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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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暴走する魔法

「マティアス、手を離せ。私は彼女に用がある。大事な話だ」


「嫌です。あんな恐ろしい顔で迫ってくる相手に、エミリアは渡せませんね」


「なにっ?」


 ニール様とマティアスが睨み合う。エミリアがマティアスにやめるよう説得するが、彼は無視したままニール様の手を離そうとしない。


 マティアス、カッコイイな。相手は一応貴族なのに、好きな子のために身体張るなんて。そんな男前の君を、私は、私はぁ……っ。


「アンジェリーク様? 大丈夫ですか」


「大丈夫じゃないかも。自責の念に駆られて、今泣きそう」


「は?」


 ロゼッタが怪訝そうな声を出す。しかし、ジゼルさんの慌てた声でハッと我に返った。


「マティアス! やめなさい。ニール様に失礼ですよ」


「そうよ、マティアス。ニール様は何も悪くないわ。ただ、私に話があるだけなのよ」


「そんなわけないだろ。今のエミリアの治療が回復魔法だと言って目の色を変えた。何かするに決まってる!」


「心外だな。私はただ確認したいだけだ。お前は、回復魔法のことをどれだけ知っている? その希少さも、その価値もだ」


「知ってますよ。でも、エミリアのあれは回復魔法じゃない。変な言いがかりはよしてください」


「お前は何を言っている。あれはどう見ても回復魔法だ! 誰かに利用される前に何とかしなければ手遅れになるぞ」


「だから! エミリアのあれは魔法じゃないって言ってるだろ!」


「いいえ、あれは回復魔法です」


 怒鳴り合う二人に水を被せるように、私は静かに割って入った。


「なんだ、お前」


「アンジェリーク、邪魔をするな」


 睨んでくるニール様の頭に、とりあえず手刀を食らわす。


「いたっ! 貴様、何をするっ」


「何をする、はこっちのセリフですよ。ニール様のあまりの剣幕に、子ども達が怯えています。それに、いきなり女性の手を掴んで言い寄るのは紳士的ではありません。ただの痴漢です」


「なっ」


「あと、マティアスも。エミリアを守りたい気持ちは理解できるけど、相手は一応貴族。あまり派手に動かない方がいい。エミリアが心配してるわ」


「エミリアが?」


 そう言われ、マティアスがエミリアを見る。彼女はうんうんと頷いていた。


「エミリアに聞くわ。今の子みたいに傷を癒やす力はいつから使えたの?」


「それは……幼い頃から。しかし、私はこれが魔法だなんて知りませんでした。ただちょっと不思議な力が使えるだけだと……」


「ウソをつくな」


「いいえ、ニール様。エミリアはウソをついていません。目を見ればわかります。彼女は本当にそれが魔法だと知らなかったんです」


 だって、私がそういう風に設定したからね。なんて言えないけれど。


 さて、と今度はエミリアへと視線を向けて語りかける。


「でも、それは回復魔法というれっきとした魔法なの。しかも、とても希少な魔法。今のところ、世界でも使える者はたった二人しかいない」


「たった二人?」


「そう。で、どんな傷もあっという間に治してしまうその力。貴族じゃなくても、誰でも欲しがると思わない? 特に戦争中なんかは、その奪い合いはひどかったはずよ。なんせ、回復魔法の使い手さえいれば、いくらでも兵士を回復させて使うことができたのだから」


「確かに、そうですね」


「今は戦争は終わってるけど、魔物の討伐や領地同士の小競り合いなんかはある。悪い奴はあなたを利用して金儲けを企むかもしれない。あなたの意思を無視してね」


「そんな……っ」


「マティアスはそれがわかってたから、回復魔法ではないと言い張った。そうでしょう?」


「ああ、そうだ。エミリアは金儲けの道具じゃない。貴族なんかに渡してたまるか」


「たぶん、ニール様も同じ考えだと思う。エミリアを利用したいだけなら、"誰かに利用される前になんとかしなければ"なんて言葉出てこないと思うし」


「当たり前だ。今はまだいいかも知れないが、いずれ噂は広まり大多数の人々に知れ渡るだろう。その時に動き出したのでは遅い。今のうちに手を打っておかないと、彼女を守りきれなくなるぞ」


「ニール様……」


「うわ、なんだかニール様がいつもよりカッコよく見える」


「お前なぁ……っ。いや、今はやめておこう。エミリア、とりあえず一度屋敷へ来てくれ。クレマン様にもお話しなければ」


 そう言って、ニール様が今度は優しくエミリアの手を握る。


 その時だった。


「ダメ……」


 か細い声が聞こえて振り返る。そこには、たった今エミリアに怪我を治してもらった女の子が、泣くのを我慢しながら服の端を握りしめて立っていた。


 それを見ていたジルが叫ぶ。


「ダメだ、ルイーズ!」


「エミリアお姉ちゃん、連れてっちゃダメぇー!」


 そう彼女が叫んだ直後、地面が大きく揺れた。かと思ったら、そこら辺に転がっている大小様々な石が、宙に浮いて意思を持っているかのように縦横無尽に暴れ出す。


「なんだこれは!」


「ルイーズの魔法が暴走しているんです」


「なにっ?」


 ニール様の問いにエミリアが答える。しかし、あまりに石が飛んでくるものだから、中々彼女に近付けない。


「ウソでしょ? こんな設定知らないんだけど!」


「アンジェリーク様、大丈夫ですか?」


 叫ぶ私の前にロゼッタが来て、迫ってくる石の攻撃をことごとく防いでいく。ルイーズとジル以外の子ども達は、ジゼルさんが孤児院の中へ避難させてくれていた。


 ジルが再びルイーズに声をかける。


「ルイーズ、落ち着くんだ! エミリア姉ちゃんはどこにも行かない!」


「嫌、ダメ、ダメなのーっ」


 ジルの言葉はルイーズに届かず、彼女は頭を抱えてうずくまる。すると、人の頭ほどの石が彼女めがけて飛んできていた。


 瞬間、前世の交差点に飛び出した男の子の残像が、私の横をすり抜けていく。


「ダメ! 危ない!」


 気付けば、私はロゼッタの制止を振り切り、ルイーズを庇うように前へ出ていた。その直後、石が勢いよく私の背中に直撃する。


「がっ」


 それ以上言葉が出てこず、私は力なくルイーズに覆い被さるようにして倒れた。


 あまりの衝撃に、脳がブレる。呼吸ができない。痛いのかさえわからない。


「ごめ……な……」


 ルイーズが小さく呟いて気を失う。それにならうように、私も静かに目を閉じた。


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