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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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戦闘開始

 グエンに三人の男が飛びかかる。しかし、彼は大剣を一振りしてそいつらを薙ぎ払った。そして、そいつらが落とした剣をレオナードが拾い、目の前に来た男の攻撃を防ぐ。そしてそいつのお腹にケリを入れると、後ろから来ていた二人がドミノのように倒れた。


「やるじゃねーか、グエン」


「レオナードも意外にやる」


「はっ、意外は余計だ」


 お互い不敵に笑い合い、再び戦闘を始める。そして、目の前の盗賊達を蹴散らしていく。


 グエンは元から強いとは思っていたけれど。レオナードも意外に強いらしい。この二人、お父様にきちんと剣を習えば、きっともっと強くなれるのに。そんなことを感じてしまうくらい、二人の周りには盗賊達の屍ができていく。それを見て、ジェスは面白くなさそうに舌打ちをした。


「おめぇら何やってんだ! 相手は二人だぞ」


「クソッ」


「強ぇよ、この二人」


 二人の強さに盗賊達が僅かに怯む。もしかしてこのまま全員倒しちゃったりして。


「あの二人を過小評価しすぎ。あんたの読み外れたわね」


 ジェスに向かってそう吐き捨てる。しかし、彼は面白くなさそうな顔から一転、気味の悪い笑みを浮かべた。


「俺だって、グエンの強さは折り込み済みだよ」


 ジェスが片手を挙げた。いったい何をする気なのかと訝しんでみる。すると、部屋の隅に何か筒みたいなものを口にセットしている人物が目に留まった。あれは、まさか。


「グエン、レオナード、吹き矢よ。避けて!」


「え?」


「あ?」


 叫んだ瞬間、二人が「いてっ」と小さく叫んで腕や肩を押さえる。見渡してみると、二階の階段前にも同じく筒を持った男が立っていた。


「小賢しい真似しやがって。べつにこれくらい大したこと……」


 すべてを言い終わる前に、レオナードが片膝をついた。どうやらグエンも同じらしい。これはまさか。


「即効性のある麻痺系の毒を矢の先に塗っておいたんだ。賢いだろ?」


 クククっとジェスは笑う。なるほど、これがグエン対策ということか。彼は跪いたままのグエンの元へゆっくり歩いていく。


「いつものお前なら、これくらい予想して動けてたはずだ。だが、ゴミ共のことで怒りに任せて冷静さを欠いた。ダセェよ、グエン」


「ジェス……っ」


「お前は俺から逃げられない。お前は一生俺の奴隷だ」


 グエンが息を呑んだのがわかった。直後、彼はジェスを振り払うように大剣を動かすが、それは呆気なく避けられてしまった。いつもの鋭さがない。毒が効いてるんだ。


「お前ら、グエンは殺すなよ。でも、そうだなぁ、今後反抗する気も起きないくらいボコボコにするのは許す。あとは、アンジェリーク以外は殺せ」


『へーい』


 つまり、三兄弟のみ殺せということ。麻痺に苦しむレオナードの周りを男達が取り囲んだ。そして、殴る、蹴るの暴行を加え始める。


「よくも仲間をやってくれたな」


「この、クソリーゼント野郎が」


「死ね!」


 レオナードは防戦一方。そんな兄に弟達は叫ぶ。


「兄貴!」


「お前らやめろ! やるなら俺らをやれっ」


「その代わり兄貴は見逃してくれ。兄貴は俺達の大切な家族なんだ!」


「お前、ら……っ」


 兄弟達の訴えに、ジェスは「黙らせろ」と冷たく命令する。すると、そばにいた奴らが彼らにも暴行を加え始めた。


「やめろ……! 弟達には、手を出すな……っ」


「あぁ? てめぇ誰に命令してんだよ。そんなに死にてぇのか」


 ジェスがナイフをちらつかせながら、ボロボロのレオナードに近付いていく。まずい、これじゃあ兄弟達が本当に殺されてしまう。


 冷静に考えれば、あの三兄弟が死のうがどうしようが私には関係ない。むしろ、最初は彼らに襲われたのだ。助ける義理はない。だけど、彼らは私を助けようとしてくれたことはある。


「私もつくづくお人好しだわ」


 自分の性格が嫌になる。こういう時冷徹になれない自分が。


 私は手を縛られたまま立ち上がると、そのまま出口めがけて走り出した。


「おい、逃げたぞ!」


 盗賊の一人が気付いて声を張り上げる。その間にも私はどんどん距離を稼いでいく。


「このやろっ」


 捕まえようと伸びてきた男の腕をかわす。そして、低いヒールで蹴飛ばしてやった。次に現れた男は、肩で突進して突き飛ばす。後ろ手に縛られていてもこうして動けるのは、鬼教官であるロゼッタとの訓練の賜物だ。ただ、怪しまれないようにと簡易なドレスとヒールで来たのが結構辛い。普段と違って動きにくくて困る。


「グエン、レオナード、そんでその弟達! 何呑気に寝てんの。さっさと逃げるわよ」


「寝てるって……」


「天然ドリル……」


「女の私がこれだけ根性見せてるんだから、男だったらこの倍は根性見せなさい」


 女だから差別するなと怒っておきながら、男なら根性みせろと文句を言う。ジェンダー差別も甚だしい。そんな自分に冷静にツッコミを入れつつ、私は目の前の盗賊達を蹴散らしながら逃げる。立ち止まるな、数で一斉に来られたら、今の私の状態だと太刀打ちできない。


「おい、何やってる! そいつだけはぜってー逃すな!」


 ジェスの怒鳴り声に、盗賊達が躍起になって私を追いかけてくる。まずい、このままじゃあ逃げ切れない。


 案の定、もう少しで扉に手が届くというところで私は捕まった。縦ロールの片方を引っ張られた後、両脇を抑えられながらジェスの元へ連れ戻される。すると、彼は私のお腹を殴った。思わず「うっ」と呻いて固まった後、今度は左頬を殴られた。勢いを殺せず、私はそのまま床に倒れ込む。そんな私の顔をジェスはその足で踏みつけた。


「ったく、手間かけさせんじゃねーよ。逃げられると思うな」


「……あまりにむさ苦しいものだから、空気を吸いに行っただけよ」


「あぁ?」


「でも、私が逃げただけであの慌てよう。超笑えるんだけど」


 すると、私を踏みつけるジェスの足に力が込められた。


「強がんなよ。お前の護衛、もう死んでんだろ? じゃなきゃ、こんなに簡単に捕まるはずがねぇ。あんなお遊びみたいな私兵じゃグエンの敵じゃねーし。お前もう詰んでんだよ」


「っ……まだ、詰んでないわ。護衛なら、いるわよ」


「あぁ?」


 ジェスの不愉快そうな声。それを無視して、私はグエンとレオナードに話しかける。


「グエン、レオナード、あんた達は私の奴隷でしょ? 主人のピンチに、何のんびり寝てんのよ」


「奴隷? 俺が、天然ドリルの?」


「……おいおい、べつに寝てるわけじゃねーんだが、なっ」


「早く私を、助けなさい。その代わりに私が何を提供するのか、忘れたとは言わせないわよ」


「ああ、そうだった……っ」


 まず先にレオナードが立ち上がった。そして乱れたリーゼントを手櫛で整える。身体は麻痺したままらしいから、たぶん気合いだけで動いたんだろう。意外に根性はあるらしい。


「それからグエン。あんたどっちの奴隷に、なりたいわけ? 言っとくけど、私なら、あなたの欲しいものを、あげられるわ」


「俺の、欲しいもの……」


「グエン! こいつの言うことなんか聞いてんじゃねぇ。苦し紛れのハッタリだ。お前は俺に従ってればいいんだよ」


「さあ、どうするの、グエン」


 グエンはしばし押し黙る。それでも、意を決して麻痺する身体のまま立ち上がった。


「俺は、天然ドリルの……お前の奴隷に、なる。もう、ジェスの言いなりには、ならないっ」


「グエン! てめぇっ」


「子ども達の恨みは、友達である俺が晴らす」


 グエンがジェスのいる方へ大剣を構える。完全な決別宣言だった。


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