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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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魔法具の話

「おい」


「なんですか」


「いつまで腕掴んでるつもりだ」


 そうツッコまれ、そろそろと自分の手を見る。確かに、未だに私の右手は殿下の腕を掴んでいた。


 何故だろう、言っていることはもっともなのに。なんだか癪に触って、「えいっ」と逆に思いっきり腕に抱きついてみた。


「なっ! お、お前何してっ」


「はははっ、殿下顔真っ赤。戦闘中は勇ましくても、結構初心なんですね」


「からかうな!」


 赤い顔のまま、怒った殿下が私を振り払う。もともと長くそうしているつもりはなかったので、私はすぐさま彼の腕から離れた。


「お前、俺に護衛頼んでいいのかよ」


「どういう意味です?」


「だって、お前俺のこと嫌いになったんだろ。今回の一件で」


「はあ?」


 言っている意味がすぐさま理解できずに眉間にシワを寄せる。


「すみません、言ってる意味がよくわからないのですが」


「だから、姉妹のことで頭にきてた俺の言動に失望して嫌いになったんだろ」


「私がいつそんなこと言いました?」


「軽蔑する、って言ったじゃないか」


「あれは、本気で拷問する気だったらの話です。ですが、結局殿下はなさらなかったじゃないですか」


「だが、言った時点で同じようなものだ」


 なんだ、こいつ。なんでこんなに卑屈になってんの。


 お屋敷にいた時はあんな威勢の良いこと言ってたくせに、今はこんな拗ねた子どもみたいな顔して。私に嫌われるのがそんなに嫌なら、嫌われるようなことしなきゃいいのに。


 もし、私が同じ十五歳なら、本当に嫌いになっているかもしれない。ウジウジしてて面倒くさくて子どもすぎると。ただ、精神年齢は二十六歳の私からしてみたら、まだまだ子どもだな、くらいで終わってしまうわけで。周りの人にどう思われるか気になるのは、年頃の子にはよくあること。そこにこだわって拗ねてる辺りは仕方ないなでまだ許せてしまう。


「嫌いになんかなっていません。そりゃ、器の小さい奴だなーとか、感じ悪いなーとか、そういうことは多々思ってますけど」


「器が小さい……感じ悪い……」


「ですが、あなた様の信念には好感を持っています。民を守るのが王の子の使命。あなた様はその信念に従って動いていらっしゃる。ですから、本気で嫌いにはなっていませんよ。今のところは」


「今のところはって……」


「だって、人はいつ過ちを犯すかわかりませんから。人として道を踏み外した瞬間、私はあなた様を心の底から軽蔑するでしょう。それだけは肝に銘じておいてください」


 わざわざ人差し指を立てて忠告してみる。すると、殿下は前髪をくしゃりとかき上げて苦笑した。


「じゃあ、過ちを犯さないように見張っててくれ。俺はすぐ冷静さを欠いてしまう。だから、第三者の忠告は必要だ。今回みたいに、道を踏み外しそうになったらお前が止めてくれ」


「わかりました。手段選ばずそうさせていただきます」


「おぉ怖っ」


 そこでやっと、二人とも顔を見合わせて笑った。そのタイミングで、おじいさんがひょっこり顔を出す。


「痴話ゲンカは終わりましたかな?」


「痴話ゲンカじゃない!」


「そうですか、そうですか」


 おじいさんは殿下のツッコミを、ヒャヒャヒャ、と笑って受け流す。きっと本気にされてないし、おじいさんもからかっただけなんだろう。そういうことにして、あえて私は何も言わなかった。


「ここにある品物は、すべて魔法具ってわけではないんですよね?」


「もちろんじゃ。魔法具はほんのちょっとじゃよ。なんせ、わしが趣味で作った物じゃからのう」


「えっ!? おじいさんが趣味で手作りした物なんですか」


「そうじゃよ。気に入ってもらえたかの」


「ええ、かなり。うちの護衛が大絶賛してましたよ。性能がすごく良いのに魔力消費が少ないから、とても良質な魔法具だって。普通ならゼロがもう一つ多くても納得の値段だとも言ってました」


「そうかい、そうかい。そんなに褒めてもらえると、この歳になっても嬉しいねぇ」


 そう言って、おじいさんはまた笑う。まさかここに置いてある魔法具がおじいさんの手作りだったなんて。ロゼッタに教えたら、さすがの彼女も驚くかもしれない。


「そうか、確かお前ロゼッタとお揃いの魔法具持ってたんだったか」


「そうですよ。あの指輪、ここで買った物なんです。なんなら殿下もお一ついかがですか?」


「俺はあんまり魔法具は好きじゃないんだ。便利だとは思うが、あまり良い噂を聞いたことがないし」


「噂?」


「どんな願いも叶える魔法具とか、過去に戻れる魔法具とか、死者を蘇らせることができる魔法具とか。そんな代物がこの世界には眠ってるっていう噂だよ」


「それって本当に存在するんですか!?」


「んなわけねーだろ。そんなもんが存在してたら誰も死なないし、みんな過去へ戻って歴史変えまくってるだろ。でも実際は、誰かが生き返ったという話は聞かないし、過去へ戻ったという事実も聞いたことがない」


「なるほど、だからあくまで噂なんですね」


「そういうことだ。信じる方がバカげてる」


 殿下が呆れ顔でそういうと、おじいさんの眉毛が僅かに動いた気がした。


「確かに、実際に目の当たりにしないと信じられないかもしれませぬが。それが存在しないという証明もできぬはず。何故なら、今この世界軸がもしかしたら過去を変えられた後の未来だとしても、誰もその事実に気づきようはないのですから」


「それは……っ」


「つまり、おじいさんはそれら噂の魔法具がこの世に存在していると信じていらっしゃるのですね?」


「まあ、作り手側の意見としてはのう、自身の腕が上がれば上がるほど、もっと高みを目指したくなるものじゃよ。その魔法具師……つまり魔法具の作り手が優秀であればあるほどのう。そういう奴に限って己を過信し、そして最後に行き着く先は、踏み越えてはならぬ禁断の神の領域じゃ。そこへ行き着くためなら手段を選ばぬ悪魔と化す。そういう輩がいる以上、そんな眉唾モノな魔法具が存在してもおかしくはないのかもしれませんのう」


 それまで陽気だった雰囲気から一変して、おじいさんの声色が真剣味を帯びる。そのあまりの迫力に私も殿下も思わず言葉を失った。


 そんな私達二人の様子に気付いたのか、おじいさんは額に手を当てて、ひゃひゃひゃ、と笑い出す。


「いやいや、すまんのう。脅かすつもりはなかったんじゃよ。ただのジジイの戯言と思って聞き流しておくれ」


「いや、あまりに真剣なんでビックリしましたよ」


「まるで、近くでその悪魔を見てきたかのような語り口調だったからな。思わず信じそうになった」


「いやー、それはすみませんなぁ。お詫びに、気に入った商品一つだけ半額にオマケしてあげますから。それで許してくだされ」


「さすが商売人。タダではあげないんですね」


「これで生活しておるからのう」


 そう言って、ひゃひゃひゃ、とまた笑う。食えないじいさんだ。


「どうします、殿下」


「お前が決めろ。俺は特に欲しい物なんて無いし」


「いえ、しかし……」


「いいから決めろ」


「そうですか。じゃあお言葉に甘えて」


 こういう時はあまり遠慮しない方がいい。遠慮しすぎると、かえって上司に恥をかかせてしまう。これは社会人になって学んだことの一つだ。


 とはいえ、欲しい物と言われてもすぐには思いつかないわけで。何にしようかと悩みながら店の中を歩き回る。レインハルト殿下とエミリアはというと、もう店には残っていなかった。


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