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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ロゼッタのしたいこと(ロ)

 私の回答に満足したのか、アンジェリーク様は「よしっ」と掛け声をかけて立ち上がる。そして、ルイーズ達の後を追って歩き始めた。


「お休み取ってみてどうだった?」


「落ち着きませんでした。離れているせいか、余計にアンジェリーク様のことばかり心配してしまって。全然休めませんでした」


「ありゃ。休みの日に仕事のことが頭から離れないのはよくないわ。心が疲れちゃうよ」


「ご心配には及びません。そんなか弱い精神力ではありませんから。私を誰だとお思いですか?」


「五歳の暗殺者」


「結構。ですからお気遣い無用です」


「ええー。でもさ、ロゼッタだってたまには私の護衛から離れて自分のしたいことやりたくない?」


「私のしたいこと?」


「そう。今回みたいに護衛をやめるかどうかのお休みじゃなくて。ちょっと気分転換にお休み取って誰かに護衛任せるっていうことなら、私だって反対しないし。たまには自分の時間楽しみなよ」


「そう言われましても、特にしたいことなどありませんし……」


 そこまで言って、ふとアンナさんとのお茶の時間のことを思い出した。


「そうですね、今回初めてお休みをいただいて、アンナさんとお茶をする機会に恵まれたのですが。あれはとても有意義な時間でした」


「へえ、アンナさんとお茶したんだ」


「ええ。コーヒーの淹れ方を教わるついでに。アンナさんの大人な振る舞いには好感が持てましたし、彼女の作る穏やかな空気感は好ましい。趣味思考も合っているようで会話していても楽しかったですし。つい自分から次のお茶会をお誘いしてしまいました」


「ロゼッタから誘うなんて珍しい。よっぽどアンナさんとのお茶会は楽しかったのね」


「はい。これは、アンジェリーク様から離れてみたからこそ得た新しい発見です」


「良かったじゃない。じゃあ、今度からお休み取ってアンナさんとお茶してきなよ」


「そうですね、たまには気分転換に良いかもしれません」


 アンジェリーク様と出会ってから、新しい発見ばかりだ。知らなかった自分がどんどん引き出されていく。でも、それが嫌じゃない。どこか嬉しくもあり、心地良い。


「こんな風に新しい発見ができたのも、すべてアンジェリーク様のおかげです。あなた様のおかげで私自身が変わり、そして影響を受けた周囲の環境が変わり、その周りにいる人達にも変化をもたらした。アンナさんとのことがいい例です」


「そうね、私もそうだと思う」


「謙遜しないところがアンジェリーク様らしいですね」


「だって本当のことだもん」


「ええ、ですからあえて否定しません。私をそばに置いてくださり、こんな風に変えてくださってありがとうございます」


「それは私だけのおかげじゃなくて、ロゼッタ自身の力だと思うよ」


「私自身の?」


「うん。だって、少し前までは人に裏切られるのが怖くて遠ざけてたのに、気付けばルイーズやエミリアを弟子にとったり、今みたいにアンナさんとお茶してみたり。いつの間にかその恐怖を克服してるんだもん。だから、今のこの状況は半分以上ロゼッタ自身が勇気出して頑張った結果だと私は思うな」


 思わず見上げたアンジェリーク様の笑顔が、太陽の光に照らされて淡く揺れる。その木漏れ日のような優しさに、ふと母親の面影が重なった。


 あの殺伐とした幼い日々の中、唯一私に優しさを与えてくれた母。私の唯一の拠り所。大好きだった大切な家族。


 ああ、そうか。アンジェリーク様の隣が居心地良いのは、こういうことだったのか。


「ロゼッタ?」


「……いえ、なんでもありません」


 アンジェリーク様は「そう?」と言って再び前を向く。そんなアンジェリーク様の無防備な右手を、私は小さな手でそっと握った。アンジェリーク様は静かに驚いていたけれど、振り払うこともからかうこともしなかった。


「私がしたいことは、アンジェリーク様のおそばにいることです」


「いや、だからそれは……」


「アンジェリーク様のおそばにいて、嬉しかったことや悲しかったこと、そこで起きたことや何気ない日常など、その時のすべての感情や思い出を共有することです。そしていつか、それらを思い出して二人で笑い合いたい。それが私のしたいことです」


 今までは、過去を振り返るようなことは極力避けてきた。幼い頃の記憶など思い出したくもなかったし、良い思い出など微塵もない。アンジェリーク様に出会う前の自分などまるで地獄のようだったから。


 それでも、アンジェリーク様と出会ってから、不思議とそれまでを振り返るようになった。最初は直近のアンジェリーク様との出来事を、その延長でズルズルと出会ってから護衛になるまでを回想する。すると、何故かいつも笑みが溢れるのだ。


 アンジェリーク様に怪我を負わせてしまった不甲斐ない自分も、アンジェリーク様が生死を彷徨うほどの高熱を出した時も、あの時感じた負の感情ごと懐かしく思えてしまう。特にアンジェリーク様と一緒に振り返ると、どんな辛かった経験もいつも笑って思い出してしまうのだ。そんな奇跡のような素晴らしい体験を、もっとアンジェリーク様と一緒にしていきたい。二人で笑い合っていきたい。この先もずっと。そうしたら、いつか地獄のようだった子どもの頃からの自分も笑ってあげられるような、頑張ったと褒めてあげられるような、そんな気がするのだ。


「思い出を共有、か。確かにそれいいかも。ロゼッタと出会ってからのこと思い出すと、なーんか不思議と辛かったことも笑い話になっちゃうのよねぇ。それってつまり、楽しかった思い出に上書きされたってことでしょ? それが増えたら幸せよね」


「上書き、ですか。アンジェリーク様らしい発想です」


「ポジティブシンキングと言って」


「意味がわかりません」


「はいはい」


「はい、は一回にしてください」


「……人のセリフ取んなっ」


 アンジェリーク様のひと睨みを、すました顔で受け流す。このいつものやりとりが今日はなんだか特別に思える。


 少し先では、ルイーズが魔法を使って土を操り穴を塞ごうと頑張っていた。ジルも、ギャレット様も、そしてついていった兵士達も、その様子をただ眺めている。そして再び拍手が起こったタイミングで、アンジェリーク様が私の手を握り返してきた。


「いつか、私と出会う前のロゼッタの過去の話も聞かせて。知りたいのよ、あなたのこと全部」


「いいですよ。ただ、あまり面白い話ではありませんが、それでもよろしいですか?」


「うん。ちゃんと全部受け止めてあげる。あなたの主人として」


「そうですか。それは楽しみです」


 そう言ってお互い微笑み合う。


 どうしてだろう、あの頃のことは思い出したくもないはずなのに。私はアンジェリーク様の隣で、昔の記憶を呼び起こしていた。


第四章はここで終わりになります。そして、ロゼッタ視点も一旦ここで終わりにします。

あの流れでロゼッタの過去へ……といきそうな最後でしたが、いきません。考えていないというわけではないのですが、また今度ということで。


それよりも、話のストックが残りわずかになってきました……(汗)

ヤバイです、めちゃくちゃヤバイです。毎日更新を始めてからもう少しで一年になるのにーっ!

なんとか頑張るつもりではいますが……。

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