嬉し泣き(ロ)
「あーあ、みんな行っちゃったね」
「そうですね」
「ちゃんと反省しなよ? あと、ルイーズにきちんとお礼言うこと」
「もちろんです。ですが、あなた様も反省してくださいね。元はと言えば、すべてアンジェリーク様がお屋敷を脱走したのが悪いのですから」
「いちいち言わなくてもわかってるわよ」
不服そうにアンジェリーク様は唇を尖らす。その後で可笑しそうにクスクス笑った。
「どうして笑うのですか?」
「いや、あまりにもいつも通りで安心したっていうか」
「安心?」
すると、驚いたことに、アンジェリーク様の頬に一筋の涙が静かに流れ落ちていった。
「何故泣くのですかっ?」
「え?」
私に言われて初めて気付いたのか、アンジェリーク様は頬を撫でる。そして、その手が濡れていることに驚いていた。そのまま、涙が後から後から溢れていく。ついにアンジェリーク様はしゃがみ込んでしまった。
「アンジェリーク様、大丈夫ですか?」
「ごめっ……なんか、止まんなくて……っ」
「申し訳ありません。私が何か気に障るようなことを申しましたでしょうか」
「違う、の……これ、たぶん嬉し泣き」
「嬉し泣き?」
「だって、もし、このままロゼッタが、私の護衛やめちゃったら、どうしようって、不安だったから……っ」
「アンジェリーク様……」
「でも、戻ってきてくれた……だから嬉しいの」
涙を拭いながら、アンジェリーク様はそう笑いかける。そんな姿が愛おしくなってしまって。私はたまらずアンジェリーク様を抱きしめていた。
「不安にさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。ですが、もうご安心ください。私は、何があってもアンジェリーク様の護衛はやめません。もう誰にもあなた様の隣を譲ったりはいたしませんから」
「本当?」
「ええ、本当です。ご存知ないのですか? 私の居場所は、アンジェリーク様のおそばにしか存在しないのですよ。離れることなどできるはずがありません」
「だったら、今回みたいなことはもう二度とやめて。自分は護衛に相応しくないとか、そんなこと二度と思わないで。あなただけなのよ、私の命だけじゃなく、この心まで守ってくれる存在は」
「心、ですか」
「そう。今回改めて思い知ったの。ロゼッタは他の人達と違って、心配しつつも、私の心を優先して守ってくれてたんだって。そんなことができる護衛は、世界中どこ探してもあなただけなんだから」
「そうでしょうね。あなた様の自由を守りつつ護衛を行えるそんな器用な人間は、人類最強である私くらいなものでしょう。今回の件で改めてそう自負いたしました」
「うわ、自慢」
「事実ですから」
すました顔でそう答えると、アンジェリーク様がクスクス笑った。その笑顔が嬉しくて、私もつられて笑う。なんとも心地良い瞬間だった。




