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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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隠れヘルツィーオ軍人

「危ない!」


 ロゼッタがそう叫んで、私に飛びかかり地面へと押し倒す。そのタイミングで馬車が雷の様なものに当たって爆発してしまった。手綱が切れて自由になった馬が走って逃げ、御者が呻きながら地面に倒れ込む。馬車はほぼ粉々だった。


「何今の!? 雷の魔法?」


「おそらく。距離があるにも関わらず、殿下達が降りたのを確認しつつ正確に馬車を射抜いています。かなりの手練れか訓練された者の仕業でしょう」


「馬車を破壊したってことは、逃す気はないってことね」


「そのようですね」


「面白くなってきたじゃない」


 苦笑しながらそう強がる。すると、ノアが目の前の敵を倒しながらこちらに声をかけてきた。


「アンジェリーク! 大丈夫?」


「ノア! エマとイネスを馬車から降ろして。こいつら、私達をカルツィオーネに帰す気ないみたい」


「え? それってどういう……」


 ノアが返事を返す前に、私の意図に気付いたマルセル様がエマとイネスを馬車から降ろす。そして二人を護衛しつつ馬車から距離を取った。


「お前達は生き証人だ。死なれては困る」


「あ、ありがとうございます」


「ちょっとお父様、おいしいとこ一人で持ってかないでよ」


「女性の前で良い格好したいのはわかるが、それで剣が疎かになっていては元も子もないぞ」


「わかってるよ。でも、この盗賊達弱すぎて気分が乗らないっていうか、なんていうか……」


「気持ちはわからなくもないが、油断大敵だ。戦場では何が起こるかわからない」


「戦場って……っ」


 ノアがすべての言葉を言う前に、彼に向けて鋭い剣撃が走った。それはフードを被った男で、顔は見えないがノアに向けて何発も立て続けに攻撃を仕掛ける。


 その太刀を見ればわかる。あいつは他の盗賊達とは違う。その証拠に、あのノアが防戦一方だった。


「なんだ、こいつ……強いっ」


「ノア!」


 助太刀に行こうとしたマルセル様の前に、違うフードを被った男が立ち塞がるように剣を振るう。こいつもノアを襲っている奴と一緒で強いようで、あの勇猛な騎士と謳われるマルセル様の足を見事止めていた。


「この動き……っ。貴様ら、ただの盗賊じゃないな」


「お父様、どういうこと?」


「まさか、貴様らヘルツィーオの軍人か?」


 マルセル様の問いに、フードを被った男達は何も答えない。そのまま二人へと突進していく。


「まさか、本当にヘルツィーオの軍人なの?」


「あの動きからすると、可能性は高いと思われます。しかも、マルセル様を足止めできるほどとなると、相当訓練された精鋭かもしれません」


「じゃあ、ノアが危険じゃない!」


 ロゼッタの推察を聞いて、私は慌ててジルとルイーズに声をかける。


「ジル、ルイーズ! ノアとマルセル様の助太刀に行って……」


「その必要はないよ!」


 そう断ったのは、必死に相手と剣を交えていたノアだった。


「僕のことは大丈夫。だから、君達二人はエマとイネスを守って」


「でもっ」


「わっかんないかなぁ。女の子の前ではカッコイイとこ見せたいって言ってんの……っ」


「ノア……」


「それに、こいつらが本当にヘルツィーオの軍人なら許せないんだよね。同じ剣を志す者として。だから負けたくないんだ」


 剣を振り払い、相手と距離を取る。すると、マルセル様と背中合わせの格好となった。


「よく言った、ノア。それでこそダルクール家の次期当主だ」


「自分でもこんな負けず嫌いな一面があったなんてビックリだよ。そこら辺はお父様に似たのかな」


「いや、ミレイアかもしれんぞ」


「ははっ、そうかも」


 そう言って父子は戦場で笑い合う。私にはもうそんな二人を眺めることしかできなかった。


「あの場はお二人に任せましょう」


「そうだね。あの二人なら勝てるって信じてあげることが、今一番二人のためになる気がする」


「その通りです。我々は我々にできることをしましょう」


「我々にできること?」


「まずは、あの厄介な雷使いを黙らせます」


 ロゼッタが炭と化した森の奥を指さす。彼女なりに雷が来た軌道を辿って、ある程度位置を特定したのかもしれない。


「どうするの?」


「どうしましょうか」


「どうしましょうか、って……」


 なんだ、それ。そうツッコミを入れようとしたら、雷の矢が数本こちらに飛んできた。突然のことに逃げることもできず、咄嗟にその場で防御姿勢を取る。


「姫!」


 リザさんの叫び声も虚しく、私の周辺で爆発音とともに爆煙が巻き起こった。


「あの暗殺者は何やってんの……っ」


 そう悪態をつくリザさんの声が近付いてくる。そしてその槍を振り回して舞い上がった土煙を吹き飛ばした。


「姫、大丈夫!?」


 その煙の先。私とロゼッタは無傷で立っていた。それを見て、リザさんは「え……」と立ちすくむ。そんな彼女を置いて、私は後ろに隠れているロゼッタに向けて唇を尖らせた。


「何ちゃっかり私の背後に隠れてんのよ」


「仕方ありません。あなた様は生ける魔法の盾ですから。使えるものはなんでも使わないと」


「便利道具みたいに言うなっ」


 そんないつも通りな私達を見て、リザさんは眉間にシワを寄せる。


「どういうこと? 今魔法が直撃したよね?」


「あー……それはですね。なんというか……私何故か魔法が効かないんですよ」


「魔法が効かない? そんなことあんの?」


「あるもないも、今見たでしょ」


 わざと両手を広げておどけてみせる。確かに魔法の直撃を受けたのに傷一つ負わずピンピンしている私の姿を見て、リザさんはどうしたもんかと頭を掻く。しかし、そんなに悩んでいる時間はないと言いたげに、ロゼッタが近付いてきた盗賊達を魔法で蹴散らした。


「べつに、あなたはただの傭兵ですから、無理に信じなくても結構です。ただ、私達の邪魔だけはしないでください」


「……いちいちムカつく言い方すんなっつの」


 リザさんは、背後から襲いかかってきた盗賊を槍を振り回して吹き飛ばす。その後でちょっと唇を尖らせた。


「姫の言うこと信じるから、仲間外れにすんなよな」


「リザさん……そんな可愛い一面もあるんですね」


「なっ!」


「ただのガキですけどね」


「てめぇ……っ、やっぱぶっ殺す」


「毎回同じ言い回しで飽きないのですか? ああ、そうか。バカだから語彙力が無いのですね。可哀想に」


「嫌味言うことばかりに頭使ってっから、性格がひん曲がったんだな。そりゃみんなから嫌われるわけだ」


「はあ?」


「なんだよ、クソチビ」


 リザさんとロゼッタが睨み合う。一触即発とはまさにこのこと。この二人、今がどういう状況か理解してんのかな。


 どうやら、盗賊達もそう思ったようだった。


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