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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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小説内容の変異

「おや? アンジェリーク、もう起きて大丈夫なのか」


「ええ、大丈夫、です……いててっ」


 ロゼッタに支えられながら、そろそろと椅子に座る。その後で、彼女は私の背中と背もたれの間にクッションを挟んでくれた。


 お茶の時間。


 いつものメンバーでお庭にある東屋に集まっていた。


「べつに、今日のお茶会は中止にしてもよかったのに」


「いいえ、このお茶会は私の楽しみの一つなんです。ココットさんの美味しいお菓子と、ミネさんとヨネさんの淹れてくれた美味しい紅茶と、そしてみなさんとのおしゃべりと。それらをこんな素敵な庭で堪能する。この時間がなによりも幸せなんです」


 かなり力説してみせる。すると、それじゃあ仕方ないとみなさん納得してくれた。


「最初、ロゼッタさんに背負われて来た時は、そんなに具合が悪いのかとビックリしちゃったよ」


「驚かせてしまってすみません、ココットさん。本当は一人でも歩けるんですけど。冗談でロゼッタにおんぶしてってお願いしたら、彼女本気にしちゃって。頑として譲らないものだから、仕方なく恥を忍んでおんぶしてもらいました」


「このタイミングで冗談を言う方が間違っていると思いますが」


「悪かったわよ。今度から気を付けます」


「いやいや、元気そうなら良かった」


 テーブルの上に置かれたお菓子を確認する。今日はシフォンケーキらしい。食べると、リンゴの匂いと甘酸っぱい酸味とが口いっぱいに広がった。そこに紅茶を放り込むと、フレーバーティーのようになって、さらに美味しさが増す。


「んーっ、美味しい! やっぱりココットさんの作るお料理は天下一品ですっ」


「そうかい? ありがとう。アンジェリーク様は美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるよ」


「でも、最近リンゴ率高くないですか? あ、嫌とかそういうことではないんですけど」


「それがね、旦那様が風邪をひいたって聞きつけた方々が、次々とリンゴを送ってきてくれたんだよ」


「リンゴを?」


「旦那様の好物だからさ」


「へえ。そうなんですか」


 思わずクレマン様に視線を向ける。すると、シフォンケーキを頬張りながら頷いていた。


「旦那様はお顔が広いから、たくさんの方が送ってくださるんですよ。ねぇ、ミネ」


「ええ。それに、領民達も心配して、領地で採れた色んな野菜や果物なんかを持ってきてくれてるんですよ。ねぇ、ヨネ」


「でも、食べる人数は決まってるだろ? なかなか減らなくて困ってるんだ。このまま食べ切れず腐らせるのももったいないし。どうしたもんかね」


「なるほど。確かにそれはもったいないですね」


 親の躾で、食べ物を粗末にするなとよく言われて育ってきた。学校の教育でも、飢餓問題やフードロス問題を取り上げてよく考えさせられた。


 だからだろうか。せっかく食料があるのに、食べきれず捨ててしまうのはなんだか気が引ける。孤児院みたいに、食料が少ない所だってあるのに。


 シフォンケーキをフォークでツンツンする。すると、ロゼッタにやめろとたしなめられた。


「そういえば、昨日ニールが言っていたが、回復魔法の使い手が現れたんだって? しかも孤児院で」


「そうなんです。エミリアっていう女性なんですけど。本人はどうやら自分が回復魔法を使えると思っていなかったみたいで。回復魔法の希少さも、それを悪用される危険性も、どうやら知らなかったみたいです」


「なるほど。それは危険だな。戦争中、回復魔法の使い手がどれだけ過酷な目に遭いながら働かされていたか。その現実を知っているから、正直放ってはおけないな。きっと、よからぬ連中が彼女を狙いだす」


「私もそれを大変危惧しております。あの、世界には回復魔法の使い手は二人しかいないんですよね?」


「ああ、私が知っている限りではそうだな」


「では、この国にはいますか?」


「いや、この国にいたというのは聞いたことがない。もし彼女が本当に回復魔法の使い手なら、この国では初めてになるだろう」


「なるほど」


 よし、ここまでは原作通りだ。これがあるからこそ、エミリアの希少性と重要性が増す。


 促してはいないけれど、ロゼッタが勝手に続きを話しだす。


「その回復魔法のお二人は、今どうされていらっしゃるのですか?」


「確か、一人は国で保護されていて、もう一人は教会が保護している、と聞いたことがある」


「教会が?」


 思わず口を挟んでしまった。


 おかしい。確か私が書いた原作では、二人とも国によって手厚く保護されているはず。だからこそ、レインハルトがエミリアを見つけて、国で保護する流れだった。


「どうして教会なのでしょう」


「さあ、詳しいことは知らんが。何か理由があるのだろう」


「理由、か」


 ここでも話が変わりつつあるなんて。


 まあでも、とりあえず一人は国で保護されているんだ。そこを強調すれば、レインハルト次第だけれど、エミリアも国で保護してもらえるはず。


「そういえば、君の背中に石を当てた彼女、ルイーズだったか。話を聞いた限りでは、相当な魔力の持ち主だろう」


「私もそう思います。"土"魔法の使い手で、しかもあの幼さで、あれだけ広範囲に地震を発生させたばかりか、あれだけの量の石を飛ばすことができる者はなかなかおりません。成長すればもっと魔法は強くなるでしょう」


 そう冷静に分析したのは、ロゼッタだった。自身も魔法が使えるからこその分析だろう。


 ルイーズは完全にイレギュラーだ。原作にも出てこない。つまり、ある意味私と同じ立場ということになる。


「ルイーズの魔法は不安定です。誰かが適切に使い方を教えてあげないと、今回のように感情に任せて暴走を繰り返してしまいかねない」


「きちんと制御できないと、周りに被害が及んでしまう。魔力が強ければ強いほど、その影響は甚大になる、か」


「つまり、このまま放置していれば、めちゃくちゃ危険ってことですね」


 私がロゼッタとクレマン様の話を大雑把にまとめると、二人は否定せずに頷いた。ミネさんが心配そうに質問する。


「確か、魔力を持つ者は、国に強制的に徴集されるんですよね?」


「厳密には、貴族・平民とも十六歳の時に全国一斉の魔力検査を受けます。そこで魔力があると認められれば、王立の魔法師・騎士剣士養成学校へ強制入学させられ、魔法を使うための専門的知識と技術を身につけていくのです」


「そして、卒業後は、貴族は任意で、平民は強制的に各魔法師団へ入団させられる。これが一般的な流れだな」


「アンジェリーク様も、今年の十二月に検査を受けるはずですよ」


「十二月に?」


「ええ。養成学校への入学は四月ですから、三月までに十六歳になる見込みの者も、この時一緒に受けるのです」


 ロゼッタとクレマン様の説明に、私は慌てて待ったをかける。聞き捨てならない言葉を聞いたからだ。


「ちょっと待って。魔力検査が十二月に行われるのはなんでなの? 入学は四月からなのに」


「ご存知ないのですか? 平民は文字の読み書きができない者も多い。ですから、先に学問所という所へ入り、最低限の読み書きや一般知識を三ヶ月かけて学ぶんです」


「指揮官の命令は口頭だけでなく、書簡の場合も多い。そこで文字の読み書きができないと、書簡で送られてきた指揮官の命令が理解できないだろう? それは組織として致命的だ。だから、最低限文字の読み書きはできないといけないんだよ」


「確かに、それはそうかもしれませんが……」


「それに、貴族と平民での差はそれだけではありません。同じ敷地内とはいえ、貴族と平民で校舎は別々だったりしますよ」


「えぇ! それ本当っ?」


「ああ、そうだよ。あと、騎士剣士の方は、入学年齢と任意なのは貴族と平民で一緒だが、試験のあり方が違う。貴族は試験はなく志願すれば入学でき、卒業後は騎士として国や各領地の軍へ入隊することもできる。しかし平民は、志願しても試験を受けて合格しなければ入れない」


「試験内容は、筆記と実技。ですが、大半の者はこの筆記で落ちます。読み書きをできる者はそう多くないからです。そこである程度ふるいにかけます」


「なんでそんなことするのよ」


「剣士になって軍に入隊すれば、命をかける分普通の平民の仕事より身入りが良いんです。それに、各領地や国直属の軍へ入れれば、安定的に収入が確保される。だから、剣士になりたがる者は非常に多いのです」


 つまり、公務員や自衛隊みたいなもの、ということか。


「剣士として別格な武勲をあげれば、国王陛下から騎士の称号をもらえる可能性もある。それも理由の一つだろう」


「つまり、魔力を持たない平民として一発逆転の可能性が一番あるのが剣士、ということですね?」


「その通りだ」


 クレマン様とロゼッタが頷く。それを見て、私は思わず両肘をテーブルに当てつつ頭を抱えた。


 あっれー? 私が書いてた内容と違うぞー?


 私が書いた小説では、魔力検査も養成学校への入学も、貴族平民共に十五歳だったはず。しかも、魔力検査は三月。それに、校舎も一緒にしてたから、レインハルトとエミリアはうふふな学校生活を送れていた。


 それが何? 検査の時期も違うし、三ヶ月間学問所に通う? しかも校舎が別々?


 そんなの、どうやってイチャつけっていうのよ!


 しかも、三ヶ月も私の目の届かない場所に行かなきゃいけないなんて。他の貴族が目をつけてエミリアに変なことしたらどうしてくれんの!?


 打ちひしがれる私に気付かず、ヨネさんがさらに心配そうな顔をする。


「では、そのルイーズは十六歳までこのままなのですか? お話を聞くに、今のままではあまりにも危険というか、本人にとっても酷な気がするのですが」


「いや、ルイーズのような場合は、特例で十二歳から入学できるはずです。そうでしたよね? クレマン様」


「ああ、確かにそうだ。だが、平民の場合、それには所属する領主の推薦がいる」


「では、クレマン様が推薦すれば、ルイーズは養成学校へ行けるのですね」


「まあ、そういうことになるな」


「なんでロゼッタがそんなこと知ってんのよ?」


「私がそうでしたから」


 ロゼッタがさらりとそう言うと、その場にいた全員が、えっ、という顔をした。


「ロゼッタ、飛び級で卒業してたのっ?」


「そうです。その時はまだ一応貴族だったのですが、卒業後は魔法師団に少しの間ですが在籍していました。なので、剣術も得意です」


「そういえば、聞いたことがあるぞ。十二歳で入学する子は数えるほどしかいないが、その中でも、魔法と剣術両方を首席で卒業した天才少女がいると。それが君なのか」


「天才かどうかはわかりませんが、確かに魔法と剣術は常にトップでした」


「ロゼッタが……天才……」


「そんなに衝撃を受けていることが衝撃です」


 ロゼッタが、心外だ、という顔で抗議してくる。


 正直、自分で人類最強とか言っちゃうってどうよ、と思っていたけれど。あながちウソではなかったようだ。私は本当にすごい人を護衛にしたんだな。


「ロゼッタさんは、そんなに強い人だったんだね」


「これなら、お屋敷に泥棒が入ってきても、すぐに退治してくれそうですねぇ、ミネ」


「ええ、本当に。毎日安心して過ごせますわ。ねぇ、ヨネ」


「私が、毎日どれだけ命がけでロゼッタをからかっているか、理解していただけましたか?」


「こんな主人に仕えていても、己を殺して耐え抜いている私の心の広さが伝わった気がします」


 私とロゼッタのいつものやりとりを、四人はいつものように微笑ましく見ている。その後で、ココットさんが口を開いた。


「それだけ強いロゼッタさんが、アンジェリーク様の侍女をしてるのは護衛のためかい? 確か、アンジェリーク様は継母に命を狙われているんだろう?」


 護衛、という言葉が出てきて、思わずココットさんを見た。なんでココットさんがそのことを知っているんだろう。


 そう思いミネさんとヨネさんを見ると、申し訳なさそうな顔をされた。


「ココットもこの屋敷の一人ですから。知っていた方がよろしいかと思って」


「ご気分を害されましたか?」


「いえ、少し驚いただけです。べつに構いませんよ」


 本当に知られたくないことなら、ミネさんヨネさんにも話さない。だから、ココットさんが知っていることは問題じゃない。


「ココットさんの言う通りです。私は継母に命を狙われています。でも、そう簡単に死ぬわけにはいかない。だから、ロゼッタを雇いました」


「やっぱり」


「ロゼッタは最初、私の侍女としてローレンス家で雇われていて、私もそんなに強いことは知りませんでした。でも、駆け落ち未遂の時に私を助けにきてくれて。そこで私が個人的に護衛として雇いたいと申し出たんです。払えるお金なんて正直無いんですけど、それでも彼女は私を選んでくれた。感謝しかないんですけど、何も返せていない分、ちょっと申し訳ない気持ちもあります」


「その割には、あまりその気持ちが伝わってこないのですが?」


「それは受け取る側の人間の問題でしょ。私のせいじゃないわ」


「もっと素直になっていただけたら、わかりやすいと思うのですが」


「いつも素直じゃない。そんなこと言ってると、雇うことになった具体的な経緯までここで話すわよ」


「はあ?」


 ロゼッタが殺意を込めた目で私を睨む。怖い、めっちゃ怖い!


「……言うわけないじゃない。いちいちそんな殺意込めないでよ」


 我ながら、暗殺者に殺意を込められながらも嫌味を言い合うこの度胸はどうしたもんかと思う。もちろん、相手が私のことを殺せないとわかっているから、というのもあるけれど。


 とりあえず、私は視線をココットさんに戻した。


「そういうわけで、継母からの刺客が来ても、ロゼッタがきちんと対処いたしますので、ご安心ください」


「みなさまに危害が加わるようなことにはいたしません」


 そう言って、二人そろって頭を下げた。


「べつに頭下げなくてもいいよ。ここが気に入ったのなら、好きなだけここにいていいからさ」


 ココットさんの言葉に、その場にいた全員が頷く。思わず泣きそうになった。


 こんな面倒くさい令嬢、他の所ならば嫌がられるに決まってるのに。


 それなのに、こんな風に受け入れてくれて。今自分がどれだけ恵まれているか、常に感謝しなければバチが当たる。


「ありがとうございます、みなさん」


「さあさ、ケーキ食べとくれ。時間が経ったら美味しくなくなっちまうよ」


「はいっ」


 正直、本当に継母が送った刺客が現れたらどうしようかと思うけど。


 エミリアがカルツィオーネにいて、養成学校も貴族と平民で校舎が別々で、物語の完結まで課題が山積みだけど。


 それは、一個ずつ解決していくしかない。拠点は固まったんだ。焦らずゆっくり解決していこう。


「でも、ロゼッタさんは十二歳で養成学校へ入ったんでしょう? あれって全寮制なのかしら」


「ええ、そうです」


「じゃあ、親元を離れて寂しくはなかったですか?」


「私の家は少々特殊だったので、特には。ですが、普通の少女には辛いかもしれません」


「そうよねぇ。そのルイーズって子は大丈夫かしら。ただでさえ見知らぬ土地で、しかも周りは自分より年上ばかり。孤児で頼れる親もいないし。心配だわ」


「ミネの言う通りね。私だったら耐えられないわ」


「エミリアがいるから大丈夫でしょう。同じ孤児院出身で気心も知れていますし、問題ないかと」


「でも、同世代の友達は作れないわよね。ミネさんとヨネさんの言う通り、ちょっと可哀想かも。それに、飛び級で入るんでしょう? 年上の人達からいじめられる可能性だってあるし」


 お姉さん代わりのエミリアと、同世代の友達は違う。それに、周りが自分より年上ばかりだと、それこそいじめの対象になってしまうかもしれない。そんなにメンタル強そうな感じもしなかったし、大丈夫かな。


「もういっそ、ここで読み書き教えてあげたらいいのに」


「それは無理だな」


 冷めた声が否定する。声のした方へ視線を向けると、そこにいたのはニール様だった。


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