今みたいなピンチの時は」


「それもそうね」


 なんて言った後、近付いてきた奴らを蹴散らしていく。ただ、これまで戦ってきた疲労と、騙されたという精神的ダメージのおかげで、身体が上手く動かない。ついに攻撃を避けきれず、相手の蹴りが腹部に入ってしまった。


「ぐっ……」


「アンジェリーク様!」


 うずくまる私にロゼッタが駆け寄ろうとするが、それは盗賊達に阻まれてしまった。その間にも他の奴らが私に向けて剣を振り上げる。


 ここまでか。そう思った直後、私の目線に炎の球体が現れた。それはまるで生き物かのように、私の周りをぐるりと回る。すると、男達は「あちっ」と言って私から離れた。


「ごほっ……さすがロゼッタ。本当になんでもできるのね」


『私、天才ですから』


 近くにいないのに、ロゼッタの声がはっきり聞こえる。不思議に思っていると、指に嵌めていた指輪が光っていることに気付いた。


「天才は自分から天才だと言わないのよ。だから私が代わりに言ってあげる。あなたは天才よ」


『お褒めに預かり光栄です。腹部の方は大丈夫ですか?』


「ええ。こんなこともあろうかと、今日はコルセットをしてきたから。ただ、それなりに衝撃は身体に伝わるみたい。動きにくいし、失敗したかも」


『そうですか』


 そんないつもの会話の後、一瞬だけ間が空いた。


『一か八か、ここの床を爆発させます。ですので、受け身を取る準備を』


「床を……? なるほど、上手くいけばピンチ脱出。失敗すれば瓦礫の下敷き、か。面白い賭けじゃない。乗った」


『賭け成立ですね』


 思わずロゼッタを見る。ちょうど彼女が床に手をついているところだった。


 くる。そう思い衝撃に備えて身構える。その時だった。


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