覚悟を問う
「俺も……弟達も助けてくれ! あいつらは俺の唯一の家族なんだ。だから、あいつらを助けてくれるなら、俺はなんだってする」
「なんでも? 本当に?」
「ああ、ほんとだ」
リーゼント男と私の瞳がぶつかり合う。グエンの時とは対照的に、私は冷めた態度で彼に近付いた。彼らには、未遂とはいえ襲われそうになった前科がある。
「じゃあ、あなたの弟達を助けてあげる代わりに、一生私の奴隷になりなさい」
「ど、奴隷……!?」
「私は、常闇のドラゴンを壊滅するために自分の命を懸けるの。それに対する対価としては安いものだと思うけど?」
「それは……っ」
「女性や子どもは襲わない。それがあなたのポリシーだったわね。でも、奴隷にはそんなもの必要ない。私が女性や子どもも殺せと命令したら、あなたそれに従える?」
これは覚悟の問題だ。私は、自身の命を餌にしてでも、常闇のドラゴンと対峙する覚悟がある。それに見合うほどの覚悟を持てるのか。聞きたいのはそこだ。答え次第では無視しても構わないと本気で思っている。
男はすぐには答えない。まるで究極の選択を迫られているようだ。その顔が苦悩に歪んでいる。
なんだ、その程度か。なら、この話はなかったことにしよう。そう思っていたその時。
「……いいぜ」
「え?」
「一生あんたの奴隷になってやる。だから弟達を助けてくれ」
「本当にいいの? あなたのポリシー曲げられる?」
「弟達のためなら曲げてやる。俺ゃ元々善人じゃねーんだ。唯一の家族守るためなら、極悪令嬢にだって魂売ってやるよ」
覚悟を決めた人間がする目と表情。これは本気で覚悟を決めた証だ。守りたい何かのためなら、悪魔に魂をうることも辞さない、か。だが、そうでなければ助け甲斐がない。私の唇は器用に上がっていた。
「いいわ。あなたの覚悟受け取った。弟達もついでに助けてあげる」
「ほんとか!?」
「ええ。その代わり、約束破ったら三人まとめて死刑にするから。肝に銘じておくことね」
「安心しろ、俺は約束を守る男だ」
「どうだか」
話が終わったと感じたのか、お父様達が部屋の中へと入っていく。そして、お父様はグエンが落とした大剣を拾い、念のためなのか彼から遠ざけた。
一息つく私に、ラインハルト殿下が近付いてくる。
「お前はまた面倒なことを引き受けたな」
「どうせ壊滅させるんです。今さら約束の一つや二つ変わりませんよ」
「まあ、お前らしいっちゃらしいが」
そう言って殿下は苦笑する。その後ろでニール様が険しい顔をしていた。
「それで、これからどうする?」
「どうするもこうするも、これは願ってもないチャンスです。これを生かさない手はありません」
「生かすって……お前は何をする気だ」
そのニール様の問いにはすぐに答えず、私は一度グエンとリーゼント男を振り返った。
「あなた達、私を連れて来いって言われたみたいだけど。連れて来る場所の指定はあったんでしょ?」
「ああ」
「とりあえず、捕まえたらここに連れて来い、って言われた場所はある」
「ということは、そこに彼らが潜伏している可能性が高いということです」
「まさか、わざと捕まって奴らの居場所を特定するつもりか?」
「そのまさかです。これ以上に良い方法が?」
みんなに問いかけるように見渡す。しかし、誰もすぐには答えられないようだった。当たり前か、打つ手はもうこれくらいしかないのだから。
「確かに、その作戦しかないかもな。だが、前にも言ったようにお前の命の保証はない。それでもやるか?」
「愚問ですね。何度も同じこと言わせないでください」
「そうか……」
「大丈夫ですよ、安心してください。ちゃんと保険はかけておきますから」
「保険?」
眉間にシワを寄せる面々を無視して、私の視線はロゼッタへと移動した。
「ねえ、ロゼッタ。あなた私のために死ねる?」
静かに、それでいて淀みなくそう問いかける。彼女は驚いたという風に目を見開いた。ただ、それはほんの一瞬の出来事で。ロゼッタの顔がみるみるいつものポーカーフェイスに戻っていく。そして、強く、はっきりとした口調でこう答えた。
「はい。もちろんです」




