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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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高所恐怖症

 今回の襲撃事件で、三台あった馬車のうち、かろうじて動きそうなのは一台だけだった。他一台は破壊され、もう一台は馬が死んだり逃げ出したりしてダメ。三台目は多少壊れた箇所は見受けられたものの、その場で修理すればなんとか動く程度の破損で済んだ。なので、今はみんなで御者のメンテナンスが終わるのを待っている。


「まさか、この一台にみんな乗せるってことないよね?」


 リザさんが馬車を見ながらそう顔を引き攣らせる。私は笑って否定した。


「さすがにそれはないです。とりあえず、先に四人くらいがお屋敷に帰って、その人にニール様に事情を説明してもらって、ここまで追加で馬車を出してもらえばみんな馬車で帰れますよ」


「そっか、良かったぁ。さすがに野郎と一緒にこれ一台に詰め込まれるのは抵抗あるからね」


「野郎って……」


「ほら、どさくさに紛れて乳揉まれたりしたら嫌だろ?」


「そんなことしないよ!」


 そう否定したのは、顔を真っ赤にしたノアだった。純粋な彼らしい反応だ。


「リザ、下品な言葉遣いはやめなさい。不愉快です」


「はあ? なんであんたに気を使わないといけないわけ? むしろ、不愉快になるならもっと言ってやるよ」


「私だけでなく、みなさんも不愉快になると言ってるんです。まあ、育ちが悪いので言っても直らないのでしょうが」


「ああ、そうだよ。ご貴族様達と違って私はスラム街出身なんでね。綺麗な言葉は虫唾が走るのさ。特にあんたみたいな口調はね」


「そうですか。では、嫌味を込めてもっと丁寧に話すことにします」


「やってみろよ。その前にその喉突き刺してやる」


「やれるものならどうぞ」


 そう言ってお互い睨み合う。よくもまあ、そんなにケンカができるものだ。


 とりあえず、マルセル様達もいることだし、一応仲裁に入るか。なんてことを呑気に考えていると、突然コドモダケが服の中から飛び出してきた。そして、土の要塞をピョンピョン跳ねて登り始める。


「あ、コドモダケが逃げちゃう!」


 そう言って、慌てて登り始めたのはノアだった。登ると言っても、高さはビル二階以上。ゴツゴツとした岩場のような斜面を登るのは骨が折れそうだ。


 高所恐怖症だし、登りたくないなー。そんな心の声がコドモダケには聞こえたのだろう。わざわざこっちを振り返って、小さな手をちょいちょいと折り曲げてみせる。どうやら、来い来いと言ってるらしい。たぶん、ノアだけじゃ何されるか不安だから、私にもついてきてほしいのかもしれない。


「わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば」


 ため息をつきつつ、ノアの後に続く。まるで、遊び盛りの子どもに付き合う母親の気分だ。


「私も行きましょうか」


「いいよ。ロゼッタはルイーズの近くにいてあげて。もし彼女が目を覚ました時、一番近くにいてほしいのはあなただと思うから」


「承知致しました」


 すぐに諦めたのは、ロゼッタ自身もそうしたかったからだと思う。ギャレット様と同じで、なんだかんだ言ってルイーズを可愛がってるし。


 そうして登り始めた私に、ラインハルト殿下が声をかける。


「おいおい、怪我すんなよ」


「これくらいなら大丈夫ですよ。私、鍛えてますから」


「よく言うわ」


「あの、アンジェリーク様は私の魔法が効きませんから。本当に、どうぞお怪我だけは気を付けてください」


「ありがとう、エミリア。大丈夫、それは心得てるから」


 エミリアへと振り返った後、横目にじとっとした目で私を睨んでいるロゼッタとリザさんが見えた。その顔は、ウソつけ、と言いたげだ。よし、無視しよう。


「無理しなくていいからね、アンジェリーク。コドモダケのことは僕に任せて」


「それができないから無理してるんだけどね」


 先を行くノアに向けてため息をつく。斜面はキツいけど、ボルタリングほど絶壁でもない。なので、ほどなくして私は頂上へたどり着いた。


「おぉ、燃えちゃって木が無いから、結構向こうまで見えるね。……って、アンジェリーク大丈夫?」


 ノアの心配そうな声が頭に落ちる。それもそのはずで、頂上に着いた私は立ち上がれずにしゃがみ込んでいた。


「……私、高所恐怖症なのよ。だから、立ち上がるのマジ無理」


「え、そうなの!? だったら無理せず僕に任せてくれたらよかったのに」


「コドモダケが来いってうるさいから来たの。ノアだけじゃ不安だからって。あんた、日頃の行いを反省しなさい」


「えー? コドモダケひどいよ。僕はただ、君と仲良くなりたいだけなのに」


「キノッ」


 コドモダケはぷいっと顔を逸らす。彼の邪な感情を、コドモダケは敏感に感じ取っているらしい。正しい判断だ。


 ふいにひゅっと風が吹いて、私はちょっとだけバランスを崩した。落ちる程度ではなかったにせよ、私は大慌てでノアにしがみつく。


「ア、アンジェリーク!?」


「ダメ、マジで怖いっ。ここにいる間、ノアにしがみついてていい?」


「えっ!? そ、それはべつに構わないけど……」


「ありがとう、ノア」


 遠慮なく、ギュッとしがみつく。すると、ノアの頬がほんのり赤く染まった。


「なに照れてんのよ」


「いや、だって……っ」


「まあ、それも無理ないか。こんな風に女性と触れ合うなんて、貴族の子息じゃあんまり無いもんね」


「そりゃまあそうだけど。それだけじゃなくて……」


 何が言いたいのかと、上目遣いで首を傾げてみる。すると、今度はノアの顔が耳まで真っ赤に染まった。なるほど、コドモダケばかり追いかけていたから、よほど女性に免疫がないらしい。ここが高い場所じゃなければ、からかって遊ぶのに。


 そんなことを考えていると、ふいにコドモダケがノアの手のひらの上に飛び乗った。


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