相当危険な内緒話(ロ)
「それにしても、いったいどこのどいつが彼女達の命を狙ってるんでしょう」
「うーん、ヒントはいっぱいあったと思うんだけど……」
ジルの問いにアンジェリーク様も思案にふける。
そう、ヒントはいっぱいあったはず。思い出せ、彼女達にまつわるありとあらゆる話題を。
その時、アンジェリーク様のメイド服を見てとある話を思い出した。
「ヘルツィーオ……」
「え?」
「もしかして、彼女達の命を狙っているのは、ヘルツィーオ軍なのではないですか?」
グエンの目が大きく見開かれた。そして、彼の首が重力に逆らうことなく上下運動を行う。どうやら当たりのようだった。
「ヘルツィーオ軍だと!? どうしてわかった?」
「メイド達が話していたんです。イネスに水を持って行った時、エマの荷物からヘルツィーオ軍のエンブレムが見えたと。実際にヘルツィーオに行ってエンブレムを見たことのあるメイドの話ですから、あながち間違いではないかと」
「なるほど。奴らはヘルツィーオの軍人だったというわけか」
ギャレット様の眉間にシワが寄る。エマは魔法が使えていたから、その時点でその可能性にも気付くべきだった。ただ、彼女達があまりにも軍人らしくなかったため見落とした。きっと、彼は今私と同じことを考えているのだろう。
「私としたことが。常闇のドラゴンに賞金を懸けられる相手という時点で、ロイヤー子爵を疑うべきでした」
「あの姉妹が、ヘルツィーオの軍人だったなんてね。そんな風には見えなかったのに」
「ジルやルイーズですら私兵なのだから、べつにおかしくはないだろう」
「そりゃそうですけど……」
「あとは、彼女達が子爵に何をやらされたか、ですね」
私が核心を突くと、みな再び神妙な顔をして黙り込んだ。すると、見かねたグエンがヒントを出す。
「天然ドリルがカルツィオーネに来てから、何か変わったことはなかったか?」
「あんたね、私はアンジェリークって言うの。その呼び方やめなさい」
グエンは返事を返さない。質問に対する答えにしか返事を返さない気だ。アンジェリーク様もそう感じたのか、ため息をついて諦めた。
「アンジェリーク様がカルツィオーネに来てから変わったこと……」
「私達孤児と出会った」
ルイーズの答えに、グエンは「そうか」と反応を返す。明らかに違うのだろうが、彼女はまだ子どもなので優しくしたのだろう。そのままの流れでジルが口を開く。
「ロイヤー子爵んとこのヤニスに襲われた」
「それも関係している」
「殿下達がカルツィオーネのクレマン様を訪問した」
「それも関係している」
「カルツィオーネに来てから色んなことがありすぎて、どれがどれだかわかんないんだけど」
「確かに、あなた様は世界一のトラブルメーカーですからね」
「嫌味言われたっ」
「言いたくもなります。ヤニスに襲われた件といい、私のために殿下達を敵に回すような発言をしたり、山火事の中ジルやルイーズを助けに行ったり。それに盗賊にまで命を狙われるなど、こんな貴族の令嬢聞いたことありません」
「嫌味が説教に……」
まだ何か言いたそうなアンジェリーク様の言葉を遮り、グエンが「それ」と口を挟む。
「それとは……盗賊の件ですか?」
「違う」
「じゃあ……山火事?」
アンジェリーク様の答えにグエンが頷いた。
「彼女達は山火事に関係してるの?」
「ああ。お前達は、あの山火事はどうして起こったのか知ってるか?」
「ええ。一応仮説は立てています」
「自然発生的なものじゃなく、誰かが放火した可能性が高いって……」
すべてを言い終わる前にグエンが頷く。そして、アンジェリーク様と私とギャレット様はハッと息を呑んだ。
「え……ウソでしょ?」
「なるほど、そういうことでしたか。それは相当危険ですね」
「これは、彼女達に直接話を聞く必要がありそうだ」
ギャレット様の凍てついた瞳が森の遥か先を睨みつける。その方角には、ダルクール家のお屋敷があった。




