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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第五章 常闇のドラゴンVS極悪令嬢

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偽物

「あ、着いたよ」


 ノアの声でハッと我に返る。すると、目の前に兵士が立っている部屋が見えた。ノアがその監視役の兵士に声をかける。


「監視役ご苦労様。二人の様子はどう?」


「はっ。特に問題ありません。ただ、夜中も咳き込む音がずっとしておりました」


「そう、なんだ……わかった。ありがとう」


 労いの言葉をもらった兵士は、お礼を言う代わりにノアに向かって敬礼をしてみせる。そしてドアから離れた。ノアは私達に目配せをして、入るかどうか確認する。女性三人は揃って頷いた。それを確認し、代表してノアがドアをノックする。一呼吸置いて「どうぞ」という女性の声が聞こえた。


「ノアです。イネスに薬を持ってきたんだ。入ってもいいかな?」


「薬を? ですが……」


「どうぞ……ゴホッ、ゴホッ」


「イネスっ」


「入るよ」


 イネスの咳き込む声を聞いて、ノアがエマの許可を取る前に迷いなく部屋へと入っていく。イネスはベッドから起き上がって咳き込んでいた。その彼女の背中をエマがさすっている。それは本当に病人を看病する絵面そのものだった。


「何かご用ですか?」


 エマが警戒の色を濃くする。それもそうだろう。いきなり四人も部屋に現れたのだ。しかも、そのうちの一人はこのお屋敷の子息。警戒してもおかしくはない。それでも、ノアの視線は真っ直ぐイネスに注がれていた。


 イネスは、よく見れば顔色も悪く頬も少しやつれている。呼吸も苦しそうだ。そんな彼女の容態を見て、真っ先にノアがベッドへ駆けつけた。


「顔色も悪い、咳も続いてるし、ヒューヒュー音も聞こえてる。このままじゃ本当にいずれ呼吸困難になるよ。早く医者に診せないとっ」


「お医者様には診てもらっています。薬だってもらってる。だから放っておいてください」


「薬を飲んでてこの状態なんておかしいよ! ほんとに医者に診てもらってるの? 僕には君が彼女の病気を軽んじてるようにしか見えないよ」


「なにをっ……そんなわけないでしょ! イネスは唯一の家族なの。だから彼女のために私は、私は……っ」


「私は、何?」


「それは……っ」


 エマはしまったという風に口をつぐむ。その先は言ってはマズイことなのだろう。


 お互い睨み合いが続く。すると、このままでは埒があかないと踏んだのか、アンナさんが二人の間に割って入っていった。


「あなたがイネスさんを大切に想っていることはわかりました。ですので、医者に診せているという証拠を見せてもらえませんか?」


「証拠?」


「処方されたという薬を見せてください。こう見えても、私とノアお坊ちゃまは薬に関してある程度の知識を持ち合わせております。ですので、イネスさんの処方されたお薬がどのような物なのか確認させてくださいませんか?」


「それは……」


「どうぞ」


 そう答えたのは、苦しそうに胸を押さえているイネスだった。


「イネスっ」


「いいの、お姉ちゃん……。私も、ちょっとおかしいと、思ってた……ゴホッ、ゴホッ。確認、していただけませんか?」


「私達でよろしければ」


 イネスは頷く。そして、小さなブリキの箱から三角形に折られた白い包みを一つ取り出した。それをアンナさんへと手渡す。


 前世ではめっきり見かけなくなった薬の包み方。手のひらサイズの正方形の紙の真ん中に粉薬を置いて、それを三角に包んでいくのだ。子どもの頃、田舎の診療所のおじいちゃん医師がよくこうして薬を渡していたのを思い出した。


「失礼します」


 アンナさんは丁寧に包みを解いていく。すると、真ん中に白い粉が現れた。ノアとアンナさんはその粉を小指で掬うと、なんの躊躇いもなくそれをペロリと舐める。そして同時に顔を顰めた。


「ノアお坊ちゃま、これは……」


「うん、薬じゃない。ただの粉だね」


 二人の出した意外な答えに、エマが慌てて反論する。


「そんなまさか! だって、お医者様はこれは高価でよく効く薬だからって……っ」


「騙されたんだよ、その医者に」


「……は? 騙された?」


「たぶん、これ小麦粉かなんかじゃないかな。バレないように上手く細工してるみたいだけど、普段から色んな薬を試してる僕達の舌は誤魔化せないよ」


「私もそう思います。これを飲み続けても、良くなることはありません」


「そんな……っ」


「やっぱり、そうだったんですね」


 打ちひしがれるエマとは対照的に、イネスはどこか納得しているような口ぶりだった。


「イネスはわかってたのね、この薬が偽物だって」


「確証は、ありませんでしたが。服用しても、一向に良くなる気配が、なかったものですから……ゴホッ。もしかしたら、そうじゃないかと」


 そこまで言って、イネスは激しく咳き込む。それでもエマは、彼女の背中をさすることはしなかった。顔を真っ青にして、そのまま膝から崩れ落ちる。


「そんな、騙されてたなんて……。それじゃあ、私はいったい何のためにあんなことを……」


「その話は後でみんなの前で聞かせてもらうわ。でも今はイネスの体調の方が大事」


「……え?」


「言ったでしょう? 薬を持ってきたって。そうよね、ノア」


「ああ。アンジェリークの言う通りだよ」


 そう言うと、ノアは例の小瓶を目の前にかざした。


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