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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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悪女、ひらめく

「お茶会を断ったニール様がどうしてここに?」


「お前に客だ」


「私に?」


 怪訝な顔をする私を無視して、ニール様は後ろに向かって「来い」と促す。すると、背後の茂みから、三人の人物が現れた。


「エミリアに、ルイーズに、ジルまで。三人ともどうしたの?」


 私の質問に誰も答えない。しかも、三人とも一様に表情が固い。いったい何事だろう。


 そんなことを思っていた時だった。いきなり、三人が地面に膝をつき頭を下げたのだ。日本で言うところの土下座。


「この度は、アンジェリーク様に怪我を負わせてしまい、大変申し訳ありませんでした」


『申し訳ありませんでしたっ』


「え、え? なに、どういうこと?」


「ですが、ルイーズも悪気があってやったことではありません。ですからどうか、命だけはお助けください」


「命っ?」


「すべては私の監督不行き届きの結果です。罰を受けるべきはこの私。どうぞ、ルイーズだけはお許しください」


「待ってください! エミリアお姉ちゃんは悪くありません。私が魔法を暴走させたのが悪いんです。ですから、悪いのはこの私です」


「ルイーズは黙ってなさい」


「でもっ」


「ルイーズは悪くない! 俺もルイーズの暴走を止められなかった。俺にも責任がある。だから、ルイーズへの罰は俺も受ける。その代わり、彼女への罰を軽くしてあげてください!」


「えっと……」


 これはいったいどういうことだろう。三人とも、どうしてこんなに謝ってんの? しかも命だけは、とか、お許しください、とか。何言ってんのかさっぱりわかんないんですけど。


 そんな私の混乱ぶりがロゼッタにはわかったのだろう。この状況をわかりやすく説明してくれた。


「普通、平民が貴族へ傷害事件を起こした場合、重い罪が課せられます。ひどいところだと死刑もあり得るほどです」


「死刑!?」


「だから三人は、こうして謝りに来たのです。どうされますか?」


「どうするって言われても……」


 なんだ、そのひどい差別は。これが普通ってことは、大抵の貴族はこういう風に罰してるってことでしょ? なにそれ、あったまくるなー。


 思わずクレマン様に視線を向ける。すると、「君が決めなさい」と任された。


「とりあえず三人とも……いたたっ」


 椅子から立ち上がると、背中に痛みが走った。すぐさまロゼッタが背中をさすりにくる。


「大丈夫ですかっ?」


「動くな」


 私を心配して立ち上がったエミリアを、ニール様が冷たく制する。彼女は再び土下座した。


「ニール様、そんなに冷たく言わなくてもいいんじゃないですか?」


「貴族と平民という身分は、はっきりさせておかなければならない。それがこやつらのためだ」


「残念ながら、私はそうは思ってませんから」


 べーっと舌を出すと、ニール様から強く睨まれた。はい、完全無視。


「三人とも、顔を上げて」


「しかし……」


「顔を上げなさい」


 命令口調にすると、三人は素直に顔を上げた。


「私はべつに怒ってないわ。怪我をしたのだって、私が勝手に動いた結果だもの。自業自得というやつよ。だから、誰が悪いというわけでもない。もし、誰か挙げろと言うのなら、それはニール様だから」


「はあ? なんで俺が」


「あなた様がエミリアを無理矢理連れて行こうとしたから、ルイーズは怒って力を暴走させちゃったんでしょうが。謝るべきはニール様です。この三人じゃない」


 ニール様は「ちっ」と舌打ちをする。正論だから何も言い返せないんだろう。ざまあ。


「というわけで、三人ともお咎めなし。これでオッケー?」


「ですが、本当によろしいのですか?」


「いいもなにも、本人が許すって言ってるんだからいいのよ」


「でも、背中痛いんですよね? 私のせいで怪我させちゃって……」


「ルイーズは悪くないよ。大丈夫だって」


「でも……」


 ジルが慰めても納得できていないルイーズ。そんな彼女の頭を私は優しく撫でてあげた。


「ルイーズは優しいのね。でも、私は大丈夫よ。ロゼッタに秘伝の薬を塗った湿布を貼ってもらってるから、すぐに良くなるわ。ね、ロゼッタ」


 そう言って、ロゼッタにウインクしてみせる。どうやら、私の意図は彼女に伝わったらしい。


「はい、すぐに良くなります。それはもう、絶望的から絶不調に回復するくらいには」


「私のまんまパクるな。それに、それあんまり回復してるイメージじゃないし」


「怪我ばかりする主人を暗にたしなめているだけです。少しは反省してください」


「なんで私が反省しなきゃいけないのよ。それを言うなら、主人に対して嫌味ばかり言うあんたの方こそ反省しなさいよ」


「私は嫌味など言った覚えはありませんが?」


「ウソつけ!」


 私達がいつものやりとりを始めると、背後から笑い声が聞こえた。それはクレマン様とミネヨネさんとココットさんのもので。どうやら三人も事の成り行きを見守ってくれていたらしい。


「はい、この話はこれで終わり。三人とも、もう帰っていいわよ」


 私が笑顔でバイバイと手を振る。すると、突然エミリアが立ち上がった。


「あの、せめてアンジェリーク様のために何かさせてください。ルイーズをお咎めなしにしてくださった恩を返したいのです」


「そんな気にしなくてもいいわよ」


「私も何かさせてください! 罪滅ぼしがしたいんです」


「だから、あれは罪じゃないって」


「俺も何かする! 何でも言ってくれ」


「ジルまで……」


 おいおい、みんなどうしちゃったの。私だったら、許してくれるって言われたらラッキーって思うだけだけどな。


「……とか思ってますよね?」


「勝手に人の心読まないで」


 恩返しねぇ。そう言われても、してほしいことなんて……。


 いや、待てよ。


 小説の原作通りにエミリアとレインハルトが出会う可能性が低くなった今、彼女との接点をここで断ち切ってしまっていいのか?


 回復魔法の使い手ということまでバレてしまったんだ。今後、どこの馬の骨とも知らないヤツらが彼女を狙ってくるかもしれない。だったら、自分の目の届く範囲に置いておいた方がよくない?


「また何か企んでるな」


「ええ。たぶんニール様を悩ませるような事を」


 でも、恩返しの代わりだと、私が強制したみたいで変な噂が立ちそうだし。


 どうにか自然な流れで、欲を言えばエミリアの意思で、私のそばに置いておく方法はないものか。


「あの、アンジェリーク様?」


「しっ。エミリア、覚悟しておきなさい。アンジェリーク様は今、よからぬことを企んでいる最中ですから」


「よからぬこと……」


 気のせいか、エミリアの生唾を飲み込む音が聞こえた気がしたような。


 というか、早くシフォンケーキ食べたい。せっかくココットさんが作ってくれたのに、これじゃあ美味しい瞬間逃しちゃうよ。


「あっ!」


 そこでふと思いついた。そして、そびえ立つお屋敷を一瞥する。


「ココットさん、余ってる食材って、子ども三十人分くらいの量ありますか?」


「子ども三十人分? それくらいなら余裕で足りると思うけど」


「なるほど。じゃあ、今でも大人数分の料理作りたいと思ってます?」


「ああ、作れるものならね。なんだい、作らせてくれるのかい?」


「ええ。思いっきり」


 ニヤリと笑う。すると、ロゼッタから鋭い指摘が入った。


「アンジェリーク様、悪どい顔つきになってます」


「そうかもね。今ちょっと愉快だから」


 そう言って三人へ向き直る。彼女達は肩を強張らせて、私が何を言うのか不安げに待っていた。


「そこまで私のために何かしたいのなら、やってもらおうじゃない」


 そこで、私は仁王立ちした。


「孤児院のみんなで、この屋敷の大掃除よ!」


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