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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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利用されたルイーズのトラウマ

「さっすがリザさん。お見事」


 なんて言って拍手を送る。しかし、リザさんは喜んではくれなかった。その代わりに怒ったような顔で私に迫ってくる。


「姫! 無茶しすぎだよ。いくら魔法が効かないからって、そのまま相手に突進していくとか何? 私が後ろからついて来てなかったらどうするつもりだったの!?」


 まるで子どもを叱るような顔つきに、私はまあまあと落ち着くようなジェスチャーをする。すると、ルイーズの元へ向かったはずのロゼッタがこちらに戻ってきた。


「どうされたのですか?」


「聞いてよ! 姫ったら無茶しすぎなんだよ。私が姫の背後に控えてなかったら、今頃あいつの剣の餌食だったんだから」


「信じてたんですよ、リザさんのこと。リザさんなら私と相手の位置関係を考えて背後に控えてくれるはず。そんで、相手が油断した僅かな隙を必ず突いてくれるって。だから、私にこんな無茶をさせたのはリザさんのせいなんですよ」


 そう言って、えへへっと笑う。すると、リザさんは驚いたように目を見開いた。その後で大きな大きなため息をつく。


「人を誑かす悪女、ね。ほんとその通りだわ」


「一度その毒牙にかかれば抜け出すことはできません。ですから、今のうちに関わりを断つことをお勧めします」


「もう無理だね。その毒牙にかかっちゃったから。そんな風に信用されたら、悪い気しないじゃない」


 リザさんが尻もちをついたままの私に手を差し伸べる。それを握って立ち上がるとリザさんは苦笑した。


「このリザ様としたことが、こんな十五の小娘に弄ばれるとは。とんだ悪女に引っかかっちゃったもんだよ」


「やだなーリザさん。そんなに褒めても何も出てきませんよ」


「アンジェリーク様、あれは悪口です」


「知っとるわっ」


 ブーっと唇を尖らせて抗議する。それでも、すぐさま笑ってしまった。そして、場が落ち着いたところで周囲を見渡す。串刺しを免れた盗賊達は、仲間の屍もそのままに、恐れをなして武器を捨てて逃げ出していた。なので、周囲にはもうほとんど敵はいない。


「また派手にやっちゃったね」


「マジかよ……」


 馬車があった場所は、要塞かのように土がいくつも折り重なっている。そしてトゲの波は森の浅瀬付近まで浸食していた。


「これ、マジであの子が起こしたの?」


「そうです。これでもまだ抑えてる方だと思いますよ。ねえ、ロゼッタ」


「ええ。この程度の被害で済んだのは、日頃の訓練のおかげかもしれません」


「この程度って……高位の魔法師でもなかなかこのレベルは拝めないよ」


「それが彼女の力なんです」


 私がそう言うと、リザさんは唾を飲み込んだ後黙り込んでしまった。


「すみません、私がもう少し彼女に気を配っておけば、このようなことにはならなかったと思います」


「いやいや、ロゼッタのせいじゃないよ。私がもっと早く相手の意図に気付くべきだった。まさかルイーズを狙うなんて」


「私も油断していました」


「ってかさ、さっきからルイーズがどうのこうのって言ってるけど。いったい何なの? いい加減教えてよ」


「じゃあ、移動しながら簡単に説明しますね」


 そう言うと、私達三人はトゲの波を中を歩き始めた。まるで磯の岩場を歩いているみたいだ。


「山火事の際の地震の原因がルイーズだってことは知ってるんですよね? ということは、その山火事に取り残された孤児のうちの一人が彼女だってこともわかってるんですよね?」


「まあね。よっぽど怖かっただろうなーってちよっと同情したし」


「あの山火事で取り残された孤児二人は、私の私兵であるジルとルイーズです。そして、その山火事でジルはルイーズを庇って瀕死の重傷を負っている。それが彼女の最初の大規模な魔法の暴走のキッカケです」


「なるほど。それで?」


「彼女は、今でもあの山火事がトラウマになっている。そして恐らく、今回敵はそれを狙った」


「狙ったって……。まさか、わざと魔法の暴走を誘ったってこと?」


「その通りです」


「でも、なんでそんな面倒くさいことを? それじゃあ姉妹を確実に殺せないじゃん」


「たぶん、狙いは姉妹だけじゃなかったんですよ。私に近しいルイーズの魔法を暴走させることで、姉妹だけでなく、殿下達にも怪我を負わせて、その責任をすべて私になすりつけようとした」


「まさか! そんなことって……」


「あり得ないことはないと思います。あの山火事でさえ、我々の責任にしようとしていた方達ですから」


「……暗殺者もそう思ってるんだ」


「あくまで可能性の話です。証拠はありません。ただ、襲撃に不利にも関わらずあえてこの場所を選んだこと、そして軍人達の先ほどの動き方を総合すると、あながち突飛な考えとも思えません」


「最っ低! 子どもの気持ち弄ぶなんて。やっぱりロイヤー子爵は何度槍で突いても突き足りないよ」


 リザさんが奥歯を噛み締め、槍を握る手に力を込める。その顔には憎しみが張り付いていた。


「そういえば、ルイーズは?」


「今は気を失っています。ただ、魔力は土に残ったままなので、しばらくはこのままかと」


「そっか。ジルの方はどう?」


「今エミリアが魔法を使って回復を試みています。思っていたほど傷は深くなかったので、すぐに元通りに戻るかと」


「そう。なら良かった」


 ホッと胸を撫で下ろす私に、リザさんが待ったをかける。


「いやいやいや、そっちも大切だけど、殿下達はどうなのさ。もしこれで怪我でも負わせちゃったら一大事なんじゃないの?」


「レインハルト殿下は、エミリアと一緒にルイーズの近くにいらっしゃったのでご無事でした。ラインハルト殿下も、ギャレット様だけでなくエマが魔法で守っていたらしく、無傷でいらっしゃいます」


「エマが守ったんだ。あんだけ嫌味言われた相手なのにね」


「っていうか、この攻撃を間近で食らって無傷とか、殿下達も運が良いね」


「確かにそう言われたらそうですね。他の人より悪運が強いのかなぁ?」


「誰の悪運が強いって?」


 突然横から男性の声が聞こえてきて、咄嗟に振り向く。すると、そこには不機嫌そうなラインハルト殿下が泥まみれの状態で立っていた。どうやら、いつの間にか馬車のあった場所まで戻っていたらしい。


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