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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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潜入

 二日後の夜。私は顔に布を被せられ、両脇をグエンとリーゼント男のレオナードに固められた状態で歩いていた。


「ほんとに大丈夫なのか?」


「しっ。グエン、あんまり話しかけないで。仲良しこよしに見えたら奴らが不審がるわ」


「そうだ、そうだ。きちんと知らないフリしろよ、デカブツ」


「レオナード、あんたも十分話しかけてんじゃない。作戦がバレたら私殺されちゃうんだからね。もしそうなったら、あんたの弟達も用無しで殺されちゃうわよ」


「マジか!」


「当たり前じゃない。だから、ちゃんと演技してよ。私に何があっても動じないこと。いい?」


「ああ、大丈夫だ」


「わかってるよ」


 本当だろうか。グエンはまだしも、レオナードはほくそ笑んでるような気がする。でも、これ以上は話しかけたくなくて、私はただひたすらに真っ暗な道を二人の腕を頼りに歩いていた。


 両手は後ろ手にしてロープで縛られている。表面上は二人の強襲に遭い、不意打ちで捕まってしまったという体。なので、それらしく振る舞う必要があった。


 ただ、不意打ちをかけるのはこっち、といくら自分に言い聞かせても、作戦が失敗した時のことがどうしても頭から離れず、恐怖は身体全体に行き渡っている。なので、演技せずともいつも通りの私で誤魔化せるはずだ。たぶん、二人もそのことに気付いているのだろう。だからグエンも、大丈夫か、と聞いてきたんだと思う。レオナードも、弟達が心配だろうに私の気を紛らわせるためにわざわざ話しかけてきて。そういう二人の優しさがわかっているからこそ、私は立ち止まらずに歩けている気がした。


「もうすぐ着くぞ」


 しばらく歩いた後、グエンが静かに教えてくれた。それまで雑草の中を歩いているような音しかしていなかったのに、急に固い地面を踏みしめた時のような音に変わる。もしかしたら、森の中の建物にでも到着したのかもしれない。


「お、来た来た」


「待ってたぜぇ」


 布の外から男達のざわついた声があちこちから聞こえる。その声だけでわかる。男達は私が来てニヤついていることに。それがわかって、私は一気に緊張に包まれた。それは私の両脇を固めている二人もそうらしく、私を掴む手に力が込められる。


 そのうち、グエンが誰かに話しかける声が聞こえてきた。


「ジェスは?」


「中でお待ちだ」


 地面を踏みしめる音から、木の床の軋む音に変わる。どうやら建物の中に入ったらしい。少し歩くとドアをノックする音が聞こえ、その後にそれが開く音がした。足を踏み入れると、外とは比べ物にならないくらいの人の気配を感じた。一気に心臓の動きが速くなる。


 突然、グエンとレオナードの足が止まった。そして、私は跪かされ、視界を覆っていた布が取り外された。


 最初、眩しさに目がなかなか開かない。それでもやっと慣れてきた時、私の目の前にあったのは、左眼に眼帯を付けているジェスだった。


「よお、アンジェリーク。会いたかったぜぇ」


 その憎しみのこもったような卑しい笑みに、咄嗟には何も返せない。そんな私を見て、ジェスの笑みはさらに濃くなる。


「さすがの極悪令嬢もビビってんのかぁ。そうだよなぁ、突然こんな素敵な所に連れてこられたんだからよぉ」


「……違うわ。久しぶりにあんたの顔見て反吐が出ただけよ」


「あぁ?」


「その眼帯似合ってるじゃない。ブサイクがさらにブサイクになって。お似合いだわ」


 そう言って口の端を上げる。すると、左頬に鋭い痛みが走った。ジェスが私の頬を叩いたのだ。


「お前、自分の立場わかってんのか? あぁ、そっか。怖くてちゃんと認識できてねーんだな。可哀想に」


 その後で私の髪を鷲掴む。そして、左眼の眼帯を掴んだ。


「お前に刺されてから、左眼の傷が疼いて仕方ねぇんだよ。お前を殺せ、殺せってなぁ。どうしたらお前に屈辱を与えながら殺せるか、そればっかり考える毎日は愉快だったぜ」


「っ……そう、まさかそんなに想われてるとは思わなかったわ。でも、ごめんなさい。私あんたなんかに殺されるつもりはないの。寝言は寝てからいいなさい」


 すると、今度は右頬を叩かれた。


「調子に乗ってんなよ、クソあま。今のお前なんか秒で殺せんだぞ」


 ジェスの目は血走っている。たぶん本気だ。ゾッと背筋に悪寒が走るが、それをなんとか歯を食いしばって耐える。


「そうやって脅せば、私が泣いて命乞いするとでも? でも残念でした、私の命はあんたに殺されるほどそんなに安くはないの。覚えておきなさい、このクソ野郎」


「てめぇ……っ」


 こめかみに青筋を立てたジェスの手が拳になり振り上がる。しかし、それを振り下ろす前に、レオナードがジェスと私の間に入った。


「なんだてめぇ、邪魔すんな!」


「そうはいかねえな。俺達は約束を守ったんだ。弟達を返してもらうぞ」


「弟? あぁ、あいつらか」


 ジェスが顎だけ動かして周りの雑魚に指示を出す。そして連れてこられたのは、身体中傷だらけの男二人だった。殴られたのか顔は腫れ上がり、口や鼻からは血が流れている。


「トマ、イザック!」


「兄貴!」


「来ちゃダメだ! 殺されるっ」


 そう叫ぶと、そばにいた盗賊に二人とも蹴られた。


「てめぇ、弟達になにしやがる!」


「うっせぇから黙らせたんだよ。べつにいいだろ? どうせ死ぬんだから」


 ジェスが右手を挙げる。すると、周りにいた盗賊達が一斉に武器を取った。半数くらいはフードを被っていたけれど、どの顔にもいやらしい笑みが張り付いている。この光景、最初に襲われた時と一緒だ。


「騙したのか!?」


「はあ? お前バカか。俺達ゃ盗賊だ。約束守る義務なんてねーんだよ、バーカ!」


「クソッ」


 悔しさと憎しみの混じった顔で、レオナードはジェスを睨む。しかし、二人の間にグエンが慌てた声で割って入ってきた。


「おい、ジェス。アンジェリークは連れてきた。子ども達は解放してくれるんだよな?」


「子ども達? あぁ、あのゴミ共か。安心しろ、今頃全員あの世で家族ごっこしてるはずだぜ」


「なっ……」


 グエンの顔に動揺が広がる。その後で見たこともないような鋭い眼光を飛ばした。


「約束が違うぞ、ジェス! アンジェリークを連れてきたら子ども達は解放する約束だろ」


「うっせーな。さっきも言っただろ、俺達は盗賊、つまり悪党。約束なんか守る義理はねぇ」


「ジェス、貴様……っ」


「なんだよ、俺を殺すのか」


「っ……!」


「できるわけねーよな。人一人殺せねーお前が、命の恩人である俺を殺せるわけがねぇ」


「……そんなの、やってみないとわからない」


 静かな声。だが、憎しみのこもったその低い声は、周りにいた盗賊達を黙らせるのには十分だった。グエンとレオナード二人の怒りに満ちた眼差しがここにいる全員を射抜く。そして各々剣を構えた。


「おい、デカブツ。邪魔すんなよ。あのクソ眼帯野郎は俺が殺す」


「グエンだ、リーゼント。悪いが、ジェスは俺の手で殺す。そうしないと、子ども達が浮かばれない」


「そうかよ。じゃあ、二人で仲良く殺すしかねぇな」


「良い案だ。賛成する」


「ごちゃごちゃうっせーんだよ。やれー!」


 ジェスの号令で、建物にいた盗賊達が一斉に私達に襲いかかってくる。二人は私を守るようにしてそいつらと対峙した。


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