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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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諦めるにはまだ早い

「グエン、レオナード。もしかしたらあのフードを被ってる奴らの中に、ヘルツィーオの軍人がいるかもしれないから。気をつけなさい」


「ヘルツィーオの軍人? なんで?」


「……なるほど、わかった」


 首を傾げるレオナードとは対照的に、グエンはただ静かに頷く。しかし、その顔は険しい。それもそのはずで、せっかく半数くらいやっつけたのに、今度はそれ以上の敵が入ってきたのだ。お互い負傷していて体力も消耗している。雑魚とはいえ、状況はこちらが不利。ジェスもそう判断したのだろう。全体を見渡せるよう、部屋の奥にある階段の中段辺りまで登り、唇の端を器用に歪めて笑う。


「安心しろ。お前達の最後は、ちゃーんと俺様が見といてやるから。やれ!」


 ジェスの号令で盗賊達が襲いかかってくる。私達は背中を中心に向けてそれぞれ迎え撃った。


「いい? きっとお父様が外にいる盗賊達を蹴散らして、私達を助けに来てくれる。だからそれまでは持ち堪えなさい」


「ほんとにくんのか? 軍神は」


「来る。絶対に」


 力強く答えながら、相手の鳩尾に剣の柄を叩き込む。すると、それ以上は誰も突っ込んでこなかった。


 そう、大丈夫。そう信じなければ、すぐ不安になる。心が折れてしまう。そうなってしまったら、私に訪れるのは死のみ。だから私は何がなんでも大丈夫だと信じなければならない。


「どんだけいんのよ、こいつらは……っ」


 対個人であれば強い相手ではない。それでも、数でこられると辛い。体力がもたなくなる。その証拠に剣が重たくなってきた。グエンもレオナードも、だんだん押され気味で怪我も多くなってくる。


「うわっ」


 ついに、相手の剣を流しきれず飛ばされる。そして床に尻もちをつく私めがけて、相手の剣が襲いかかってきた。それをなんとか剣で防ぐけれど、腕がパンパンなうえに上から体重をかけられどんどん押されていく。


「クソ生意気なガキが。死ねぇっ」


 うわぁ、マズイ。相手の剣と私の額まで数センチもない。避けることも反撃することも不可能。どうする、どうする。


「あなた、モテない、でしょ?」


「はあ? なんだいきなり」


「だって、息臭い」


「なっ! てめぇ……っ」


 頭に血が上ってるのがわかる。相手の押す力が増したけれどそれでいい。怒りは注意力を散漫にするから。


 額に相手の剣が触れるスレスレのその時。大きな岩が男を弾き飛ばした。私の前には男の残像だけが残る。その後に現れたのは、額から血を流しているグエンだった。どうやら岩だと思ったのは彼だったらしい。日本代表のラガーマン並みの良いタックルだった。


「大丈夫か、ボスドリル」


「メスゴリラみたいな発音で言わないで。殺すわよ」


「それだけ元気があれば大丈夫そうだな」


 差し出された手を握る。そして引き上げられたけれど、立ち上がるどころか勢いがありすぎて彼の胸板まで吹き飛んでしまった。思わず「んげっ」と呻く。


「あ、悪い」


「……力加減考えて」


 男性の胸板に引き寄せられるなんて、普通の女性なら喜びそうなシチュエーションだけれど。勢いがありすぎたのと彼の胸板が厚すぎたので、正直痛くてそれどころではなかった。


「心臓が激しく動いてたけど、あんたこそ大丈夫なの?」


「正直キツい」


「案外素直に認めるのね」


「ほんとのことだから」


「あっそ」


 すると、今度はレオナードが吹き飛ばされてきた。彼はそのままグエンにぶつかるけど、ナイスキャッチで受け止められる。


「わりぃ、デカブツ……はあ、はあ、助かった」


「グエンだ、リーゼント」


「レオナードだ」


 レオナードは不服そうに乱れたリーゼントを直す。しかし、その腕は小刻みに震えていた。呼吸も肩でするほど荒れている。彼ももう限界が近いのかもしれない。


「なんだ、全員キツそうだな……はあ、はあ」


「そういうあんたこそ」


「こんなんで軍神が来るまでもつのか?」


「もたせるのよ、意地でも」


「でも、かなり厳しい」


 グエンにまでそう言われ、私は一度口をつぐんだ。


 二人の言う通り、戦況は思わしくない。圧倒的にこちらが不利。普通なら死を覚悟してもおかしくないかもしれない。


 動きが止まった私達に、ジェスが愉快そうに唇の端を上げる。


「おいおい、あんな大口叩いといてもう降参かぁ?」


「冗談。今どうやってあんたを黙らせるか考えてたところよ」


「はっ、強がんなよ。命乞いするなら助けてやってもいいぜ」


「あんたに命乞うくらいなら、死んだ方がマシよ。このクズ野郎」


 べーっと舌を出して拒否する。すると、ここからでもわかるくらいジェスのこめかみがピクピク痙攣した。


「やっぱてめぇはこの俺がぶっ殺す」


「やれるものならどうぞ」


「おい、てめぇら! アンジェリークは殺さず生捕にしろ。俺がなぶり殺すからな。あとの奴らはお前らの好きにしろ」


『オー!』


 むさ苦しい男達の叫び声が脳に響く。実に不愉快だ。


「ボスはモテモテだな。羨ましくねーけど」


「護衛するこっちが大変」


「極悪令嬢の従者になるってことはこういうことよ。覚えておいた方がいいわ」


「まあでも、女守って死んだってんなら、あの世でも格好つくわな」


「俺はあの世で子ども達に謝らないと。仇取れなくてごめんって」


「あんた達さっきから何諦めてんのよ。そんな簡単に死んでいいわけ?」


「だがよ、さすがにこれは無理だろ」


「身体の麻痺も取れない。援軍もまだ来ない。圧倒的に不利」


「だから何?」


 あっけらかんとそう言うと、二人はポカンと口を開けた。


「悪いけど、私は最後の最後まで諦めないわ。何がなんでも生き抜くって決めてるから」


「ボス……」


「それに、こういうこともあろうかときちんと保険はかけといたから」


『保険?』


 二人の眉間にシワが寄る。私が不敵に笑ったその直後、屋敷の裏手口から大きな爆発音がした。


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