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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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ミネさんとヨネさんに師事するなら

「それはそうと。さっきからずっと気になってたんですけど」


「何でしょう?」


「この子誰ですか?」


 そう言って、私はミネさんにピッタリくっついている女の子を指さした。実は二人と話している間中ずっと彼女はいたのだ。


 肩までの髪はボサボサ。前髪が長くて顔全体はよく見えない。彼女は私に指摘されると、肩をビクつかせて、まるで穴に隠れるリスのように素早くその姿を隠した。そんな少女の様子を見て、ミネさんとヨネさんの二人が苦笑する。


「この子はヘルツィーオのスラム街からきた、市民権の無かった孤児です」


「最初はここの孤児院の子達の所へいたのですが、全然馴染めず一人ポツンとしていることが多くって」


「気になってお菓子をあげたら懐かれてしまったんです」


「それからはずっとこんな感じで、私達の後をベッタリくっついて回るようになったんですよ」


「へえ、そうだったんですか」


 なるほど、こんな所にまで余波が来るほど、掃討作戦の効果は絶大らしい。私は少女に目線を合わせて声をかける。


「こんにちは。私の名前はアンジェリーク。あなたは?」


 すると、彼女は何も答えないまま、今度は私を避けるようにヨネさんの方へ逃げてしまった。


「……私、嫌われてます?」


「そういうわけではないと思いますよ。私達も、まだ彼女の声を聞いたことがないので。実は名前も聞けてないのです」


「そうなんですね」


「彼女と一緒にカルツィオーネに来た者の話では、彼女、義父に借金のカタとして娼館に売られそうになったらしいんです」


「娼館って……彼女まだ子どもですよ?」


「子どものうちに下働きさせて流れを把握させ、ある程度の年齢になれば、借金を返済するまで娼婦として働かせる。よくある手口です」


「そんな! 自分で作った借金じゃないのに」


「ロクでもない親は、そんなことをするんです。本当に信じられません。我が子を娼館に売るなんて」


「彼女は連れて行かれる前になんとか逃げ出したようですが、行く当てもなくスラム街へ落ち着いたそうです」


「それが原因かは知りませんが、人をひどく恐れているようで。もしかしたら、また売られるのではないかと怯えているのかもしれません」


「そう、ですか」


 話している間も、彼女はヨネさんの服にしがみついて離れようとしない。きっとその経験は、彼女にとってとても怖かったに違いない。そう思ったら胸が苦しくなった。


「ずっとベッタリだと働きづらそうですね」


「そういうわけでもないんですよ。彼女、よく私達のお手伝いをしてくれるんです」


「シーツを持ってくれたり、一緒にテーブルや床なんかを拭こうとしてくれたり。とっても働き者なんです」


「そうなんですか? ミネさんとヨネさんに師事するなら、きっと彼女は世界一のメイドになりますね」


 すると、二人はちょっと困ったという風な顔をした。


「今はまだ教えたりはしていないんです。彼女の経緯もありますし、まだ幼いですから」


「確かにメイドの技術を身につけて自身で稼ぐことができれば、娼館に売られる心配もなくなるでしょう。ただ、これは彼女の気持ちも聞いてみないと。無理矢理教えるのは、なんだか押し付けているみたいで可哀想というか」


「年齢については問題ないんじゃないですか。ジゼルさんだって、孤児院の子達には幼い頃から仕込んでたって言ってたくらいですから」


「それに、程度の問題にもよりますが、今までヴィンセント家のメイドとして数多くの方を育ててきたお二人です。お二人ならその子の年齢に合った教え方をなさることも可能なのではありませんか?」


 ロゼッタにまでそう言われて、二人は顔を見合わせた。


「まあ、そう言われたらそうですね。ジゼルさんもエミリアやルイーズに幼い頃から仕込んでいたとおっしゃっていましたし」


「確かに私達も今まで色んな年齢の方に教えてきましたから、この子に合わせた教え方を考えるのは苦ではありません」


「ということは、あとはこの子の気持ち次第ってことか」


 全員の視線が彼女に注がれる。すると、彼女はさらにヨネさんにしがみついた。確かに、自分より目線の高い人達から見下ろされると怖いよね。


「そうだ、ちょっとロゼッタから彼女に話しかけてみてよ」


「はあ? なんで私が」


「今のあんた五歳児だし、彼女と目線も近いし」


「だからといって、彼女が心を開くとは限りません。実際、彼女はミネさんとヨネさんは安全だと判断しているのです。お二人にお任せする方が得策でしょう」


「その二人が困ってるから言ってるんでしょ。いい加減その子ども嫌い直しなさいよ」


「嫌いなのではありません。苦手なだけです。それに、子どもを相手にするのならあなた様の方が得意ではありませんか、天然ドリル様」


「天然ドリルって言うな!」


「あらまあ」


「ロゼッタさんたら」


 ロゼッタの天然ドリル発言に、ミネさんとヨネさんが遠慮なく大口を開けて笑う。まさかロゼッタの口からそんな言葉が出てくるとは思ってもみなかったのだろう。


「天然ドリルだなんて、どうしてそんな……っ」


「あー……シャルクの城壁外にいた孤児達に付けられたあだ名です。それで子ども達と仲良くなったから、今ロゼッタはわざと口にしたんだと思いますよ」


 そう二人に説明した後でロゼッタをキッと睨む。彼女は何食わぬ顔でツンとすましていた。


 このまま無視する気だな。許すまじ、という気持ちを込めてムーっと睨み続ける。すると、下の方からクスっという小さな小さな笑い声が聞こえた気がした。


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