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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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これがあなたの主人なの?

 昼食後。私達は別の部屋に集まっていた。


 今回はテーブルがセッティングされ、目の前には香りの良いハーブティーが置かれている。どうやら、ノアが心が落ち着くようなハーブを選んで、アンナさんと一緒に淹れたらしい。その方が話しやすくなるでしょ、という彼なりの優しさなのだろう。


 姉妹とエミリアはまだ来ていない。エミリアとアンナさんは、姉妹の様子が心配だからと一緒に昼食を食べるといってくれた。もしかしたら、まだ二人は心の準備ができていないのかもしれない。


 ジルとルイーズには、無理に参加しなくてもいいと言ってある。嫌なことを思い出すかもしれないからと。それでも、彼らは真実が知りたいとこの席に同席していた。


「あーあ、僕も二人と一緒にご飯食べたかったなぁ」


「そりゃ無理でしょ。あんたここの当主の息子なのよ? そんな貴族と一緒にご飯なんて、緊張して落ち着いて食べられないでしょ」


「え、そう? たまに使用人のみんなと食べたりするけど、みんな楽しそうだよ」


「それは、ここのみんなはあんたの為人を知ってるから。気心が知れてるっていうのかな。でも、エマとイネスは違うでしょ。それくらい空気読みなさいよ」


「えー、考えすぎじゃない?」


 そう、最初ノアもエマ達と一緒に昼食を摂ると言い出した。エマの情緒も不安定だし、イネスの体調も気になるからと。ただ、さすがにそれはマルセル様の許可が下りなかったのと、エマ達の顔が引き攣っていたのとで、あっさりと却下されたのだった。


「こういう時は、同じ立場の人間の方が落ち着くからいいのよ。エミリアだって、任せてください、って言っていたでしょ」


「それに、アンナさんも一緒なら心配いりません。彼女なら人生経験も豊富ですし、貴族に仕えている者同士、分かり合える部分もあるのではないかと」


「そりゃそうかもしれないけどさぁ……」


「じゃあ、はっきり言ってあげる。あんたじゃ役不足。邪魔。鬱陶しい」


「せめて、もっとオブラートに包んでよ……」


 ノアがしおしおと肩を落とす。その時、やっとエミリアと姉妹が部屋に入ってきた。


「遅くなって申し訳ありませんでした!」


「殿下を待たせるとは何事か」


「いいんだ、ギャレット。俺をそんな傲慢な奴に仕立て上げないでくれ」


「そういうつもりでは……っ」


「冗談だよ」


 レインハルト殿下がクククっと笑う。なるほど、レインハルト殿下はギャレット様のあしらい方がお上手らしい。


 エマとイネスは、入りづらそうにドアの前で立ち止まっていた。エミリアは、そんな姉妹二人の背中を押して中へと誘導する。


「大丈夫ですよ。何も心配することはありません。私の信頼する方達は、きっとあなた方二人を悪いようには扱わないと私は信じています」


「あら、エミリアも腕を上げたわね。いつの間にそんな牽制の仕方を覚えたの?」


「私の仕える主人は、一癖も二癖もある方ですから。それで自然と身についたのかもしれませんね」


「前はこんな子じゃなかったのに、きっと師匠の悪い影響を受けたんだわ。今すぐ師弟関係を解消した方があなたのためよ、エミリア」


「はいはい、いいから大人しくしててください」


「ロゼッタの私に対するあしらい方が雑っ」


 いつも通りギャアギャア騒ぐと、エマとイネスは何事かと口をポカンと開けていた。


「……これがあなたの尊敬する主人なの? 私にはただのバ……騒がしい令嬢にしか見えないけど」


「エマ、あんた今私のことバカって言おうとしたでしょ」


「事実ですから」


「あんたが言うな!」


 ロゼッタに鋭いツッコミを入れる。すると、エマはわざとらしくため息をついた。


「バカらしい。イネス、座りましょう」


「う、うん」


 ドアの前で立ち止まっていた彼女から一転、エマは少し前までの調子を取り戻したようだった。それを確認して、エミリアが私に笑いかける。私は肩をすくませてそれに応えた。こういう利用のされ方は嫌いじゃない。


 もうほとんどの人は席に座っていて、一番最後はエミリアだった。彼女が座ったのを確認して、今回はレインハルト殿下がこの場を仕切り始める。


「さて、昼前の話の続きを始めたいところだけど。その前に、ここにあるハーブティーは、ノアがみんなのために淹れてくれたものだ。そうだよね、ノア」


「はい。良い匂いには、心をリラックスさせる効果があります。だから、ちょっと落ち着かなくなったら是非飲んでみてください」


 ノアが、主にエマとイネスに向かってそう説明する。イネスはカップの中に鼻を近付けて匂いを嗅ぐと、「いい匂い」と小さく呟いていた。


「そんな話はいいから、早く続きを始めろ」


「もう、ラインハルトは短期だな。わかったよ」


 そう言ってハーブティーを一口飲んだ後、レインハルト殿下はその顔を引き締めた。


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